第7話『さっぱり解らん』
第7話『さっぱり解らん』
「……てな事があってさ~、智樹に振り回されてばっかりの一日だったよ」
「ふふっ、そんな言っても俊兄ちゃん楽しかったんでしょ?」
「まぁな」
レクリエーションのバーベキューから帰宅し、その日の夕食時の事だった。
食卓を囲むのは、俺と和美、そして
「わっはっはっは!! あいつらしいな!!」
兄貴である、和昌に加え
「いいじゃないか、青春を貪欲に求める姿勢、今しかできない事だぞ」
父である和時
「うちの子たちにもそれくらいの貪欲さがあってもいいかもしれませんねぇ」
母の博美の5人だ。
基本的に夕食は家族全員で食べるというルールが存在する我が家では当たり前の光景だ。
ちなみに今晩の夕食は和美特製カレーだ。
もちろん飲みの席や、残業や出張で居なければ無理して帰ってくる必要が無いはずなのだが、兄貴は以前
『馬鹿野郎!! 俺は和美の料理を食べに帰るぞ!!』
と、出張先のアメリカから我が家に帰って来ようとした事があった。
確かその時は智樹の実姉である由樹さんが兄貴の暴走を止めたはずだ。
ちなみにうちの兄貴と由樹さんは同い年の同級生で、共に陰陽学園卒業の日本支部所属の魔法師だ。
違いがあるとすれば俺と智樹の関係が幼馴染の親友であるならば、あの二人は幼馴染であり、姉弟のような関係だ。
昔から事あるごとに振り回され、下手するとうちの家族よりも兄貴の扱いに長けている由樹さんは問題を起こすたびに兄貴の尻ぬぐいをさせられているイメージが強い。
そのせいか二人の関係がしっかり者の姉とやんちゃな弟に見える時がある。
「良くないって、いつも面倒な目に遭うこっちの身にもなって欲しいもんだよ」
思わずそんなぼやきも出る。
「そう言えば和俊、あなたからあの感想聞いてないんだけど、見てくれた?」
「ああ、『体内の栄養素の突然変異』に関する文献だろ? それなら読み終わってるけど……」
以前母親が書いていたレポート、魔力の正体は栄養素なのではないかという内容の物。
「で、どう思った? あなたの率直な意見が欲しいの」
「俺の意見ねぇ……」
「なんだそれ?」
「和昌には伝えてなかったわね、でもあなたに言ったところで大した意見は聞けないと思ったから……」
「確かにそうだな、兄貴には難し過ぎる内容だ」
「何だと!! 兄貴をバカにするんじゃない!!」
ガタンと立ち上がる。
どう見ても怒っているように見えるが事実は事実だ。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
一旦自室に戻り、レポートのコピーを持って帰って来て、
「これの意味解る?」
兄貴に手渡した。
眉間にしわを寄せて、唸り声をあげながら文面と格闘するが、
「さっぱり解らん」
1ラウンド持たずにKOされた。
昔からそうであるが、兄貴は頭の出来は非常に悪い。
陰陽学園にも、当時魔法のランクがSランクであった為に推薦という形で入学する事が出来たが、一般入試であれば実技はともかく筆記で落ちていた所だ。
父曰く、『特攻隊長にはなれるが指揮官には向いていないタイプ』と言っていた。
それはさて置き
「簡単に説明するよ」
兄貴の手からレポートを回収し、
「まずは魔力からだな、魔力ってのは、所謂魔法を使う為の力の事だな」
「そのくらいは知ってるわ!!」
「胸を張って答える所じゃないぞ!! で、この魔力だがただ手の平から放出するだけじゃ何も起こらない、ならどうすればいいか?」
「えっと、固めて結晶化させるんだよね? 俊兄ちゃん」
「そうだ、和美はよく理解しているな。 補足するとただ固めると言うよりは、魔力を圧縮し凝縮させた上で初めて結晶化、メタモルフォーゼスに変わるんだ。そして人々が魔法と呼んでいるのはタモルフォーゼスの中身で凝縮されたより濃度の高い魔力を使用することで初めて発動するんだ」
「「へぇ~、そうなんだ~」」
和美はともかく兄貴まで理解してなかったらしい。おかしいな、一般の学校でも多少習うし、陰陽学園では更に深く教わるはずなんだけどな。
「と、ここまでは判明してるんだが、問題は魔力とは何なのかと言うことだ。 何時何処でどの様に生成されるのかを色んな研究機関が躍起になって探しているのが現状で、機関ごとに様々な説が提唱されはいるんだが、その説であるという有力な証拠を見つけることが出来ていないせいかイマイチどの説も決め手に欠けるってのが現状だな」
「それでこのレポートに書いてある事と何が関係あるんだ?」
「このレポートに書いてある事を簡潔に説明すると、母さんが最近思いついた魔力に関する新説だな、『魔力とは栄養の突然変異である可能性がある』って言ったら大体解るかな?」
「え、そうなの、お母さん?」
和美は母さんの顔を覗き込む。
「もしかしたらの可能性よ」
「なあ、母さん、どうして栄養だと思うんだ? その根拠が俺にはさっぱり解らん」
頭の上に大量の?を浮かべている兄貴に対し
「じゃあ簡単に説明するわね」
こうして現役の科学者による特別講義が始まった。