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変身英雄  作者: 白烏黒兎
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第八章 武装と戦闘試験

申し訳ありません。

次話に違う物語の話を差し込んでしまいました。

お話が変わり驚かせた事をここにお詫び申し上げます。

「来てもらって悪いがまだ実験の準備ができていなくてね。申し訳ないがここで少しばかりゆっくりしていってくれ」

 場所は葛城真澄の研究所。

 その中にある真澄の研究室兼私室だ。

「いつ見ても凄いコレクションですね」

 壁一面のガラスケース。

 奥と手前の二重に分れた。複数の棚が備えられたそこには幾つもの玩具が並ぶ。

 隙間無く並んだそれらは幼児向けの物。

 何かしらの武器を模した物や手の平サイズの小物。

 中でも目立つのはベルトが着いた玩具か。

 バックルに何かしらの機構が着いているものが多く、そのデザインは腰に巻けば目立つだろう。

 奥側の施錠されたケースに並んだそれらは彼女が好む特撮シリーズの玩具だ。

「探すのに苦労したよ。新しいものはともかく、古い物は生産が終了していたからね」

 どこか満足げな様子。

 しかし、特撮シリーズ1作目の玩具から並んでいる光景はファンにとっては垂涎モノではあるだろう。

「プレミアシリーズまでしっかり揃えていますね。――でも何で二つも?」

 ドラマに使われた物とほぼ同じサイズの玩具。

 それは大人でも遊べるよう作られたプレミアシリーズ。

 過去作品の玩具をより進化した技術で精巧にリメイクしたそれらは大人気だ。

 お値段も相応だが、当時の記憶が甦ると好評である。

 そんなお高い玩具が二つもある。

 片方は奥側の鍵付きのケースに厳重に保管されているが、もう片方は手前の簡単に取り出せる場所にあった。

「ああ、手前にある方は私が作った物だからね。自由に触って構わないよ」

「えっ」

 思わず見比べてみると、ケース内の物に比べ手前の物は質感が違う。

「私の能力でね。外見をコピーして素材も拘ってみたんだ。より本物っぽいだろう?」

「……そうですね。使えばヒーローに成れると言われたら思わず信じてしまいそうです」

「そうだろう、そうだろう。玩具の方は保管したくてね、材料費と手間賃をかなり掛けた甲斐があったよ」

 彼女が持つ技術力と資金力が成せる事だろう。

 玩具一つに掛ける熱意が、彼女がこのシリーズのファンである事が分かる。

「――っと、話が逸れてしまった。君を待たせているのは渡したい物があるんだ」

「渡したい物?」

「ああ、君の力になる物だ。そして今回の実験に必要な物、だけど手違いで今手元に無くてね。そろそろ届く筈なんだが……」

 そわそわと時計を確認する姿は普段の超然とした態度と比べると珍しい。

「――失礼します。お嬢様、浪漫(ろうまん)重工様がお見えになられています」

「おおっ、やっと来たか。悪いが少し席を外すよ。待っている間、ケースの手前にある物は弄ってても構わないからね」

 そう言うと小夜と共に足早に部屋を出て行く。

 喜びを顕わにするその姿はまるでプレゼントが届いた子供だ。

 一人残された部屋の中、暇を潰すために彼女のコレクションを眺める。

「弄ってもいいって言ってもなぁ。壊したら怖いし眺めるだけにしておくか」

 彼女は構わないと言うが、如何せん気軽に触れるには完成度が高すぎる。

「……あ、人形もあるのか」

 ケースの隅にはヒーローや怪人を模した人形が並ぶ。

 ソフトビニール製の物や姿を着せ替える物、手足の動く可動式と種類が豊富だ。

 時が経っているせいか劣化や汚れが目立つものもある。

 放送年代順に並べられたそれらには自身の記憶にもあるヒーローが居た。

「あー懐かしい、そういえば俺もこの人形持っていたな」

 まだ平和に過ごしていた頃の記憶。

「そうそう、武器が着いている手だけ汚れが……?」

 大量生産された人形であるが、目の前の人形に違和感を覚える。

「あれ? これって――」

「いやぁ、待たせてしまった様だね。申し訳ない」

 思考を遮るように声が掛けられる。

 振り向けば言葉と裏腹に上機嫌な様子で真澄が帰ってきた。

 手には銀のアタッシュケースを持っている。

「これが君に渡したかった物だよ。物も届いたし早速実験しに行こうじゃないか」


          ●


 全身に活力という熱が巡る感覚。

 “装骨”を起動した時に感じる独特なものだ。

 初試験から実験場、時には研究所にて何度か起動させたが、この感覚に慣れるのは時間が掛かりそうだ。

「準備できました」

 言葉は兜内のマイクを通して発される。

「……体内環境に異常なし、と。調整は今のところ上手く行っているようだね」

 真澄は背中に手を当てて能力で確認していた。

 初起動時の異常が起きていないかのチェックだ。

「それでは、性能試験を始めるとしようか」

 今回借りた実験場は奇しくも初めて“装骨”を起動した場所であった。

 以前と違うのは離れた場所に射撃用の的(マンターゲット)が置かれている事か。

「さて、それでは実験も兼ねた新武装のお披露目といこう」

 近くにあった机に置いてケースを開錠する。

 緩衝材が詰められた中身は装備が収められていた。

「君の主な武装となる突撃短銃と単分子ナイフ。そしてその二つを携帯するためのベルトだ」

 特製のホルダーに納められた、拳銃にしては少々大型の銃とナックルガードの着いた柄。

 そして腰の横に留め具が作られた金属製のベルト。

 それは“装骨”の腰部ベルトと同じ物だった。

「ベルトに関しては“装骨”が完成するまでの間、講義や実習で丸腰という訳にはいかないだろう? だから普段はこれを使うといい」

 取り出されたベルトを見るとバックル部分に“装骨”のバッテリー装着部が無い。

 普段の持ち運び用に設計してあるようだ。

「この一式は実験が終ったら持ち帰ってくれて構わない。整備方法はマニュアルを付けてあるから読んで欲しい。また損傷が酷い場合、研究所に持って来れば契約通り無償で分解点検修理(オーバーホール)をするよ」

