第32話『それは君の魔法だろう?』
第32話『それは君の魔法だろう?』
その声は誰が聞いても女子のものだった。
小柄で健康的に焼けた肌の彼女は同じクラスの宇佐美七海。確か女子サッカー部所属で、お昼休みは部員のみんなと部室で弁当を食べているのだと噂でチラッと聞いた事がある。
性格は元気で明るく、誰とでも気軽に接することが出来て、男女ともに人気がある人物だと記憶している。
「よぉ、宇佐美。おまえが次の挑戦者か?」
「あれ? てっきり女子とは戦わないって言うと思ったんだけどな?」
「俺には誰からの挑戦も受ける器量がある!! そこに男女の垣根なぞ存在しないのだ!!」
「おお、さすがチャンピオン。ならアタシが勝ったらその賞金を全て寄越しな!!」
「良いだろう。その代わりこちらが勝ったら、おまえも百円置いて行くんだぞ」
今ここに竜虎相まみえる、と言いたくなるような迫力がそこにはあった。
正々堂々と戦うみたいに話が進んでいるが、どう考えてもおかしい。
いくら運動部員だからって何の勝算も無くガタイの良い智樹に挑むか?
「宇佐美さんは魔法を使ったりしないよね?」
「いやだな平賀くん、そんなことする訳無いじゃない。アタシのスポーツマンシップに反するよ!!」
「そうか、それならいいんだけど」
一応確認はしたが魔法は使わないらしい。だが彼女は並べられた机に向かう去り際、こんなことを言い残して行った。
「そうだよ、魔法は使わないよ。魔法はね」
その言葉に不思議な危機感を感じた俺は智樹に、
「気を付けろ、何か仕掛けてくるぞ」
そう耳打ちしたものの、
「構うものか。チャンピオンとは挑戦者に対し堂々と構え、存分に挑ませるものだ」
ダメだこいつ、色んな物が跳んで逝ってやがる。
「それではチャンピオン、広田智樹VS挑戦者、宇佐美七海の試合を始めます」
「ヘイ、チャンピオン。本気で来ないとどうなっても知らないよ~」
「安心するがよい、ライオンは小動物を狩るのも本気だ。もちろん、ウサギもな」
「言ってくれるじゃん。そんじゃあ始めよっか!!」
二人はガッシリと互いの右手を掴む。
「それでは試合……開始!!」
「一瞬で蹴りを付けてやる!!」
智樹が力を籠めて宇佐美さんの細腕を倒そうとする。
だが、
「グ……グギギギギ……動かねぇ!!」
「ヘイヘイヘーイ、どうしたんだいチャンピオン。力自慢の名が廃っているぞぉ?」
方や血管が浮き出る程に力を入れている智樹に対し、方や宇佐美さんは涼しげな顔で、しかも煽る余裕まで見せつけた。
「そろそろ終わりにしましょうか!!」
そーいと気の抜けた掛け声と共に智樹の腕を倒す。いともたやすく、しかも智樹の体ごとその腕を倒し切った。
「し、勝者、宇佐美七海!!」
「イエーイ!! アイアムニューチャンピオーン!!」
今度は男子だけでなく女子からも歓声が上がったのだった。
あの後、宇佐美さんは智樹から賞金を巻き上げてホクホク顔。智樹は悔しさからか男泣きしながら絶叫していた。
正直これらはどうでもいい。問題はどうして宇佐美さんが智樹に勝てたのかだ。
魔法を使った素振りは無い。しかし事前に使ってから勝負を挑んだ可能性はある。
だがこの点に関して言えば彼女のスポーツマンシップを尊重するならば使って無いと思われる。
そして彼女の発した言葉、『魔法は使わないよ。魔法はね』に込められた意味。
それらを咀嚼し、思考回路を回す。そして導かれる、とある過程を前提とした推測。
「ねえ、宇佐美さん」
放課後、さっそく部室に行こうとした宇佐美さんを呼び止めた。
「どうしたんだい平賀くん? あ、腕相撲の事? アタシが勝って驚いてる?」
「正直驚いてるよ。だからこそ聞きたい」
「……何を?」
「君のその力についてだ」
「まさか花の女子高生の筋力を化け物扱いするのかい?」
まだお茶らけている彼女に、俺は予測を持って返答する。
「それは君の魔法だろう?」
そこで饒舌だった彼女の言葉が一旦止まった。
「もう、それ誰から聞いたの!? 女の子の秘密探るなんてサイテー」
「別に聞いてないよ。あくまでもこれは俺の推測だよ。君の魔法はよくある所の肉体強化系。それも筋力の上昇に特化したもの。わかりやすく言えば馬鹿力って所かな?」
「推測だけでそこまでわかっちゃうものなの!? アタシ、魔法使ってないのに!?」
宇佐美さんの表情は驚愕に満ちていた。
「ある事の可能性に感づけば自ずとそれらしき答えは出てくるものだよ。俺も正直その可能性である確率はかなり低い、いや、珍しいと思った」
「なるほどなるほど、それでは平賀くん、答えをどうぞ!!」
宇佐美さんは手をこちらに向けて回答を待った。
この答えは俺のもしかしてから導き出された答えだ。
だが今の彼女の動揺で確信した。
「魔法ではない智樹を瞬殺するほどの馬鹿力。その力の正体は『魔法名残り』だ」




