5 邪神ファルサーとドラゴンローブ。 合成魔法は謎が多いようです。
こんにちは。今回は少し長めです。
そういえば余談ですが、古代魔法、現代魔法、竜魔法、精霊魔法と出しましたよね。
あれって考えるの大変ですね、甘くなかったです(笑)
あまり余談を長くしてもあれなので、このへんで。まぁすっ飛ばす人がほどんどでしょうけどねw俺もその一人です(笑)
では、お楽しみ下さい。
「・・・んぅ。」
目が覚めた俺は着替えをした。とは言っても、草原で目覚めた時の服しかない。古式魔法にも生活魔法というものが存在する。ヴァッシュという洗濯魔法を使って、服を洗い、それを着る。
自分自身のステータスが完璧でも、服が同じものじゃどうも落ち着かない。とりあえず今日は最初に服を買いに行こうと思った。
部屋を出て、食堂へ移動する。女将さんが居たので、アイテムボックスに入っていたファングラヴィットをあげた。こいつの肉は意外と人気があるらしく、でも売るほど金には困っていないので、あげることにした。と、いうことで今日の夜はファングラヴィットの肉をふんだんに使ったシチューらしい。とても楽しみだ。
朝食を軽く済ませると、市場に顔を出した。まだ朝早いのか、店が閉まっており、しょうがないのでギルドで暇つぶしをしようと、ギルドへ向かおうとした時、脇道からお婆さんが出てきた。
「どなたか存じませぬが、助けてくだされ。」
お婆さんがそう言った後、後ろから声が聞こえた。
「婆さん、おとなしく金を出しな。さもないと命の保証は無いぜ?」
俺は瞬脚で盗賊の前に移動すると、腹を殴って意識を刈り取った。
「・・・・盗賊さん、瞬殺しちゃってごめんなさい。」
俺はそう呟くと、お婆さんの居るところへ向かった。
すると、お婆さんの周りには門番のような格好をした人たちがたくさん居た。
よく見ると、見たことのある門番も居た。
「あ、お前、昨日の流れ者じゃねぇか。何やってんだこんなところで。」
「何って、そこのお婆さんを助けたんだよ。」
「お、お婆さんって。お前ノルム様を知らねぇのか。」
どうやら俺の救ったお婆さんはこの町の領主でノルム・ジェラードと言うらしい。そしてこの辺りはジェラード領ということだそうだ。
「助けてくれてありがとう。何かお礼がしたいわね、屋敷に来るかい?」
お礼・・・・・、あ、服を作ってもらおう。そうだ、それがいい。
「ぜひ!」
俺はノルムに連れられて、屋敷に行った。
屋敷に着くと、客間に通された。お茶とお菓子を用意され、お婆さんと、メイド、護衛兵数名が周りに居る。
「さて、お礼だが、何が良い?」
「何か、服は無いでしょうか?」
「服・・・・あぁ、ローブがあったな。それでもいいかい?」
「ええ、着れるものなら何でもいいです。」
「ちょっとついて来てくれるかい。」
そう言われるまま、ノルムについて行った。
お婆さんは物置のようなところの扉の前で立ち止まると、ローブについて話をはじめた。
「実はな、坊やにあげるローブは不思議なローブでな。外側が竜の鱗のようになっている。防御力は申し分無いんだが、今まで装備した者は耳鳴りが酷いと言ってな。まぁ、坊やもそうなら別のものを用意してやるが、一度つけてみたらどうじゃ?」
「じゃあ着けてみます。」
・・・・竜の鱗、ドラゴンローブ的な何かか?耳鳴り、呪いだろうか。
とにかく着けてみないことには分からないな。
俺は物置に入るノルムについて行った。奥には棒のような物に掛けられているローブがあった。鱗は白く、とても軽いローブだった。
俺はノルムに催促されるまま、ローブを身につけた。身につけても何も起こらなかったので、ノルムに大丈夫と言おうとした瞬間、頭に声が響いた。
「・・・・聞こえるか?」
「誰だ!?」
俺は声を上げた。ノルムは驚いた様子で『何?』と聞いてきた。どうやらこの声は俺の脳内に直接届いているらしい。
「・・・・・お前は誰だ?」
俺はそう念じる。