 真澄から手渡される拳銃と鞘に収まる柄。

 傷一つ無い新品ではあるが、手に持てば使い込んだ道具の様に馴染む。

「単分子ナイフはグリップの止め具を外してトリガーを押せば刃が飛び出す。刃を仕舞う時はもう一度トリガーを押せば良いよ」

「止め具……ああ、これか」

 柄の側面に保護カバーと、その中にトリガーらしきものがあった。

 誤作動と戦闘時の事を考えての事か操作自体は親指一つで済む。

 トリガーを押す力は軽いものであったがしっかりと反応した。

 空気の抜ける音と共に柄から真っ直ぐな刃が伸びる。

 玩具のようではあるが、鋭い刃が武器である事を主張していた。

「刃は結構長いんですね」

「それでも魔物相手だと心許無いがね。それにおかげで格納部分の柄が大きくなってしまったのも今後の課題だよ」

 見れば確かにナイフの柄は両手で握るには短く、片手に握るには長い。

「一応、生身で使える様に設計はしたけれど、基本は“装骨”の主武装だ。ナイフはともかく、銃の威力は一般人用とは比べ物にならない事を留意しておいてくれたまえ」

「こちら武装を納めるホルダーになります」

「了解です」

 渡された武器を“装骨”のベルトに装着する。

 腰に感じる重みが頼もしい。

「よし、始めは銃の試射と同期修正といこうか」

「結希様は標的に向かって自由に撃ち続けてください。その結果を学習して結希様の癖や照準のブレに合わせた修正を“装骨”が掛けるようになりますので」

「あー、それは確かに便利ですね」

 腰から銃を取り出して的に向ける。

 兜内のモニターでは銃身から斜線軸を表す直線が伸びていた。

 これならある程度の射撃下手は解消されるだろう。

「とりあえず、ダンボール1箱分を全弾撃ってもらおうか」

 良い笑顔で指し示した先には山の様に詰まれたダンボール。

 その直ぐ側では小夜の分身達が死んだ目で予備マガジンに弾を籠めているのが印象的だった。

 経費削減かどうかは知らないが、マンパワーは偉大であった。


          ●


 何度目の破裂音だろうか。

 砲口から飛び出す弾丸は、風より早く飛んでいく。

 遠くに見える鉄板は弾き倒され、またその身を起こす。

 人型に模られた的の頭部には赤い点だけが残っていた。

「ナイスショット! 止まっている目標には当てられるようになったね」

 成果に喜びを表す真澄。

 その背後には大量の空箱と、気力を使い果たした分身達がその身を横にしていた。

 本体である小夜は涼しい顔をして水分補給をしているが、それでいいのか。

 とりあえず、使用感だけは伝えておく。

「この銃、反動が凄いですね。“装骨”を纏っていなかったら手首がイカれていますよ」

 学園で借りられる銃火器は一通り触ったが、その感触は全く違う。

 下手をすれば火薬からして違うのではないか。

「一応、試作品で登録しているから、それに準拠した扱いで頼むよ」

「分かりました。でも、もう銃弾は無くなっちゃいましたね。まだ、実験場を借りている時間はあるんですよね?」

 まだ日も頂点を過ぎた辺りだ。

 今回は一日貸切であるため、ここで引き上げるのは少々もったいない気がする。

「“装骨”の運動実験でもしますか? 慣れてきたんで以前より大分動かせると思いますが?」

「ああ、元よりその予定さ。――ただ、もっと効率の良い方法でデータを採るとしようか」

「効率の良い方法?」

 体を動かすのに準備体操や演武以上に効率の良い方法。

 どういったものか確認する前に、その答えがやって来た。

「おーう、中々面白い事やってんな」

