第48話『声が聞こえた』
第48話『声が聞こえた』
「いや~、こうしてお会いするのはお久しぶりですねぇ」
黒服の男たちに連れて来られて廃工場の中に入った九条が見たのは、
「牧園、おまえか」
「おやおや、もう私の事は先生と呼んでくれないのですね」
「てめぇを先生だと思ったことは一度もねぇ。それで今更何の用だぁ? 用意周到に学校の下駄箱にこんな手紙まで入れといてよぉ」
「それは簡単な事です。あの日の続きをするんですよ」
そういうとゆっくりと右手を挙げる。その瞬間に黒服たちは胸元から拳銃を取り出し、九条に向ける。
「あなたはあの日まで『持たざる者』側だった。なのに魔法を使っている。神を信仰せずに、その寵愛も受けていないのに。ならば何故使えるのか? それは簡単な話だ」
牧園は両手を大きく広げ、
「あなたが進行したのは我らが愛する神ではなく悪魔!! 故にその身に宿したのは悪魔の力!! ならば!! 神の信徒である我々にその邪悪を滅せよと神託が下るのは当然の事なのです!!」
その恍惚とした笑みを九条に向ける。
「ですが、おやぁ? そう言えばあの時にもう一人いましたよねぇ? 神の教えに背いた愚かな悪魔がぁ!!」
「まさか、七海の事かぁ!!」
「だーいせーいかーい!! 良く出来ましたね九条くん。先生が花丸を差し上げましょう」
牧園は楽しそうに拍手をする。
「そんなことさせるかぁ!!」
九条はその手に黒いメタモルフォーゼスを作り上げる。だが、
「いいのですか? 先程別動隊から連絡が入ったのですが既に宇佐美さんは拘束されたそうですよぉ?」
「なっ!?」
「ここで暴れるのは構いませんが、その場合は宇佐美さんには、死ぬ前に色々な事をその体に教えなければいけなくなりますねぇ。まぁ私は聖職者なんでそういった事には加担するつもりはありませんが」
「クソがぁ……!!」
九条は今にも人を殺めそうな視線を牧園に向けたままメタモルフォーゼスを消した。
「それでよいのです。そうすれば二人仲良くあの世に空くって差し上げる程度の慈悲は与えて差し上げましょう。とそんな話をしていたら到着したようですね」
一台の車が入って来る。そして開けられたドアの中から出て来たのは、
「七海!!」
「くーちゃん!!」
その体をロープで巻かれ、頭に銃口を突きつけられた宇佐美の姿だった。
「う~ん、感動の再開ですねぇ。涙が出そうです」
まるで大根役者の様な泣き真似をする牧園。
「それでは役者はそろいました事ですし、始めましょうか。敬愛する同士諸君、今こそ彼らに裁きを下すのです!!」
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか?
九条はそんな事を考えていた。
宇佐美を人質に取られていた九条に成す術はなく、ただひたすらに彼らが神託と呼ぶ大義名分の名の元に、その身に魔法を打たれ続けていた。
全身が痛てぇ……体に力が入んねぇ……。
そして九条の体は至る所から血を流しながら冷たいコンクリートの上に崩れ落ちた。
「あはははは!! 哀れですね九条くん!! 昔あなたが神の教えを拒み、私にその拳を向けた時の方がよっぽど怖かったですよ!!」
牧園の言葉を聞いても既に湧き上がるのは憤りだけで力は沸いてこない。
立ち上がる事も出来ず、唯一の友を救う事も出来ず、ただただ嬲り殺される未来しか見えない現状。
そして聞こえるのは宇佐美の泣き声と絶叫。
くーちゃんを離せと、止めろと、それらの類の言葉を叫び続ける宇佐美に煮えを切らしたのか牧園が近寄り、その顔を蹴り飛ばす。そして宇佐美は気を失ってしまった。
「うるさいですねぇ。そんなことをしなくてもあなたも同じように殺して差し上げると言うのに」
「まき……ぞ……の…………!!」
「おや、まだ息があるようですね」
ゆっくりとその足を九条に向けて歩みを進める。そして、
「グハッ!!」
九条の体をその足で踏みつける。何度も何度も、強く強く。
「覚えていますか? あの日九条くんが私にした仕打ちを。私は忘れたこと無いですよ。今でもあの屈辱を思い返すたびに体がおかしくなりそうなんですから」
その記憶を洗い流そうと言わんばかりに踏みつけ、踏みにじる。
「ですがそれもここまでです。今日と言う日をもって私はこの忌まわしい存在と記憶から解き放たれるのです」
俺が死ぬのは構わない。
薄れゆく意識の中、九条はそんな事を思う。
だけど七海が死ぬのは間違っている。あいつには友達がいる。それもたくさんいる。不器用で俺がいなければ普通の生活を送ることすら危うい七海のそれらすらも気にならなくなる程の美点。あの笑顔はたくさんの人を惹きつけ、そして多くの人を笑顔に変えたぁ。
九条は素直にそれを思う。
友達と呼べる者を全て切り捨てた俺がぁ、荒んで枯れて壊れそうになった心が最後の一線を超えなかったのは、そんな七海の笑顔があったからだぁ。だからこんな所で死んでいい人間じゃない。俺を救ったように、これからもっと多くの人を笑顔に変えれるあいつを、少なくともあいつらが信仰する訳の分からない神よりは、ずっと近くでその実績を見てきた俺が保証するあの笑顔を!! こんな所で消してたまるかぁ!!
そして九条は、消えかける心の奥底で最後に祈る。
俺の中で神はもういない。だから誰でもいい、あいつが救われるなら俺は死んでもいい。だから頼む!!
誰かあいつを助けてやってくれぇ!!
「それでは九条くん、さようなら」
正義を語る黒い意志は最後の言葉と共に手に持った拳銃を九条に向けて引き金に指を掛けた。
そこは町はずれの廃工場。すでに日は落ち辺りは暗く、もちろん人の気配も無い。
そこに奇跡は無く、希望も無い。
しかし、それでこそ人々は奇跡が起こり、それが見えた時に口にするのだ。
希望の光はまだ、消えていないと!!
「なに!?」
その放たれし銃弾は九条の眉間を貫通する事は無く、何かに弾かれるように防がれた。
驚く牧園。その正体とは桜色の結界の様な魔法。
「声が聞こえた」
その言葉の主は入り口から堂々と入って来る。
「心の声が、助けてくれと叫んでいた」
そのハスキーボイスの声の正体は小学生程の少女だった。
「ならば助けてあげよう、いつでもどこでも何度でも!!」
そして特に特徴的なのはその服装。それはまるでアニメに出てくる魔法少女が如く。
「魔法少女ヘルツへクセン、可愛く参上!! シャッキーン」
ヘルツへクセンはあざといポーズを決めながら高らかにその名を宣言したのだった。
作者:やってやったぜ。
和俊:出しやがった!! ヘルツへクセンの本格的な登場は2章の予定だっただろうが!!
作者:予定は未定とは正にこの事!!




