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邪神のシマ(仮)  作者: チョーゆんふぁ
水龍の迷宮
3/3

奇妙な冒険者

地下七層、まだ俺達はオークの集団と戦った現場にいた。

先程の戦闘を第三者が見ていたなら奇妙な点が幾つも有っただろう。

あえて挙げるなら俺のパーティーの面子だろうな。

ヒトの共通語を喋れず吠える奴らとか天井を歩き回る淑女とか……

今もその淑女は生きたまま捕らえたオークにカブリ付きチュルチュルと中身を吸い出しているしな。


「主様、オークの味に飽きちゃったから残った2つは好きにしてよくてよ」

肉も内臓も吸われてミイラになったオークに脚を乗せてオホホホホーと満足気に高笑いを上げてるが、オーク4体は結構な量だぞ。


まあいいや、いただけるもんは貰っときますか。

「ありがと、いつも悪いな」

ホントに何時もおこぼれをちょうだいしてるからつい揉み手で礼をしたくなるぜ。一応しないように気をつけてるが主従関係がヤバイな。


「アフロディーテ、こいつさっきウィドーって言ってたわよ」

はう、フレアさんてば何ばらしてんの!

一瞬、玄室内に耳が痛いほどの沈黙が訪れた。


「ギュギ、ギ、ュ」

バキッ、ボキッ


「あら、主様。ごめんあそばせ。脚が滑ってオークを踏んじゃいましたわ」

美しい顔の淑女に見つめられて嬉しくないのは何故だろう。彼女の脚元でぐちゃぐちゃ背筋の凍る音がする。


「主様、あたしは身も心も透き通るほど純真な乙女なの。身を焦がすような恋もしたことないあたしにウィドー、未亡人とか後家なんてあんまりじゃなくて」

シクシク、手で顔を覆い悲しむそぶりは可愛いが指の間から俺を貫くような鋭い視線は貫禄十分なんじゃないか。


「可哀想なアフロディーテ、こいつってばホントにデリカシーに欠けるのよね」

フレアは胸で組んでいた片方の手をヒラヒラさせてアフロディーテに同情するような事を言ってる。


その姿は街の商店街で井戸端会議をしている年配女性の仕草そのものだぞ。

賢い俺は指摘しないけどゲイズもダンも目をそらして関わろうとしないようにしている。姿のない黒瑛を探したらゲイズの影に隠れて息を殺していた。


男性陣は正しい選択をしているが俺の味方はいない。


諦めよう。素直に謝るのが一番だ。

「俺が悪かったよ。フレアはダンの治療、終わったら黒瑛以外は皆で掃除屋のスライムが集まる前にオークからめぼしい物取るぞ」

リーダーである俺の指示でフレアはダンの治療を再開する。


翠のローブ姿の美人はフレア21才、俺の幼馴染みで村一番の魔女だ。攻撃から補助、治療までこなす魔法使いは滅多にいない。ある使命を果たすため俺と二人で山間の隠れ里からやって来た。


そのフレアに治療されているのはダン、鎖帷子を着たコボルトで槍と大きな盾を使う前衛だ。

フレアに忠誠を誓った騎士でもある。

現在8歳で寿命の短いコボルトのなかでも若手のホープだ。ちなみに年齢はヒトと同じ数え方で平均寿命は約40才だそうだ。


オークとの戦闘で大活躍したゲイズはトロールでも指折りの勇猛な部族の戦士だ。一般的にトロールは知能が低く獰猛なヒト食いの魔物と恐れられているがゲイズの部族は俺達の村と同じ神を祭るせいか昔から友好関係を築いてきた。中でもゲイズは子供の頃からの付き合いで俺をボスと呼んでなついていた。理由はわからない。

