燃えた。
連載5日目になりました!
この小説を読んでもらえて嬉しく思います。
「俺に逆らったらどうなるか思い知らせてやる。 僕を誰だと思ってるんだ社長だぞ、僕の所有物が文句言ってんじゃねーよ。死ね苦しんで死ね燃えろ燃えろ。」
そうブツブツ呟きながら、俺の服を燃やしている社長の目は
死んでいた。
満足そうに服を燃やし終え、近くに立っている俺に気付いた社長は、悪びれたり言い訳をする、といった行動は一切せず真顔で話しかけてくる。
「君、無断欠勤したから、クビ、いらないからもう来なくていいよ。」
「え……。」
もっと他に言うべき事があるんじゃないかと思ったし、無断欠勤について抗議したかったが、目の前の光景を見て何も言えなくなった。
相手にするのも疲れると思い、頭だけ下げて帰ろうとする俺に何か思い付いたらしく社長が引き留める。
「おい、会社の作業服を着て帰るな! 会社の物は、会社に返せ!警察を呼ぶぞ!」
社長の大声に他の従業員が集まってくる。
「早く脱いで帰れ!」
俺は、泣くことも声を出すことも出来なかった。
服を脱ぎパンツ一枚になり背中を丸めて帰る。
後ろからは、社長と従業員の笑い声がいつまでも響いた。
しばらく、とぼとぼ歩いて帰ると道行く人に指を指され、笑われ蔑まれ、手を差し伸べる人など一人もいない。
当たり前だ、みんな面倒ごとに関わりたくないのだろう。
一歩引いた安全な位置から、他人の愚かさ不様さを見て自分のたち位置の良さを再確認する。
「こんな世界、嫌いだ。」
絶望の淵に立つ俺に、小さな手が差し伸べられる。
「…………どうして。」
そこには、無言で手を伸ばす娘がいた。
どこか、悔しそうな顔をしてるように見える。
伸ばした手を掴むと娘は、手を引っ張り来た道を戻る。
「何処に行くんだ。」
無言のまま俺を何処かへ連れて行こうとする。
途中で気付いたが、会社についた。
そこには、笑顔で帰ろうとする社長と見送る従業員達がいた。
突然、娘が社長の元へ走り出し突き飛ばす。
娘の突然の行動に驚き止める事が出来ない。
「謝れ!! 水無月さんに酷いことをするな! 水無月さんは、凄く優しくていい人なんだ! お前何かの玩具じゃない! 今すぐ謝れ!!」
更に驚いたのは、出会って一度も喋らなかった娘が、こんな俺何かの為に、泣きながら社長に怒ってる。
「いきなりなんだこのクソガキ! ぼさっと見てないで車に積み込め!」
言いなりの従業員は、娘を掴み車に乗せようとする。
「止めて! 私に触るな!や、止めて~!」
「暴れるな! 大人しくしろ!」
「いや、きゃー!」
「止めろ! 娘に触るな!」
俺は、娘を連れ去ろうとした従業員を掻き分け娘の元へ向かう。
パンツ一枚なのが功を奏し誰も俺を触りたがらない。
カッコ悪いが、娘を救い出すことが出来た俺は、娘を抱えながら一生懸命逃げた。
後ろからは、社長の「絶対、後悔させてやるかな!覚悟しとけー!」と激怒した声が聞こえる。
逃げた
汗にまみれ、喉が枯れ、足がしびれる。
それでも、走り続けた。
俺の為に泣きながら戦い、俺を心配で後をつけて見守って、俺を不器用に支えてくれた娘を失いたくない。
その一心で逃げた。
どれくらい走っただろうか、誰も追いかけて来ていない。
安心して立ち止まり娘をおろす。
「こんな姿を見られたら警察が来ちゃうから、早くお家に帰ろう。」
「ありがとう。 助けてくれて。」
「俺の方こそ感謝して止まないよ。 ありがとう。」
不安なはずなのに、二人とも笑顔で家へと歩く。
もう、夕暮れだ。
早く帰ってシャワーを浴びたい。
俺たちは、家に帰りつきお風呂に入り、ご飯もそこそこに泥の様に眠った。
夜中、不自然な灯りと暑さ、娘の騒ぎ声に目を覚ます。
「な、なんだこれは!」
部屋が燃えていた。
荷物も持たず、娘と命からがら逃げ出した。
もし、娘が起こしてくれていなかったら、間違いなく死んでいただろう。
俺達の住んでいた小さな家は、あっという間に炎に包まれ倒壊してしまった。
燃える家の前で泣き崩れる娘の声だけが、静かな夜に響いた。