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変身英雄  作者: 白烏黒兎
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第七章 金策でアルバイト

 目の前に湯飲みが置かれる。

 緑茶の香りが湯気と共に鼻腔を擽る。

 茶菓子が無いのは残念だが、この後を考えると仕方がない。

「申し訳ありませんがこちらで少々お待ち下さい」

「ああ、いえ。お気になさらず」

 一礼をして部屋から出て行ったのは白衣の天使(ナース)

 そこは応接室。

 足繁く通っているせいか見慣れてしまった風景。

 必要最低限の物しか置かれていないが、殺風景には感じない。

 それどころか清潔感を感じてしまうのはここが病院だからか。

 彼、榎戸結希は茶を啜りながら寛ぐ。

 ……うーん、やっぱり小夜さんの淹れたお茶の方が美味しいな。

 以前と味は変わらないが、ここ数日で舌が肥えてしまったせいで印象は違う。

 彼女らの本職を考えれば当たり前の事ではあるが、不満が出てしまう。

 ……料理だって下手すると学食より美味しいのが凄いよな。

 学園の食堂には調理部の学生が混ざって働いているとはいえ、味は並みの飲食店と同等以上に美味しい。

 それを越えるというのだから、彼女の腕はプロフェッショナルと言っても過言ではないだろう。

 過去に食べた小夜の料理を思い浮かべていると部屋の扉が開いた。

 そこに居たのは白衣を着た男。

 外見としては四十代後半に見え、実年齢もそうであったと思う。

 皺が刻まれた丸い顔は柔和であり、見る人間に安心感を与える。

 実際、実力も人気もある医者である。

 席を立って挨拶をする。

「お邪魔しています」

「申し訳ない、待たせてしまったようだね」

「いえ、のんびり寛がせてもらいましたから気にしないで下さい。安立(あだち)先生」

 安立と呼ばれた医者と向かい合わせで席に座る。

「来て早々だが、これが今日のメンバーだよ」

 安立が差し出したフォルダを受け取る。

 挟まれたA4用紙は厚く、ずっしりと重さを主張している。

 用紙をパラパラと捲る。

 内容はそこまで関係がないので流し読みだ。

「今日は多いんですね」

 用紙の一枚一枚に記入されているのは個人情報。

 名前に年齢、簡単な経歴と成績だ。

 簡易とはいえ、流出するのは不味いものではある。

 本来なら一学生に見せるものではない。

「あれ? 今日は島外からも来ているんですか」

 経歴には現在所属している教育機関の名も書いてはあるが、流し読みしただけでも複数あるのが分かる。

「一般人からすれば能力者だらけの町なんて怖い筈なのに……よくこんなに集まりましたね」

「確かに一般の人にとっては“学園島”は敬遠しがちな場所だけどね。安心して経験を積めるというのは金銭に換えられない機会だからだよ。これでも結構人数を絞った方なんだよ?」

 この島に住むのは老いも若きも大半が能力者か、その関係者である。

 その気になれば甚大な被害をもたらす事の出来る人間が闊歩しているわけだ。

 銃器や刃物といった目に見えて取り上げられる様な物ではない。

 個人個人に宿り、見えず取り上げる事ができない能力。

 身一つで振り回す事のできる暴威は、非能力者である一般人から恐怖以外の何者でもない。

 抗うための能力(ちから)が無いのだから。

 結果として超人である能力者達が集まる島というのは、何時爆発するか分からない不発弾が積み重なっているように見える。

 というのをインターネットのどこかで見た気がする。

「一応、外部に影響する能力者には制御装置のアクセサリーを付ける義務がありますけれど……、外にあまり伝わってないんでしたっけ?」

 腕輪や耳飾等、形状は様々であるが基本は身体に装着するのが義務である。

「ネットの学園島公式ホームページ等には載っているけれどね。やっぱり、マスコミによる内情の発信が少ないせいだろう。情報規制があるとはいえ、そこまで厳しくは無いというのに」

「そういえば、学園島内に関するニュースってあんまり見ませんね」

 新聞、テレビ、ネットワーク。

 主な情報源を見渡しても学園島に関する情報は目に見えて少ない。

 島外の事故や行事などのニュースは山ほどにあるが、島内については見かけない。

「近くにある“武島祭”や、自衛隊が学園の演習場を借りて行う“総合火力演習”のような大きな行事は国の意思もあって大々的に宣伝しているけれど、自治会の行事とかは完全に無視しているからね」