「儂の声が聞こえるのか。リドヴィルムという名前に覚えは無いか?」
・・・・・リドヴィルム。そうだ、フィーリアが言ってた俺にチート級能力を与えた古代竜だ。とりあえず俺は、リドヴィルムにこれまでの経緯を話した。
「・・・・そうか、では儂は転生したということか。しかし、儂の身体には転生前と変わらぬ魔力が流れている。どうしてかは知らんが・・・・良かったのか、悪かったのか。」
「それで、今まで装備しようとした人たちを拒絶したのはお前のせいだったのか?」
「人聞きの悪いことを言うでない。装備した者に何度も語りかけたのだが、誰も気づいてくれなくてな。お主がアースとやらの化身だから儂の声が聞こえたのかもしれんな。」
「そうなのか。・・・で、その状態で動けるのか?」
「無理だな。魂として埋め込まれてはいるものの、このローブに神経は一切ない。何も見えんし、何も聞こえん。ただ、装備している時だけ念話出来るだけだ。」
「へぇ。とりあえず俺についてくるっていうか装備されるか?」
「そのほうがお互いに都合がいいだろう、よろしく頼むぞ。ちなみにローブが儂の体というわけではないからな、攻撃を無理に庇う必要はないぞ。」
「はいよ、了解。んじゃ宜しく。」
・・・というわけで、俺は意思を持つドラゴンローブを手に入れたので着たままノルムに『大丈夫だったので貰います。』とひと声かけ、屋敷を後にした。
外にでると、だいぶ日が上がっており、市場も賑わっていた。俺は市場に行くと、ローブの中に着るインナーのような服にズボンを適当に2,3着見繕って、昼食を食べに飯屋の並びを歩いた。俺は昼食をガッツリ食べる人ではないので、出店で焼き鳥のような串焼きを食べたり、見るからに怪しそうな紫色の飲み物を飲んだりして腹を膨らませた。ちなみに、怪しい紫ジュースは前の地球で言う、牛乳と同じ種類であり、同じ味がした。味は悪くなかったが、見た目に慣れることは無いと思った。
腹を膨らませた後、そのまま帰って寝っ転がるわけにもいかないので、ソフィア探しのきっかけになればと、ギルドに向かった。
ギルドに入ると、リリアが俺に気づいたのか、声をかけてきた。
用事があったのか、カウンターの外に居た。
「あ、リン。いらっしゃーい。」
なんだろう、急にフレンドリーになった気がする。
「・・・・うす。」
「あ、ごめんごめん。私一応受付嬢だから初めての人にはピシっとするんだけど、あんまり得意じゃないから。気を悪くしたらごめんね。」
「いや、そんなこと無いよ。いきなりでびっくりしただけだから。」
俺は思ったままを返すと、依頼の張ってある掲示板に向かおうとした。
すると、向こうに居たガタイの良いあんちゃん達数人が俺に絡んできた。
・・・・・テンプレである。
「よぉ兄ちゃん聞いたぜ?変異種を売ったんだってな。変異種は色々と謎だからな、狩ったとか言いながら本当はすでに息絶えてたところを持ってきたんじゃねぇのか?そうなんだろ?」
「いや、ちゃんと倒したぞ?」
「まぁいい、そんな事はどうでもいいんだ。」
・・・・じゃあ聞くなよ。
「その売った金、お前みたいなガキには勿体なさ過ぎるからな。俺らがお前を教育してやるから全部よこしな。勿論、俺らに勝てたら俺らの全財産くれてやるよ、無理だろうけどな。ガハハハハハ!」
・・・・素晴らしいテンプレ、そして死亡フラグご馳走様です。
俺が勝負に乗ろうとした時に、リリアが止めに入る。
「ちょっと!新人イジメもいい加減にしなさいよ?」
「お、リリアちゃん。見ててくれよ、俺らのカッコ良い所を生で見せてやるからな。惚れるなよ?」
こいつら話聞いちゃいねぇ。しかもあんなに臭い言葉よく喋れるな。聞いてる俺も身震いしたくなるくらいだよ。見てみろ、リリアなんて顔が引きつってるぞ。若干引いてるし。
「・・・惚れるわけ無いでしょ気持ち悪い。話し聞いてないとか馬鹿なの?」
リリアさん、本音出てますって。ね、抑えましょ?本人居ますよ?