「武史先輩?」

 立ち入りが制限されている筈の実験場に、やって来たのは先輩である武史。

 制服ではなく、道着に袴姿という古武術スタイルは戦闘時に纏う衣服だ。

「ああ、私が呼んだんだ。“装骨”の耐久性も兼ねた戦闘試験といこうじゃないか」

「お前と話した後に、葛城から今回の話の打診が来てな。武島祭前でもあるし肩慣らしには丁度良いって事で受けさせてもらった訳だ」

「ふふふ、肩慣らしで済むかな?」

 腕に自信のある武史と、“装骨”に自信のある真澄。

 2人は意味深な笑みを浮かべながら、睨み合う。

「よーし、なら早速そのパワードスーツの性能を試させてもらおうか」

「結希君、絶対に勝ってくれたまえよ」

「無茶言わんでください……」

 2人の意地のぶつかり合いに巻き込むのは勘弁して欲しい。

 だが、“装骨”が実戦でどれだけ戦えるのか。

 武史との模擬戦は丁度良い目安となるだろう。


          ●


「ルールの再確認をするよ。今回は武器無し、異能ありの組手形式という事で、両者準備は良いかい?」

「いつでもいいぞ」

 自然体で立つ武史は、戦闘着を纏うだけで素手だ。

 肉体強化系能力者の肉体は極まればロケット砲すら無傷で耐える域になる。

 能力者として鍛えている武史には“装骨”の拳をもっても傷つけるのは難しいだろう。

「バッテリーフル充電。準備できてます」

 向かい合って分かる。

 道場での立会いなぞ、彼にとって児戯にも等しかった事に。

 本気ではないだろうが、足が竦みそうになるほどの闘気だ。

「それでは……始め!」

「――っ」

 その宣言が終るか終らないか、結希は駆け出す。

 経験も実力も上の相手だ。

 勝利への流れを少しでも手繰り寄せるための速攻を選んだ。

 武史は動かない。

 “装骨”の性能を確かめるように、待ち構えていた。

「セイッ!」

 選んだのは正拳突き。

 速度と体重を乗せた渾身の一撃だ。

 威力を証明するかのように、破裂するような着弾音が辺りに響く。

 だが、

「……なるほど、これなら確かに通用するだろうな」

 重ねた手の平に止められていた。

 力を入れるが、ビクともしない。

「攻撃力は下位相手には十分通用するな。なら防御力はどうだぁ!?」

「ぐっ!?」

 腹部への衝撃。

 それは蹴りだ。

 だが、その衝撃は並ではない。

 “装骨”と結希を合わせた重量はかなりのものだが、ゴムボールの様に弾き飛ばされる。

 肉体強化系の能力者は身体能力が上がり易いとはいえ、この威力は確実に武史の能力によるものだ。

「ご……ほっ!?」

 予想以上の衝撃に受身も取れず、地面に転がる。

「装甲に凹み一つ無しとは……俺の自信が凹みそうだぜ」

 蹴り上げた足の具合を確かめるように、足首の間接を解す。

「ふふふ、そこで驚くのはまだ早いよ?」

 含んだ真澄の物言いだが、その言葉通り“装骨”の真骨頂はまだ見せていない。

「さ、流石先輩です。だけどここからです、よっ!」

 立ち上がる、と見せかけてクラウチングスタートの要領で走り出す。

 飛び掛るようにして拳打を放つ。

 防ぎ、いなされるが、先日の道場での鍛錬に比べれば戦いの形になってはいる。

「ははっ、やるじゃねぇか」

 道場では見切ることも出来なかった、武史の拳。

 今は見える。

 “装骨”のおかげだ。

「生身の時とは違いますからっ!」

「言うじゃねぇか!」

 時折返される武史の拳打を防ぐ。

 素手とは思えない威力に、歯を食いしばって耐える。

「何て威力だ……っ」

