解いた髪の落ちる音
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ヘアブローを終えて宍戸ししど沙織さおりは、ストゥールから少し腰を上げ、チェストの扉を開けてガウンを探した。
完全に空調は稼働していて、寒さのさの字すら感じなかった。1時間、少し熱いくらいの湯船に浸かり、休息をとってきた。身体からは、淡いボディウォッシュの匂いが立ち昇っていた。
ずっとダブルベッドの縁に腰を下ろしていた堤つつみ省吾は、ウイスキーグラスに入れたウォッカのソーダ割をちびちび呑んでいた。
浮かんだ氷がグラスに触れて、カランと音を立てる。
「ずっと飲んでたの?」
沙織が少し驚いたように訊いてきた。省吾はどちらかと言うと下戸に近かった筈だ。
「そんなに呑んで大丈夫なの?今日は泊まっていいとは言わないわよ」
溜息をつきながら沙織は背中まで届く髪を、ふぁさっと掻き上げた。
「そっかあ。そりゃ残念だな」
呟くよう(声を出すと、再びウォッカのソーダ割に口をつけた。ウォッカが喉を焼き焦がし、やかまて胃に落ちて、そこも焼き尽くそうとした。
「強いお酒なのでしょう?気をつけてね」
ウォッカの匂いは、沙織の座るドレッサーの方まで漂ってきた
静かな部屋に、アルコールのツンとした匂いと優艶なボディウォッシュの香りが混ざり合う。
「……本当はさ、酒なんて一滴も飲めないんだよ」
省吾はグラスをサイドテーブルに置くと、力なく笑った。その両目はうっすらと赤く充血している。
「じゃあ、なんでそんな無理して……」
あきれ顔で振り向いた沙織の言葉は、彼の次の言葉で遮られた。
「今日、会社でリストラを言い渡された。……情けないだろ。かっこ悪い姿、見せたくなかったんだ。しらふじゃ、ここに来る度胸すら出なくてさ」
そう言ってうつむく省吾の肩は、小さく震えていた。
沙織は静かに立ち上がり、鏡の前から彼の元へと歩み寄った。そして、ウイスキーグラスの横にあった冷えたミネラルウォーターのグラスを手に取り、省吾の手に優しく持たせる。
「ばかね。かっこ悪いところなんて、今さら気にすること?」
沙織は彼の隣に腰を下ろし、その頼りない肩にそっと自分の肩を寄せた。
「泊まっていっていいわよ。……ただし、明日の朝ごはんを一緒に食べて、ちゃんと酔いを覚ましてから帰ること。いいわね?」
省吾は渡された水をゆっくりと飲み干すと、込み上げてくる温かいものを噛みしめるように深く頷いた。喉を焼くウォッカの熱さは消え、胸の奥にはただ優しいぬくもりだけが残っていた。
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
自分を偽るための強いお酒ではなく、最後にお互いの体温と優しいお水で解きほぐされていくような、静かな二人の夜を描いてみました。
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