「んだと小娘!言いたい放題言いやがって!」
おっさんは怒鳴ると腰にあった短剣をリリアに向かって投げた。
短剣はリリアからそれて壁に刺さった。
「ひゃっ!・・・・危ないじゃない!脳筋馬鹿!マスター呼ぶよ!?」
あっぶねぇ。・・・・てか沸点低すぎ、というか逆ギレかよ。よくこんな奴がギルド追放されなかったな。
おっさんはリリアの悲鳴を聞くと気持ち悪い笑みを浮かべながらリリアに近づいていった。
「いい声出すじゃねぇか。その方がやりがいがあるってもんだ。泣けよ、叫べよ、ガハハハハ!」
頭に血が上りすぎておかしくなってやがるぞ、あのおっさん。まずいんじゃないのか?
「・・・・おい、ゾルドのやつ、酔ってないか?」
「まずい!止めるぞ!ゾルドの酒癖の悪さは筋金入りだ!」
周りの奴らはゾルドを押さえようとするが、軽く振り払い、何もなかったようにゾルドは腰から短剣をもう1つ取り出すと更にリリアにゆっくりと近づいてく。
「ちょ、ちょっと。本当にやめなさいよ?・・・・。」
リリアはカウンターに背を付けるた状態で、顔は血の気が引いて赤みがなくなり、足が小刻みに震えている。
ゾルドは一度止まり、ニヤリと下卑た笑みを浮かべると片足を踏み込みリリアへ襲いかかった。取り押さえようとした数人の強面を振り払っただけの事はあって、実力はかなりのものだろう。凄い速さだ。
「危ないっ!」
俺は瞬脚でリリアの前に移動して、刃を受け止めた。
・・・・勿論武器など無い、素手でだ。
「・・・てメェ、やるじゃねぇか。」
ゾルドは短剣から手を離すと、ステップで俺から距離を取り、魔法を唱えた。
酒癖悪いにも程があるだろ!
「凍てつく氷よ、槍となり貫け。アイススピア!」
ゾルドの魔法陣から放たれた氷の槍はさすがに素手で受け止めるわけにもいかない。かといって無詠唱で魔法をぶつけても衝突の衝撃で周りに被害が出るかもしれない。
俺はリリアを抱きかかえると、瞬脚でアイススピアを回避した。
ズゴォン!