「大人の事情ってやつですかね?」

「まぁそんなところだろう。能力者に対して否定的な人間はまだまだ多いのもあるだろうけれどね」

 能力者の立場というのは微妙なものではある。

 個人であっても能力を十全に振るえば、状況に寄るが並みの軍体と同等の脅威だ。

 能力者同士が組織だって反抗すれば、国を相手取る事もできるだろう。

 そうなってしまうと、決着が付くまで果てしない戦争になってしまう。

 それは能力者の総意ではない。

 かと言って、国に能力による恩恵を当たり前の様に提供するのも違う。

 アレが出来るから、コレが出来るから、と奴隷の様に働かされるだろう。

 水や鉱石物質を生み出せるのなら資源には困らないし、電気や火なんてそれこそ発電機としてこれ以上ない程適当だ。

 そうなれば生かさず殺さずという言葉を体験することになる。

 極端な例ではあるが、ありえない事ではない。

「残念な事に現状の非能力者と能力者、国と島が対等に近い立場というのが面白くない人間は居るからね」

 至上主義者はどちらにでも居るということだ。

「君の能力で利益を得ている私達が言う事ではないだろうけれどね」

「その分の対価を貰っているので俺は問題無いですよ?」

 この一年で下手をすれば億単位で稼せがせて貰っているので文句なんて言える筈がない。

 だが、安立はそれでも不満のようだ。

「さっきも言ったけれど、君の協力で得られるものは金銭に換えられないようなものだ。とはいえ、私達が対価として出せるものは少しの支援とお金しかないというのが歯痒いけれどね」

 流石に結希も安立の言う事は理解できる。

 実感が出来ないだけで。

「正直、こうしてお金に困らない生活ができているだけで十分御の字なんですけれどね」

 学費や生活費を払っても莫大な資金が残っている。

 趣味に使うにしても、総額からすれば微々たるものである。

 他にもこの病院や孤児院等への寄付や公共事業への投資を行ったりしている。

 が、それでも通帳の預金額は一学生にしては多過ぎる。

「他の学生が家族からの仕送りやアルバイトでお金に喘いでいる中、こうして不自由しないってだけで十分過ぎますから。これ以上は高望みが過ぎますよ」

 価値観の違いだ。

 医者である安立と一学生に過ぎない結希では視線が違う。

「君がそれでいいというのなら、こちらもこれ以上は言えないか……」

「まぁまぁ、先生達は経験を積んで嬉しい、俺はお金が貰えて嬉しいのWin-Winの関係で良いじゃないですか。副次的なモノも在りますが、そちらもむしろ希望通りなんで問題無し!」

