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メタモルフォーゼス  作者: 新町 東
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第34話『よぉし、今日も残さずに全部食べたなぁ……』

作者:今回はとある人物の日常に迫った内容です。そしてこの作品では類を見ない清潔感のある狂キャラが出ます。

和俊:一体誰なんだよそれ?

作者:ということで主要メンバー全員不在です。

和俊:さらっと言ったけどそれ大問題じゃね!?

第34話『よぉし、今日も残さずに全部食べたなぁ……』


 その日の夜。時刻は夜の七時くらいだろうか。


 その小柄な少女は意気揚々とアパートの階段を上っていた。


 そしてカバンから鍵を取り出し、ガチャリと鍵を開けて中に入る。


「くーちゃんただいま~」


 いつもの様に帰宅を告げる彼女だが、そんな彼女には現在両親も兄弟もいない。


 厳密には両親は仕事の都合で海外に、兄弟は元々一人っ子だった為最初からいない訳だが……


「おお、おかえり」


 と、部屋の奥から低い男の声が返って来た。その男の正体は、幼馴染のお隣さんだ。


 それでは何故当たり前の様にいるのか?


 理由は簡単、ここ自体が彼女ではなく男の家だからだ。因みに彼女が住んでいるのは右隣りの部屋。


「今日の晩御飯は何かな~、おお、鶏からじゃん!! やったぁ!!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて全身で喜びを表現する彼女を尻目に、


「そんなに食べたいんだったら早く着替えて手を洗って来い。ハンドソープを使って爪の間まで念入りになぁ」


「了解しました!!」


 ビシッと敬礼すると彼女は駆け足で洗面所に向かった。


「おい、その前に弁当箱流しに出してから……っち、聞こえてないか」


 その男、190cmはあろうその巨体と返り血で染まったかのような赤髪のオールバック、軽く数人は殺していそうな鋭い眼の持ち主。名を九条安久谷(くじょうあくや)と言う。


 九条は彼女、宇佐美七海の持っていたエナメルカバンを勝手に開けると、中から女子高生にしては些か大きめの弁当箱を取り出す。


「戻って来るまでに先に洗いものを済ませちまうかぁ……」


 そして九条は調理過程で出た洗い物と弁当箱を洗い始める。


「よぉし、今日も残さずに全部食べたなぁ……」


 そして米粒一つ残っていない弁当箱を見て九条は独りでに満足そうに頷いていた。




「いただきまーす」


「いただきます」


 ジャージ姿に着替えて来た宇佐美は、リビングにあるテーブルに九条と向き合う様にして座っていた。


「う~ん、今日のくーちゃんの料理も最高だよ!!」


 宇佐美は満面の笑みを浮かべながら唐揚げを頬張っている。


「そうか、そいつは良かった」


 九条は一見表情を崩さずに黙々と箸を進めているように見えるが、


「(あ、くーちゃん照れてる)」


 幼馴染である彼女は九条の口角が僅かに上がっている事に気が付く。


「(外見は泣く子も黙るなんてレベルじゃないくらい凶悪なのに、プロが泣いて逃げるレベルの主婦スキルの持ち主だもんね~)」


 宇佐美は辺りをさりげなく見渡す。


 一人暮らし男子高校生とは思えない程にきれいな部屋だ。確かに物が少ないのだが、それでも一切の乱れを感じさせず、且つ実用的で、初めて訪れた者でも一目である程度の物であればどこに何があるのかを理解することの出来る収納技術に、行った直後は塵や埃を探す方が困難を極めそうな圧倒的掃除スキルからなる完成された清潔。


 それは最早、清潔感などではない。清潔に感じるではなく、本能がそこを清潔だと断定する文字通りの清域がそこにはあった。


 因みに彼も宇佐美と似た境遇で、両親は長期の出張であり、一人っ子でもあった。


「ああ、そうだ七海。おまえに一つ残念なお知らせだぁ」


「残念なお知らせ?」


 宇佐美はコテンと首を傾げる。


「明日の弁当はいつもより数段グレードが下がるってことだぁ……」


「な、なんだってー!」


 まるで至近距離に雷が落ちたかの様なショックを受ける宇佐美。


「しょうがねぇだろ、今日は買い出しに行けなかったんだからよぉ」


「どうして買い物に行けなかったのさ?」


「それは……」


 九条はそれを思い出したのかプルプルと震えだし、


「反省文を書いてたんだよぉ、俺は何一つ間違った事なんてしてねぇのになぁ!!」


 思わず声を荒げている。


「くーちゃん、一体何したの?」


「俺はただ今日が初めての掃除当番だったからより気合入れて掃除しただけだろうがぁ!!」


 その言葉に「あぁ……」とジト目になる宇佐美。


「他の連中の掃除を見ていて俺は常々思っていたぁ、こいつらの掃除は何一つとしてなってねぇとなぁ……」


「それで?」


「だからこの俺様がぁ!! 本当の清掃ってもんを見せつけてぇ!! それから教え込んでやろうとしたらあいつらぁ……『教室掃除なんて適当でいいんだよ』とかふざけたこと抜かしやがったからよぉ、まず先に人の形をしたゴミから掃除する事にしただけだろうがぁ……それを…………」


 事の成り行きを語り始めてから、九条の怒りのボルテージが益々上がっていく。


「暴力だのなんだのって騒ぎやがって、駆けつけて来た先公にとっ掴まって事情聴取と反省文書いてたら晩飯の支度の時間になってやがったから買い物に行けず真っ直ぐに帰って来る羽目になったぁ。晩飯の鶏から自体は昨日から仕込んでたから問題なかったが、現時点の冷蔵庫の中身だと明日の朝食と弁当に回す分の材料が確実に足りてねぇ……」


「じゃあこれから買いに行くってのはどう? それじゃダメなの?」


「この時間だと着く頃には閉店ギリギリに間に合うかどうかだぁ、それに俺にはこれから晩飯の洗い物、七海の泥だらけの練習着の洗濯、それにおまえが友達から請け負って来た編みぐるみのストラップ×六つの作成の三つが思いついただけでも存在する。残念だが俺にチャリを全速力で漕いで買い物を済ませた後にそれらをこなせる体力があるかわからねぇ……つまり文字通りのお手上げって訳だぁ……ハァ」


 九条はその手を振りながら深くため息を吐いていた。


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