カウンターの一部を破壊し、壁に衝突したアイススピアが爆散した。ギルドの壁には魔法防壁があるようで、衝突した部分には傷一つ無かった。
カウンターの破壊された音とアイススピアの爆散音が聞こえたのか、ジギルは奥の部屋から飛び出してきた。
「おいおい、何事だ。喧嘩なら外で・・・・って、またゾルドか。」
どうやらゾルドの暴走は今回が初めてじゃないらしい。ジギルはため息をつくと、ゾルドに解毒魔法を放った。
・・・・解毒で酔いも取れるのか。
アルコールが抜けたのか、ゾルドは静かになった。よく見ると顔から血の気が引いていて、何かに怯えるように震えだした。
「ゾルド、奥の部屋、来るよな?」
ジギルが満面の笑みで言うと、ビクッと反応すると短く何度も頷き、ゾルドはジギルと一緒に奥の部屋へ消えていった。
「・・・・・で、何時おろしてくれるの?」
「あ、あぁ、すまん。」
そう催促されて気づいた。リリアを抱きかかえていたのをすっかり忘れていた。
俺はリリアをおろすと、掲示板へ向かった。
掲示板を見ると、金集めに良さそうな依頼はBランクからだった。しかもどれもパーティー専用と書いてあった。
モンスターはギルドでランク分けされている。初級、下級、中級、上級の4つになる。ちなみに変異種は変異種となっており、ランク分けされていない。報酬が期待できるのは中級からで、どれもパーティー専用。近くに居た人に聞いてみたら、若者が自分の実力を過信しすぎてソロで向かったところ、死んでしまったという事件があってから、ジギルが決めたらしい。
ランクをあげるには依頼の量だと思っていたが、実力らしく、何時でも試験が受けれるらしい。だから俺はランクに困ることは無いが、パーティーで困ることになりそうだと思った。ソフィアがいれば楽なんだが。
結局、良さそうな依頼が見つからなかったので、ギルドを出ようとした時、リリアに呼び止められた。
「さっきはその・・・・あ、ありがとう。」
「どういたしまして。てか何かよそよそしくないか?どうしたんだよ急に。」
どうも態度がおかしかったので聞くと、『な、なんでもないから。』と言ってきたので特に気にすることもなく、ギルドを後にした。
日が傾いてきたので、そろそろ宿に戻ろうと帰路につくと、所々で世間話をする人たちの声が聞こえてきた。
「町の西にある鉱山分かるか?俺、そこの鉱夫やってんだけどよ、数日前から死臭がするんだよ。」
「本当に?アンデッドでもいるんじゃないかしら。気をつけたほうがいいわよ。」
「勘弁してほしいぜ、奴隷商が死体でも捨てたんだろう。」
「まぁ聖水を持ち歩くことね。気休めにはなるでしょう?」
「そうだな。」
・・・・死体ねぇ。というか奴隷とか居るのかよ、ファンタジーな世界にして欲しいとは言ったが、奴隷も存在するとは。
死体か、死体・・・・・あっ!
とっさに思いついたのは、死体にリドヴィルムの魂を定着させるということだ。前の世界のアニメでもあったな。血印でやったり、何もしなくても魂が勝手に定着したり。
そうと決まればリドヴィルムに聞いてみるか。
「死体にお前の魂を定着させるってのはどうだ?」
俺はローブに向かってそう念じた。
「面白いことを考える少年だな。確かにその方がいいかもしれんが、リスクが大きすぎるということだけは言っておく。失敗すれば何が起こるか分からん。儂の魂が必ずしもこのローブに戻ってくるとは限らんし、お主にも何が起こっても不思議ではない。それでもやるか?」
「まぁ、俺、ステータス化け物だし?どうにかなるんじゃないか?良い媒体があればの話だけどな。」
「・・・・・。まぁ良い、今から鉱山とやらに行くのか?」
「早いほうがいいだろっ!」
俺はそう念じると駆け出した。勿論、瞬脚で。
数分で鉱山についた俺は、死体を探した。だが、そう簡単に見つかるわけもなく、辺りをウロウロしていた。
しばらくすると、ガラガラと荷車を引くような音が聞こえたので、音のする方へ向かったところ、荷車に胸に不思議な紋がある女子供を乗せ、それ引く奴隷商と思われるおっさんが居た。
「こんなところに一人で・・・・、君は冒険者か?」
「まぁそんなところだ。」
冒険者証明をしようとした時に気づいた。
・・・・ギルドカード貰ってねぇじゃん!
