第1話 『俺の野望の手伝いをしてくれないか親友』
第1話 『俺の野望の手伝いをしてくれないか親友』
ジリリリリン、と目覚ましが鳴る。
「うん……もう朝か」
俺、こと平賀和俊は目覚ましを止め、ベッドから降りた。
ジャージに着替え、玄関を飛び出し、日課であるランニングを始める所だ。
良く晴れた青空の下で屈伸をし、準備運動をしていた時だった、
「おーい」
声の方を向くと、隣の家の腐れ縁の幼馴染である、広田智樹が現れた。
「おはよう智樹」
「お~っす和俊、それじゃあ早速今日もひとっ走り行きますか!!」
「あぁ!!」
そして俺達は走り出した。
閑静な住宅街を走りながら、今日のことを話し始めた。
「遂に俺達も高校生か~、感慨深いなぁ~」
「そうだな、結局同じ所になっちまったけどな」
「そりゃぁ、家から一番近い所ってなれば必然と朝月高になるだろ?」
「それもそうか」
俺達が入学する朝月高校は、自宅から徒歩十分程度の距離にある普通科の高校だ。
「まぁ、俺にも姉貴や昌さんみたいな魔力があれば陰陽学園に行ってみたかったんだけどな」
「まぁそう言うな、俺もおまえもDランクしか魔力が無かったんだ。 合否以前に入試資格すら持ち合わせていないんだ、諦めろ」
「確かにそうだな、俺はDランク、おまえは今はDランクだもんな!!」
「その話は止せよ、置いてくぞ」
走るペースを上げる。
「まぁ待てよ和俊、よく考えてみろ、高校生活だぞ!!」
「そりゃわかっているけど、それが?」
「高校って言ったらあれだろ!! 新しい出会いが俺達を導いてくれる学び舎だぞ!!」
「出会いか~、そんなものあると思ってんのか?」
熱く語る智樹に対し、俺はいたって冷めていた。
「よく考えるんだ智樹、俺達は自宅から一番近い高校を選んだ。 つまり同じ中学の連中も同じ理由で来てるはずだ」
「確かにそうだ、だが遠くから遥々来る女の子がいても……」
「……いいか、俺達のクラスは全部六つで一クラスに三十人ちょっとの学生、その中に知らない子、女子、そして好みのタイプ、それら全てが兼ね備えた人物が来ると思ってんのか? そしてお近づきになれると思ってんのか?」
「ふっ、甘いな和俊、俺には策がある」
不敵に笑う智樹だが、長年こいつと吊るんできた俺の勘が『ろくでもない』と告げている。
「何とこの俺には、スポーツ万能で頭脳明晰なうえに家柄も良く、憎い事にイケメンという天からの才をこれでもかと賜っている友人がいるわけだ」
「……ほう」
「そしてそいつは今日、入学式の場で新入生代表の挨拶をするわけだが……言わずもがなあの平賀の名前に加えその容姿とくれば新入生だけではなく、上の学年のお姉さま方にも目を付けられるわけだ」
「……」
まさかこいつ……。
「そうして和俊の事を知りたいと思う様になれば、俺にも声がかかる訳だ」
得意そうな顔をしてこちらを覗き込み、
「『君は平賀くんの幼馴染なんでしょ? 好きなタイプとか知らない?』とな、そして俺は親切に教える訳だ。 だがしかし、教えた所でおまえは『学業に集中したいから』とその好意を振るだろう、そこで俺が優しく慰める訳だ。 この作戦を用いれば俺にもガールフレンドどころか恋人も作ることが出来る訳だ!!」
右手を上に挙げながら走っている智樹。
そしてその右手を俺の肩に置き、
「俺の野望の手伝いをしてくれないか親友」
「お断りだ親友」
そんな会話をしながら毎朝の日課であるランニング五十キロを一時間程で終わらせ、俺と智樹はひとまず家に帰ったのだった。
作者:日常って大事だよね?
和俊:あまりにも日常的過ぎて『学園異能バトル』要素が皆無ってのはどうなの?
和俊:ちなみに朝のランニングでフルマラソン以上走っていることに関してはあくまでも『日課』程度だから気にしないで欲しい。これでもいつもの事なんだ、信じてくれ。