「……“人”として協力してくれるのが君みたいな子で良かったと心から思うよ」

 安立はそう言って笑うが、どこかぎこちないなのは納得しきれないからか。

 どこか重くなってしまった応接室にノック音が響く。

「失礼します。準備の方ができました」

 やって来たのは白衣の天使。

 告げた言葉に安立は立ち上がる。

「わかった。では向かうとしようか結希君」

「そうですね。それではよろしくお願いします」

 礼をして気持ちを入れ替える。

 アルバイトが始まった。


          ●


 移動した先は会議室。

 この病院で最も大きい部屋は数多く在った机も椅子も全てが撤去されていた。

 替わりにとでもいうように男女混合の団体が並んでいた。

 それぞれが白衣を着ているため医療従事者であろうことは分かる。

 彼らは先程のフォルダに閉じられていた研修生である。

「彼が本日の献体役を勤めてもらう榎戸結希君です」

 安立が前に出て進行を務める。

「本日はよろしくお願いします」

『よろしくお願いします』

 全員が年下である一介の学生に応じる姿は何だか落ち着かない。

「それでは講習を始めましょう、順番に前に出て来てください。結希君はいつもの場所へ」

「わかりました」

 安立に促されて部屋の隅に移動する。

 そこには椅子と机、そして大量の献血用の道具が山積みになっている。

 道具や用紙の整理のため、看護師が何人かサポートとして控えていた。

 講習の度に何度もサポートをしてもらっている人達だ。

 彼らに頭を下げて椅子に座る。

 その後に机に向かって左腕を伸ばす。注射を採血の体勢だ。

 用意が済んだところで目の前に列ができていた。

「これから“輸血用血液の採血”を始めます。では一番前の人から始めてください」

「よ、よろしくお願いします」

 一番最初は男性だ。

 彼らの中でも若い方であり、緊張がみられた。

 だが、ひとたび道具を手に取れば医者としての顔つきになる。

 消毒や道具を扱う手に淀みは無い。

「はい、チクッとしますよー。……はい、お終いです。ありがとうございました」

 気が付けば400mLの血液を抜き取られていた。

 空いた右手で用紙に記入する。

 丸を付けるだけの簡素なものだが、これは一連の流れに対する感想だ。

 受ける側としての視点ということで、彼らの振り返り資料となるそうだ。

 記入項目は少ないが、並ぶ人数が人数だ。

 おまけに二週して一人当たり二回行うので、倍の作業量だ。

 ……観察する側っていうのも大変だな。

 記入するのは感覚的な部分。

 採血時に『緊張が伝わる』や『威圧感を感じた』など、自身の感じた事を記す。

 テスト問題の様に決まった採点方法が無いため、自身の感覚が答えとなる。

 時間を掛けて全員が採血を終える。

 横を見れば、真っ赤に膨らむ400mLパックの列が在った。

 大量にある血液パックは、大型の輸血輸送バッグに詰められていた。

 看護師によって手際よく詰められたバッグはカートに載せられ持ち去られる。

 輸血用の血液に製造されるのだろう。

 ……あれが、今回のバイト代になるんだよなー。

 見送りながら、病院が用意したお手製のジュースを飲む。

 2リットルのペットボトルに入っているそれは野菜ジュースの様な鮮やかなオレンジ色をしている。

 それは造血に必要な栄養素を詰め込んだジュースだ。

 はっきり言って美味しいものではないが、気を利かせて蜂蜜などで味を調えてあるため飲むことはできる。

 ……能力のためとはいえ、美味しくねぇなぁ。

 自身の能力により無尽蔵に再生することはできる。

 だが、再生部位の素材が有るか無いかで負担が変わる。

 欠損部位を補う栄養素等が体内に足りなければ、変換の際に激しい苦痛を味わう事になる。

 不足を補うために因子を代用としているのが原因らしい。

 だが、再生時に必要な栄養素等が体内に揃っているならば、それを消費して再生するためか痛みは大分緩和される。

「はい、それでは二週目を始めます」

 二週目が始まった。


          ●


「あー、まだ腕がチクチクする」

 個室で一人、ゼリー飲料タイプの栄養食を開封しながらぼやく。

 昼食にしては少し早い時間ではあるが、この後に長丁場が待ち受けているための早飯だ。

 近くのゴミ箱には空になった栄養食が大半を占めていた。

 消化、吸収し易い高タンパク質の栄養食は先のジュースと同じく病院お手製の物だ。

 成人病が確定する栄養量を摂取しているが、この後に全てを消費するのが確定しているので問題無い。

 甘いのみで、お世辞にも美味しいとは言えない食事を取っていると足音が聞こえた。

 連続する足音から、何者かが走っているのが分かる。

 足音の主は部屋の前で止まると扉を開けた。

「――食事中に申し訳ない」

 若干息を荒くして入ってきたのは安立だ。

 先程までの柔和な顔ではなく、真剣な面持ちだった。

 顔つきや状況から談笑に来たわけではなさそうだ。

「たった今、交通事故の急患が入った。患者は幾つかの内臓が破裂、消失していて危険な状態なんだ。なのに移植する為の臓器が今病院では不足してしまっている。だが、他所から提供して貰うには時間が足りない。……だから、申し訳ないが臓器の提供をお願いできないか?」