まぁ後で取りに行けばいいんだが。そう考えていると、
「まだ若いけど、ここに一人で居るってことは腕利きなんだろうね?」
そう聞かれたので、変異種を倒したことを言うと、眼の色を変えて言い寄ってきた。
「それなら、報酬で奴隷はどうだい?性奴隷から雑用奴隷、戦闘奴隷。色々いるけど興味はないかい?」
「悪いが今は興味が無いな。」
『今は』と答えたのは、奴隷商と少しでもつながりを持つため。奴隷が存在すると分かった以上、ソフィアが奴隷じゃないとは限らない。まぁ、あの最強少女が奴隷商に売られるような状況にはならないと思うが、一応で。
「そうですか。では、又の機会にということですね。それと死体に見慣れていないのならば、ここを立ち去ることを勧めますよ?」
やはり、死んだ奴隷を捨てに来たのか。俺は『大丈夫だ。』と言うと、奴隷商は3人の死体を荷車から投げ捨てた。
・・・・・何かイラッとするな、奴隷商殴り飛ばしたい気分だ。
奴隷商は投げ捨てると、『では』と言って去っていった。周りに誰もいなくなった事を確認すると、死体を見た。
1人目は女性。黄緑の長いストレートヘアで何処か妖麗な雰囲気を醸し出すエルフだった。多分性奴隷だったのだろう、露出度の高い布を着せられていた。ところどころに傷があり、酷い扱いを受けていたのだろう。俺は無詠唱で治癒魔法を唱え、傷を消した。
リドヴィルムに、『この人はどうだ?』と聞くと、女性はちょっと無理だと答えた。さすがに異性になるのは抵抗があるのだろう。俺は女性に火系統の魔法を使い、火葬した。
2人目は男性。短く切られた藍色の髪をしていて、長めの腰巻きといえるような布だけを着ていた。上半身は裸で、隆起した筋肉から戦闘奴隷だったことが分かる。額から出ている角を見る限り、獣人だろう。
見るからに強そうだったので、こいつなら!と思ったが、よく見ると左腕が無く、欠損部位があった。色々と不都合が出てきそうだったので、断念した。
3人目は少年。年齢は俺より若そうで、身長が140cmほどの小柄で幼い少年だった。栗色の長い髪は後ろで結ばれ、全身を覆うようなワンピースのような布一枚を着ていた。身体つきから雑用奴隷だと思われた。特に目立つような部位が無いので、人間なのだろう。
身体は欠損部位が無く、リドヴィルムと話し合った結果、この少年に魂を定着させることにした。
生きた魂を定着させるような死靈術など存在しないわけで、せっかく手に入れたローブを失うのは惜しいが、合体魔法を使うことにした。勿論、成功するとは限らない。
俺はリドヴィルムに言われるまま、魔法陣を描いた。魔法陣の中央に少年と、ローブを置き、魔法陣の外から魔力を流す。
「いくぞ!」
魔力を注入すると、魔法陣は赤い光を放った。光は少年とローブを包み込み、雷のようにバチバチと音を立てながらやがて光は柱となり、消えた。
「・・・・成功したのか?」
未だに魔法陣の中にある微動だにしない少年と、ローブ。
よく見るとローブからは鱗が消え、ただの布で出来たローブと化していた。
「そのようだな。」
聞き慣れない高めの声が聞こえた。すると、少年は立ち上がり、ローブを拾い上げると、俺の方へ向かってきた。合成は成功したようだ。しかも鱗がとれたとはいえ、ローブを失わずに済んだのは嬉しい。
「やっぱり、俺すげぇわ。化け物ステータスおっかねぇ・・・。」
純粋にそう思いながら、ローブを着て帰路に着こうとしたその時だった。
「そうだね、恐ろしい能力だ。ただ、君自身は使い切れてないようだけどね。少し自惚れが過ぎるんじゃないかな。」
そう言って現れたのは緑髪でショートの青年だった。
「・・・・・久しいな。」
そう答えたのはリドヴィルムだった。
「ようやく見つけたよ、リドヴィルム。再開を祝いたいところだが、そうはいかないんだ。惑星を再構成する際に、奴が干渉してしまったんだ。」