怪力とトロール特有の超回復力で巨大メイスと大盾を振るい、直接戦闘じゃ不死身なんじゃないかと言ってもいいくらいの俺達パーティーの主戦力だぜ。

その巨体に合う防具なんて売ってないから動物の皮でフレアが作った貫頭衣と腰巻き、あとはなけなしの金で特注した兜だけだ。冒険者なら裸と表現してもいい装備でリーダーの俺を差し置いて無双しやがる頼りになるダチだ。


オークの死骸の山で優雅に爪の手入れをしているのは天井からの奇襲で網を使って文字通りオークを一網打尽にした蜘蛛女、もとい巨大蜘蛛の下半身に美しい美女の上半身をした妖魔アルケニー族のアフロディーテ。

壁だろうが天井だろうが自在に歩き極細で丈夫な蜘蛛の糸を使い相手を絡めとる。最近では自分の糸を編んで網状にし投げつける技も会得した。

接近戦ではレイピアと自慢の蜘蛛の脚を使い笑いながら暴れまわる恐ろしい淑女だ。

気位が高く今も俺の指示を無視してネイルケアに勤しんでいる。胴体がクロゴケグモそっくりだからウィドーと俺は名付けたが本人は未婚なのでその呼び名を嫌がっている。というか呼んだら怒られる。

美人に怒られて喜ぶ趣味はないので普段は気をつけているが戦闘中はついやってしまう。アダ名くらい受け入れてくれりゃいいのにな。


まあ、こんな風に俺のパーティーはヒトと亜人と魔物の混成で結成されている。

亜人はともかくトロールやアルケニーなんて普通の冒険者が聞いたら正気を疑うだろうな。


俺達のパーティーの最後の一人は斥候のゴブリンの黒瑛(こくえい)。旅の途中でたまたま立ち寄ったゴブリンの村の自警団員で忍者と呼ばれる特殊な戦士に憧れる痛いおじさんだ。

村でも浮いている存在だが仕事熱心で腕も立つからどうにかやってこれていたが俺達を野盗と勘違えし村中を巻き込む大騒動にしてしまった。後にゴブリンの戦士達をのして村長との会談に持ち込み誤解は解けたが騒動の責任を取って黒瑛は追放になった。

行き場のない黒瑛を俺達は受け入れそれ以来黒瑛は俺をお館様と呼ぶようになった。

俺の村に来る旅の商人が見せる人形芝居みたいでむず痒いがゲイズ同様に俺を慕って言っているみたいだから無下にしづらい。


以上が今日のパーティーメンバーだ。

他にも仲間がいるが今はいないから紹介はいいだろう。


「黒瑛、頼んだぞ」

『お任せください』

オークの死体あさりを連中に押し付け石の箱の前で俺は黒瑛に命じた。

ここは玄室と呼ばれる扉で仕切られた迷宮内の小部屋だ。

小部屋といっても一辺50メートル高さ20メートルもあるドラゴンや巨人でも戦えるほどの広さがある。

その奥に古代魔法で造られた石の棺の様な宝箱が置かれている。

この宝箱は空なら開きっぱなしだが何か物を入れると蓋が閉じ、物を入れた本人以外が開けようとすると魔法で自動的に設定されたランダムな罠が作動する仕掛けになっている。

この手の魔道具は子供のビックリ箱から商人貴族の宝物庫まで一般にも売られて珍しい物じゃないが迷宮の宝箱の罠は凶悪で致命的なことが多い。

トレジャーハンター系のギルドで罠の解除法を習得した仲間がパーティーにいないとお宝があっても素通りするしかないって事になるからどのパーティーも一人は専門家を仲間にしている。