「これ位耐えられなきゃ魔物と戦えねぇぞ!」

 その言葉は経験したゆえに。

 だからこそ応える。

「俺と“装骨”はこの程度じゃありません!」

 言葉と共に放った正拳。

 始めと同じように両手で防がれる。

 それでも構わない。

「はぁぁあ――っ!!」

 防いだ両手は貫けなかった、だが押し込む事はできた。

「ぐぉっ!?」

 果たして、吹き飛ばす事はできなかったが、一メートル近く後退させた。

「おいおい、始めより性能が上がってねぇか?」

 手の平に感じた重みは、最初と倍以上に違う。

 最早、通常の拳打すらまともに受けるのは不味い。

 風切り音を奏で始めた“装骨”の拳打を打ち払う事で凌いでいく。

「その通り、“装骨”は装着者の闘争本能がある闘値を越えると、体内の因子と“装骨”が同調(シンクロ)して性能が強化される。簡単に言えば、想いが強いほど“装骨”は強化されるって事さ」

「なぁるほど。確かにこれなら実戦レベルだな。……だけど、もう少し改良した方が良いんじゃないか?」

 それは至近距離で戦う武史だからこそ気付いた点。

「それはどういう事――」

「お嬢様! “装骨”のバッテリー残量が!」

 武史の指摘に真っ先に気付いたのは、モニターを確認していた小夜だった。

 モニターに映されるのは、リアルタイムで更新される“装骨”のデータ。

 その中で目に見えて変化するバッテリー残量。

 強化が始まった時点で9割以上残っていた電力は、既に3割を切っていた。

「なっ、性能強化に電力を喰われているのか!?」

 戦う姿を見れば、確かに腰に着けたバッテリーの表示は残り少なくなっていた。

「まだまだぁ!」

 当事者の結希は、戦いに集中するあまり警告音に気付いていない。

「くっ、ここまで消費電力が増えるとは……」

 それは真澄の想定を超えた結果だった。

 消費量が増える事は知っていた。

 故に、大分余裕を持たせた設計ではあったが。

「バッテリーの再設計が必要か……、それまで強化制限を設けないと駄目か」

 新たな課題を見つけたところで、戦いは決着が着こうとしていた。

「セイッ――」

 武史の右フックを屈んだ勢いでの上段蹴り。

 顎を狙って足を振り上げたその瞬間。

『バッテリー残量が一定値を下回りました。これより、支援(アシスト)モードへ移行します』

「ヤァ――ぁあ?」

 風斬る足刀は失速し、片手で掴まれる。

「あれ?」

「ここが限界か、なら――」

 足を引こうとするが、微動だにしない。

「戦闘に夢中になって引き際を見失った後輩に、実戦ではこの後どうなるか特別に教えてやろう」

「えっとー、先輩とまともに戦えるのが嬉しかったとか。自分の努力の研鑽を先輩に示せて夢中になってしまったとかで、許してくれませんかね?」

「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。――だが駄目だな」

「ですよね……っ!?」

 瞬間、結希の視界が回転する。

 辛うじて見えた光景では真澄や武史が小さく見えた。

 ……最初の一撃より威力高くない?

 少なくとも“装骨”越しの内臓が損傷する一撃ではあった。

「よっし、装甲凹んだ!」

 天高く飛び上がる“装骨”を眺めて一言。

 その表情は満足そうだった。

「……ちょっと大人気無いんじゃないかい?」

 じっとりとした視線を送る真澄だが、返事を返す者は居なかった。

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