「やはりそうだったか。精霊のお主なら兎も角、儂がこの状態で生きているのは不自然極まりない。『奴』が干渉したせいだったか。・・・・しかしどうやって。」
「・・・・・・。巫女の力だよ。」
「そ、ソフィアは無事なのか!?」
「分からない。でも奴が干渉してしまったせいで、神話で伝えられていた邪神、ファルサーがこの世界で誕生してしまった。」
「ファルサーか、作り話だと思っていたが、実在するとはな。それで、儂を連れてどうする気だ?儂らの力は殆どこいつに渡してしまったぞ?」
リドヴィルムがそう言うと俺の方を見た。話が全くつかめないが、とりあえず邪神が誕生したってところはわかったぞ。
竜神と精霊ってのはこいつらのおかげだったのか。でも自惚れてるってわけじゃないんだよな。でも、確かに俺には使い切れてない。
「自覚はあるようだけど、今のままじゃファルサーの下っ端にすら敵わないよ。」
「そんなに強いのか?」
「強いなんてもんじゃない。彼は宇宙空間と惑星の元となる原素を作り出した創世神が光と闇を創りだした時の闇の神だ。闇が光を消そうとしたので、やむなく創世神自らが消し、闇の残党と光が残ったと言われているんだ。全部作り話だと思っていたんだけどね。」
「創世神か光の神様はいないの?」
「存在していれば助かったんだけど、強力な魔力の衝突だけでなく、何か偶然が重なれば今回のようになるとは思うんだけど信憑性が低くてね。」
「じゃあどうしろっていうんだ?力をつけてないうちに倒すのか?」
「それができたら苦労しないよ。ファルサーは完全に力をつけるまではモノとして存在しないんだ。彼の力の源はここに存在しているモノの悪意の存在さ。人は盗賊、行為としては戦争や紛争。惑星を再構成したといっても悪意は取り除くことは出来ないんだ。そこで僕とリドヴィルムで同志を集めようと思う。あと10年もすれば奴は完全に力を取り戻す。必ずここを手に入れるために戦争が起こるはずだから、その前に人を集めるんだ。」
「そもそも、なんでそれがファルサ―だって分かったんだ?大体にして創世神の創りだした闇ならどれだけ人が束になっても消されるだけだろう?」
「僕は精霊だからって言っても信憑性は無いよね、でもそうとしか説明できないんだ。後、どうしてファルサ―かってのは予測でしか無い。ソルムよりも強力な嫌な魔力を秘めて、彷徨っているんだ。最近魔力溜まりが出来るのはそのせいかもしれないね。」
・・・・・あの変異種はファルサ―(仮)のせいだったのか。
「俺は協力しなくてもいいのか?この能力持ってるわけだし。」
「君はこの世界で最強にならなければならない。なんて言ってもファルサ―に勝てるのは君しかいないからね。でも、そうは言っても今の君じゃ瞬殺されるね。その能力の使い方じゃ、僕やリドヴィルムにすら勝てないと思うよ。何なら試してみるかい?」
そう言うと青年、ドリュアディスは姿を消すといきなり目の前に現れ、肘打ちをしてきた。
俺は瞬脚で回避して、距離をとった。
「手加減しなくていい。全力でかかってきてくれ。」
ドリュアディスはそう言ってきたので、俺は瞬脚で距離を一気に縮めると、風の古代魔法、トーベンヴィントを無詠唱で、更にゼロ距離で食らわせた。
しかし、そこには彼の姿はなく、後ろから衝撃が走った。
俺は鉱山の岩壁に叩きつけられた。防御力があるので、身体的ダメージは軽いものだが、痛みは初めてのものだった。
・・・・かなり痛い。骨が折れるくらいに。勿論、折れていないが。
「ぐぅっ。」
俺はうめき声をあげながら、めり込んだ岩壁から身体を離す。治癒魔法を無詠唱で唱え、瞬脚で今度は彼の後ろに回り込んだ。そして、今度は竜魔法を無詠唱で使う。竜爪という、腕が竜になる魔法を使い、彼に向かって振り下ろした。
ゴオオオォォン!