今は蓋が閉じているから何かお宝が入っているって証拠だぜ。


黒瑛は懐から細長い刃物や曲がった針金を幾つか取りだして慎重に蓋の隙間を広げ差し込みゴソゴソカリカリ始めた。

罠の発動は開ければすぐじゃない。刃物で僅かな隙間を作りそこから発動のカラクリを針金で解除する。

そう言えば簡単だが解除の腕は人其々、新米なら隙間を作る時点でドカンとなる。

幸いうちの黒瑛は忍者とやらに憧れて幼い頃から解除技術と短剣術に投てき術を毎日朝から晩まで修行していたそうだ。


おかげで他の冒険者連中と比べても腕は一級品。

俺は後ろでドンと構えてればいいのさ。


カチリ


宝箱から何かの弾ける音がした。


『お館様』

いそいそと道具を懐に仕舞いながら黒瑛が此方を向いた。

「やったか、毎度ご苦労さん」

いつもながら手早いな。俺は中の宝を思いご機嫌で黒瑛の手際を誉めた。

「何が出るかな♪何が出るかな♪ふふふん♪」

鼻唄まで歌っちまうぜ。

『申し訳ございません、失礼します』

言うやいなや黒瑛の姿が目の前から掻き消えた。


「え?」


次の瞬間俺の視界を覆ったのは宝箱の底から怒濤のように溢れ出す黒い液体の壁だった。


※トラップ・クラーケンの目潰し


キャーー!

ウガー!

アォーン!


「あらあら、危なかったわ♪」


全身が闇色に染まった俺が振り返り目にしたのは、俺同様に真っ黒になったフレア、ゲイズ、ダンの姿と天井に回避して汚れ一つないアフロディーテだった。


一人足らないな。


墨がしみた目を凝らして辺りを探すが見あたらない。

「こーくーえーいーー君、どーこかなーー」

ガキの頃の隠れんぼと同じだ。相手を警戒させないように自然に穏やかに……何処にいやがる!


「主様、お探しの方はあたしの背中にいらっしゃいますわよ」


ギンッ、なんやとわれ!

「てめえも回避したのか!」

『お館様、命に関わる罠ではないと分かっていたのでつい……』

耳を丸めて更にアフロディーテの影に隠れようとする。


ちっ、仕方ねえ。

「もういいよ、その代わり死体漁りは一人でやれよ」

『承知した』

黒瑛は天井に張り付くアフロディーテの背中から飛び降り軽やかに着地をきめる。

『後は我がやりますので皆さま方はお休みください』

そう言って墨で黒くなったオークの死体を物色し始める。


「もうイヤー、水の魔法で洗い流すから皆集まって!」

ブチキレたフレアが物騒な事をいいだす。

「水の魔法って、それ攻撃用の魔法じゃねえか」

バカ言うなよ、直撃したら大事になるぜ。

「一度天井に当てて降ってきた水で洗うに決まってるでしょ」

頬をふくらませて俺を睨む。クソ、そんなフレアの表情も可愛いがそれどころじゃない。

それはヤバイだろ。

「待て待て、魔法が天井の岩を砕いてみろ。石の雨なんて大惨事になるだろ。冒険者ならこれくらいのこと珍しくもないだろ。今日はもう引き上げて地上で風呂にでも入ろうぜ!俺が奢るからさ」

昔のお前はそんな過激な子じゃなかったろ。


必死に引き止め何とか魔法洗浄は中止になった。

ゲイズ達もホッとしている。


『お館様、全て改めましたが武器以外持っておりませんでした』

黒瑛の報告を聞き俺の懐はちょっぴり寒気がした。

「いや、まだだ。俺達には宝箱があるじゃないか!」

風呂は贅沢品だ。貴族じゃあるまいし一般人は湯に濡らした手拭いで拭くか井戸や川で行水が普通なんだ。

風呂代は高い!


「主様、お宝なんだけど」

俺より先に宝箱を覗いていたアフロディーテが呼んでいる。

「銀貨か金貨か?それとも宝石か?」

第7層なら期待は出来る。


アフロディーテは宝箱の中に手を入れて何かを掴み上げようとしながら。

「これ動物の肉ね。半腐りの」

綺麗な顔をしかめて何かの肉塊を俺に差し出す。


「ふ、懐が寒い」


『お館様、武器も錆び付いて売り物にはなりませんぞ』


黒瑛の無邪気な声に俺の心まで闇色に染まった。



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