「ええ、構いません。今からでも行きますよ」

 二つ返事で返す。

「結局、この後に移植用の内臓摘出をやる予定だったんです。使われるのが早いか遅いかの違いです」

 容器に残ったゼリーを全て飲み干してゴミ箱に捨てる。

「栄養は十分です。何人でもいけますよ」

「……ありがとう」

「こっちも助けてもらっていますからお互い様ですよ。それじゃあいつもの場所で準備してます」

 安立を置いて部屋を出る。

 駆け足で部屋を出て行く結希の背に安立は呟く。

「どんな人間にも適合する体と血……」

 黄金(golden)(blood)と言う物がある。

 Rh抗原を持たないRh null型という世界でも50人に満たない居ない血液。

 その中でのO型は拒否反応の起こさない誰にでも輸血できる血液。

 その価値は黄金と並ぶと言っても過言ではない。

 輸血先を選ばない血液ではあるが、反面自身への輸血には同じ血液が必要になる。

 与える事は出来ても貰う事は難しい。

 だが、その問題を無視できるのなら?

 血液のみならず、角膜や臓器といった重要部位すら拒否反応のリスク無く誰にでも分け与えられるのなら。

 その人間の価値は同質量の金に勝るとも劣らないだろう。

「まさに黄金の体というわけか。彼の協力で何人が救われたんだろうか」

 手術を行うため自らも移動する。

 今この時も助けを求める者は居るのだから。


          ●


 室内の空気が張り詰める。

 損じれば一つの生命が失われる。

 緊張に包まれるのは手術室。

 手術台に横たわるのは二人。

 一人は年端も行かぬ少女。

 静かに横たわる姿は穏やかに寝ているように見える。

 が、手術台の端から窺える酷く傷ついた四肢が彼女の危機を表していた。

 もう一人は少年、結希だ。

 何も気負うことなく横になっている。

 やる事といえば、内臓を提供するだけだ。

 内臓を摘出するのも、移植するのも今回の執刀医である安立の仕事だ。

 何度も施術してもらっているため、彼の手腕を疑う事は無い。

 のんびりと周囲を見渡す余裕すらある。

 ……ああ、確かにこれも勉強材料か。

 この手術室は他所と比べると少々大きい。

 少々高い天井付近にはガラスが横一列に並んで填め込まれており、先程採血を行った研修生達が覗いていた。

 それぞれが手に持ったノートやメモに何かを書き記している。

 端に見える五十路程の医師は、施術の説明を行っているのだろう。

 この後に自分達も行うためか施術を観察する目は真剣だ。

「装置の方は?」

 安立と視線が合う。

 結希自身に麻酔は投与されていない。

 能力の“再生”効果で薬物は無効化されてしまうからだ。

 ……一応再生速度の調節はできるけれど、意識を失うと自動で最速になっちゃうからな。

 薬物が効くほど再生速度を落とすことはできるが、意識を失えば意味も無い。

 その対策として自身の首元に置かれた装置があるわけだが。

「無痛化装置は正常に作動しています」

 傍に立つ看護師が機器の様子を答える。

 因子を利用した無痛化装置だ。

 神経に干渉し、擬似的な麻酔状態を再現できる。

 これは結希専用に調整されており、誰にでも使用できるわけではない。

 だが、おかげで痛みに悩まされることも無くこうして協力することができる。

 看護師の返事に安立は頷く。

「それではよろしくお願いします」

 そうして手術始まった手術は順調に進む。

 メスや鉗子を巧みに使い、少女の体内から異物を次々と取り除いている。

 その技量に研修生達は感嘆の吐息を吐いていた。

 鉄片などを手早く取り除くと臓器の移植に取り掛かる。

 一つではなく複数の部位を取られたが、欠損部位は既に再生し始めている。

 安立の腕は淀みなく摘出した臓器を次々に少女に移植している。

「……結希君、もう大丈夫だよ」

 それは必要な臓器は全て摘出したという事。

 装置の効果により声を出す事はできない。

 体は鉛の様に動かないが、能力の操作くらいは出来る。

 能力の抑制を解いた瞬間、常識を超えた再生が始まる。

 完全に再生するのに一分も掛からない。

 しかし欠損していた臓器が瞬く間に再生、修復する光景は慣れている者でも厳しい。

