童話:嫌われ者の悪魔さんと幸福者の聖女様1
「おかあさんっ、この本読んで!」
小さい五歳くらいの少年が少年のお母さんに一冊の絵本を手渡しました。
「あらあら、またこの絵本なの?」
「うん、僕ねこの絵本が好きなのっ」
そう言って少年がはやく、はやくとお母さんを急かしていると。
「わかったわよー、それじゃあ読むわね」
そう言って少年を自分の膝の上に座らせて絵本をひらき、
題名を優しく言い聞かせるように読み上げました。
「嫌われ者の悪魔さんと幸福者の聖女様」
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昔、昔、この世界ではないあるところに悪魔さんがいました。
悪魔さんは皆から嫌われていていつも一人ぼっちでした‥‥
いえ、そんな嫌われ者の悪魔さんを一人だけ慕ってくれる人がいました。
ですが、悪魔さんは感情というものに鈍くそれがわかりませんでした。
悪魔さんはいつも川を---いえ、そこに映るこの世界を覗きこんでいました。
そんな嫌われ者の悪魔さんを倒そうと毎日大勢の人が悪魔さんを襲いにきました。
しかし、悪魔さんはとっても強くて、逆に襲って来た人たちは皆食べられてしまいます。
そんな悪魔さんはある日この世界に呼びだされました。
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あるところに一人の青年がいました。
青年はとってもお金持ちの貴族の息子でした。
青年は小さい頃からとても我が儘でした。
そんな青年は大人となる18歳の誕生日に教会に行くことになったのです。
青年はそこで見た一人の女性に一目惚れをしました。
その女性は皆に愛されている教会の聖女様でした。
そんな青年はまだ1度も話したことのない聖女様と婚約を結びました。
彼の両親があの手この手を使って教会に結ばせたのでありました。
そんなことを知らない青年はとても喜びました。
心を入れかえて彼女を幸せにすると心に誓いました。
しかし、話はそんなに上手くいかなかったのです。
聖女様との初の顔合わせに向かう途中で彼をよく思わない人達に青年は襲われたのでした。
青年は激しい眠気が迫るなか泣きました。
人生ではじめてというほど泣きました。
そんな青年の前で赤く強い光が輝きました。
光がおさまるとそこには黒い、そしておぞましい『ナニカ』がいました。
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悪魔は誰に呼び出されたのかと思い辺りを見渡すと、そこには今にも眠ってしまいそうな人間の青年の姿がありました。
この青年が自分を呼んだのだと悪魔さんは思いました。
すると青年から
----お前に頼みがある。僕の婚約者を一生幸せにしろ。望みは俺にできることならなんでも聞いてやる。
悪魔さんはこの世界に憧れていました。
毎日川からこちらを覗いていたのです。
少年が眠ったあとその体を貰うかわりに悪魔さんはその願いを引き受けました。
そして悪魔さんは青年の記憶を辿って、婚約者の--聖女様のもとへと向かいました。
人間の女は欲しい者を与えれば幸せにできると悪魔さんは思っていました。
----金、地位、名誉、物、男、世界だろうがくれてやる、さあ、何が欲しい?
ですが、聖女様は何も欲しがりませんでした。
逆にその問いかけに聖女様は怒ってしまいました。
悪魔さんは困りました。
青年との約束『聖女様を一生幸せにする』という約束を破れば自分は消えてしまうのです。
こうして嫌われ者で心がわからない悪魔さんと、無欲で皆に愛されている聖女様の物語がはじまったのです。
----------続く。