第4話『流石だな和俊、おまえのイケメン力しかと見せてもらった!!』
第4話『流石だな和俊、おまえのイケメン力しかと見せてもらった!!』
その後俺達は教室に入って来た若い女性教員の指示に従い、体育館に移動した。
「新入生、入場」
中年の男性教員の声と共に歩みを進めた俺達の目に入ったのは壁一面に紅白幕を張り巡らせてパイプ椅子を綺麗に並べた式場だった。
保護者席は既に埋まっており、2年・3年の先輩方は椅子に座った状態で温かい拍手をもって迎えてくれた。
順番に席に座ってゆく新入生。
全員が座ってから、檀上に上がった校長先生の話が始まった。
話の内容は当り障りの無い物であった。
その次に壇上に上がったのは、
「次に生徒会長挨拶、生徒会長、城之崎加奈子」
「はい」
「和俊見てみろよあの先輩、超美人じゃん!!」
「ああ、そうだな」
隣に座っていた智樹がアゲアゲのテンションを維持しつつ小声で話しかけてくる。
金髪のショートヘアにメリハリのあるボディライン、吸い込まれそうな綺麗な碧眼は見る者を魅了して止まなかった。
智樹がテンション上がるのも頷ける。
「毎年、桜が春の訪れを私たちに告げるように、今年もこの日を迎えることが出来ました」
眩しい笑顔をこちらに向け、
「ようこそ、朝月高校へ、私たち上級生はあなたたちの入学を心待ちにしていました。 皆さんはこれからの学校生活に希望も不安も感じている事でしょう。 ですが安心してください、困った時は先生方や私たちの事を頼って下さいね。 何故なら」
胸をドンと叩き、
「皆さんよりもこの学校の先輩ですから!! 以上、生徒会長城之崎加奈子でした」
そう言って一礼すると、会場から盛大な拍手が起こった。
笑顔で手を振りながら壇上を下る姿は、まるで王族のそれに近しかった。
一応先生方の表情を窺うと、生徒会長が短めの緩い挨拶をすることを想定していたようで怒っている様子は無い。
どうやら結構緩めの校風らしい。
だが正直な所、今の俺は心穏やかではない。
「この空気は不味いだろ……」
「諦めろ和俊、今こそおまえのイケメン力が試される時だ」
「何がイケメン力だ!! くそ、やるしかねぇのか」
「続きまして、新入生挨拶。 新入生代表、平賀和俊」
「はい」
俺の名前を呼ばれた瞬間、会場がざわつく。
理由は簡単、『平賀』と言う名前のブランド性だ。
魔法協会日本支部の支部長で実の父、平賀和時。
メタモルフォーゼス第一研究者で実の母、平賀博美。
魔法協会所属魔法師ランキング第1位にして前人未到のSSランクで兄の平賀和昌。
これだけのビックネームに囲まれて育った次男は例え無名だとしてもそれなりに注目を集めてしまう。
妹に関してもそうだ、まだ自身の魔力量の測定すら行っていないのにも関わらず、協会側からは期待の視線を向けられている。
俺に関しては既にDランクであると言う結果を協会側に伝えてあるため、期待の視線は向けられていない。
その代わりに失望の視線は向けられたが元々魔法師志望でない俺には関係の無い事だった。
壇上に上がり、マイクの前に立つ。
しかし、折角考えて来た堅苦しい挨拶も先程のあれを見せつけられてしまっては、好印象に思われないだろう。
ならば、
「新たな学校生活の始まりに期待、そして不安を抱えて校門を潜り抜けた今日、先ほどの城之崎生徒会長からの頼ってくれていいとの言葉に先輩らしい心強さを感じました。 おかげで少しばかりではありますが、私を含めた新入生の顔から緊張の色が薄れた様に思えます」
一息入れて言葉を続ける。
「私事ではありますが、先程私が名前を呼ばれた時に会場が若干ざわついたように思えますが、理由は概ね察しています。 ですがこの場に立ったのは知らない人はいないビックネームの次男としてではなく、新入生代表として立たせていただきました。 なので言わせていただきます。 これからお世話になる先輩方、先生方の在り方を見習い、胸を張り、恥じない朝月生として仲間と共に日々精進していこうと思います。 まだ右も左もどころか前後すら危うい私たちですが、何卒よろしくお願いいたします」
一礼して壇上から下り、自分の席に戻った。
盛大な拍手を貰い、ひとまずの及第点は確保できたと胸を撫でおろす。
「流石だな和俊、おまえのイケメン力しかと見せてもらった!!」
「もう気が気じゃねぇよ」
ぐったりと肩を降ろすのであった。
入学式も終わり、ホームルームも済ませた俺と智樹は直ぐに帰れるはずだったのだが、若い女教師こと担任の佐藤幸子先生からある事を告げられた。
「明日は、クラスの皆とのレクリエーションを兼ねて六方台でバーベキューをしたいと思います」
クラスメイトから歓声が上がる。
六方台とは、学校から車で30分程の所にある、言わば森林公園だ。
どうやら毎年の恒例行事であるらしく他のクラスも同様のレクリエーションがあるそうだ。
しかし、その内容自体は先生の一任で決められるものらしく、生徒に決定権は無いようだ。
それでも生徒からしたら楽しみである事には変わりなく、下校途中も、
「仕留めてやるぜ、女子のハートを!!」
そう意気込む智樹の背後には熱く揺らめく炎が見える程であった。