 事実、上階から観察していた研修生の内の何人かが青ざめている。

 ……さて、暇になってしまった。

 真横では今まさに命を繋ぐ為、医療ドラマさながらの緊迫した状況が続いている。

 まだ予断を許さぬ状況であるのか、張り詰めた空気が肌を刺す。

 ……このまま寝ちゃうのは色んな意味で不味いよなー。

 役目を終えた安心感からか眠気がやって来た。

 室温はやや肌寒くはあるが、体に掛けられた覆布(オイフ)が温かい。

 医療ドラマが展開する横で眠りこけるのはバツが悪い。

 ……やばい、本格的に眠くなってきた。

 落ちそうな瞼を必死に開く。

 こうして眠気を堪えるのは過去に行われた実験と同じくらいに厳しいかもしれない。

「……これにて手術終了です」

「――っ」

 無限にも思える時間は気が付くと過ぎていた。

 途中、野原を駆け回るような幻覚を見ていたが寝てはいないはずだ。

「結希君もご協力ありがとうございました」

「いえ、お役に立ったのなら何よりです」

 口の端にあった違和感を手の甲で拭う。汗であり、きっと涎ではない。

「ははは、結希君もお疲れのようだし少し休憩としましょうか」


          ●


 肉の焼ける匂いに涎が出る。

 烏龍茶の注がれたジョッキで乾杯する。

「ご馳走になります」

「気にせずどんどん食べて貰って構わないよ。何せ食べ放題だからね」

 食べ放題とはいえ一番高額なコースなだけあり、お高めの肉がメニューに並ぶ。

「今日は頑張ってもらったからね。お礼だよ」

 先程まで大量にカロリーを消費していたため食が進む。

 会話もそこそこに、テーブルに積まれた肉を崩しては次の肉を注文する。

 食べ放題でなければ出来ない事だ。

 多少腹が膨れてきたのか、二人の間に会話が増える。

「一つ聞きたい事があるんですけれど、報酬で臓器の単価がいつもより高くないですか?」

 価格が上下する事は何度かあったが、平時の五割り増しとなると気になってしまう。

 安立は事情を知っているのか苦い顔で答えた。

「……大人の事情ってやつだね。あまり言いたくないが結希君の臓器を欲しがっている人は病人だけじゃない、ってことだよ」

「病人だけじゃない?」

「結希君の臓器は“誰にでも適合可能”という夢の様な臓器だ。オマケに臓器は移植後も高い性能を維持しているんだ。――下戸の人が術後に上戸(うわばみ)になったり、お腹を壊しにくくなるとかね」

「それが一体何か?」

「まぁ、金を幾ら支払ってでも健康でいたい人間は多いってことだよ。それも世界中にね」

「ああ、そういう事ですか」

 本心としては病人を優先して欲しいが、安立の苦い顔からそうもいかないのが現状なのだろう。

「君には申し訳ないけれど、おかげで海外の医療機関とパイプを繋ぐ事ができたよ。国家間の交流が制限されている今、この繋がりは大きいんだ。と、まぁそれらお詫び込みでの金額だから気にしないで受け取ってくれると助かるな」

「さっきも言いましたけれどお金が貰える時点で有り難いですから」

「そう言ってもらえると本当に助かるよ。ああ、それとお詫びと言うと何だが、お嬢様の研究で手伝える事があるなら全力で支援するよ」

「お嬢様ってまさか」

「そう、葛城真澄ちゃんさ。君が真澄ちゃんの研究に関わっているのは彼女から聞いているよ。中々面白い事をやっているみたいじゃないか。私も幼い頃に視ていたから実現するよう応援しているよ」

 思わぬところでの繋がりに少しばかり驚いた。

 ……そういえば、葛城って医療界の重鎮なんだっけ。安立先生もベテランで色んなコネがあるみたいだし、むしろ当たり前なのか?

 葛城の名前は自身が思っていたよりも大きいようだ。

「さて、重い話はこれまでにして食事を続けようか。肉もそろそろ焼けてきたしね」

 話に夢中になっている間に肉が焼けていた。

 焦げる前に取り出して次の肉を網に乗せる。

「あ、そういえば、最近平成シリーズを始めから観ているんですけど、先生が見ていたのって何だったんですか?」

「ん? ああ、確か平成の始め頃だったかな。“和風”をベースにした――」

 話は趣味に移り、徐々に興が乗っていく。

 結局、解散したのは夜遅くになった。

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