ものすごい衝撃とともに、俺の居たところ以外の地面が刳れ、土煙が舞うが、やはり彼は居なかった。
ドリュアディスは距離をすでに取っており、何メートルか向こうに居た。
「魔力の流れ、君の動き、君の動きによって発生する風、全て分かり易すぎだ。それじゃこの惑星の戦闘種族の上を行くことは出来ない。今のままじゃ、能力をいくら持っていようと、僕らに、ましてや、この惑星の戦闘種族にだって勝てない。能力はあっても君自身が弱いんだ。君は前と違い、レベルが存在するはずだ。そのレベルはこの惑星の人とは違う上がり方をする。君自身の戦闘能力が上がることで、レベルも一緒に上がるようになっている。君は戦闘の素質は十分持っている、ただそれに気づいていないだけだ。さっきも言ったが、邪神が完全になるまでに10年近くかかる。それまでに強くなるんだ。たっぷり時間があるだろう?だからやりたいようにやればいい。遊んでも、ソフィアを探しても、修行したって何したっていい。だけどこれだけは覚えていてくれ、君は強くならないと、ソフィアどころか出会った人々を守れず、ただ消されるのを指くわえて見ることになるんだって事を。」
ドリュアディスの言葉は自然と響いてきた。確かに今までは能力だけで戦ってきた。初めて能力を手にした時のサーベラウルフ戦は邪眼で追っ払っただけだし、変異種の時だって古式魔法が無限の魔力で使えたからいいもので、魔法が使えなかったら殺されていた。リリアの時だって瞬脚と無限の魔力によって出来る、魔力による肉体強化魔法が無ければ、短剣を掴むことだって出来ないし、そもそも助けることもできなかった。
しかもこの全てにおいて、今は竜神の加護と表示されているものの、リドヴィルムから貰った鉄心がなければ怖気づいて腰を抜かしていただろう。
俺は能力をただ使ってただけの凡人ということに気づいた。でも、彼が言うには戦闘の素質があるらしい。特訓しようと思った。
「じゃあ、僕とリドヴィルムは行くよ。頼むよ、君がこの世界の希望なんだから。」
そう言うと、ドリュアディスは飛んでいった。それを追うように、リドヴィルムも背中に魔法を掛け、竜の翼を生やすと、飛んでいった。
・・・・・なんだかんだで竜魔法使えるかよ。
俺は誰もいなくなった鉱山で、瞑想の真似事をしてみた後、鉱山を後にした。
町に入った頃にはすでに日は落ちていて、宿に向かった。
宿に着くと、シチューのいい匂いがした。今日はファングラヴィットのシチューなので、ヨダレが出そうだ。
食堂に入って、看板娘の少女と話をしていると、女将さんがシチューを持ってきた。ファングラヴィットの肉は、鶏もも肉のような味で、とても美味しいシチューだった。
ちなみに少女と話していてわかったのは、ここは家族3人で切り盛りしていて、父がブラン、女将さんがナタリー、二人の名前をとって、少女がラナという名前だそうだ。
俺はシチューを食い終わると、部屋に戻って風呂に入り、すぐにベッドに横になった。
昨日以上に色々なことがあったので疲れた。鍛錬をしながらギルドで依頼をこなしてソフィア探しというのが、これからの生活パターンになるのだろうと思い、眠りについた。
ちなみにリドヴィルムと出会ってすぐ別れたのがちょっぴり寂しかったのは、内緒の話である。
次作も、というかしばらくはリン視点でお送りいたします。
リドヴィルム達が出てくるのはしばらく後になりそうです。
更新はまた、早いうちにできたらと思います。
ではまた。