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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第9話 グスタフとの決闘 前編

 リート学園の生徒会室は、普段よりもずっと騒がしかった。

 理由は一つ。

 屋上転落事件。

 グスタフがテオがエリザベートを突き落としたと告発。

 それに対してエリザベートがグスタフに突き飛ばされて、手すりを乗り越えてしまったと告発。

 グスタフはエリザベートがテオに脅されていると主張し、お互いが一歩も引かないで水掛け論となっていた。

 ローゼンベルク家の令嬢、エリザベート。そしてクレーテ侯爵家の嫡男、グスタフ。二人がにらみ合うのを横目に、テオは


(うう……なんで俺がこんな目に……早く帰りたい……)


 と思っていた。

 生徒会長、ジークフリート・フォン・アルテンベルクが机を軽く叩く。


 コン。


「静粛に」


 ざわめきが少しだけ収まった。


「さて、このままでは結論は出ないな。これで最後だ、もう一度主張を聞こう」


 書記がペンを走らせる。


「まず告発者。前へ」


 グスタフが一歩前に出た。

 胸を張り、大きな声で言い放つ。


「ベルンシュタインの次男、テオドールがローゼンベルクを突き落とした!」


 室内がやはり主張は変わらなかという雰囲気になる。

 生徒会長は冷静に、エリザベートに話しかけた。


「被害者の証言を」


 エリザベートが前に出る。

 凛とした声で言った。


「私はクレーテさんに突き飛ばされました」


 グスタフは顔を真っ赤にして否定した。


「嘘だ!」


 グスタフが叫ぶ。


「嘘ではありません」


 エリザベートは微動だにしない。


「ベルンシュタイン君は、私を助けるために飛び降りました」


 ざわめきが広がる。

 生徒会長は次にテオを見る。


「被告人。証言を」


 テオは頭をかいた。


「えっと……」


 少し考えてから答える。


「俺は落ちるのを見て飛び降りました。その前のことは覚えていません」


 それだけだった。

 面倒なことには巻き込まれたくないがゆえに、グスタフについてのことを証言しなかったのである。

 そして沈黙が走る。

 書記がまとめる。


「整理します」

「クレーテ君は『ベルンシュタイン君が突き落とした』と主張」

「ローゼンベルク君は『クレーテ君が突き飛ばした』と証言」

「ベルンシュタイン君は『助けたが、それ以前は覚えていない』と証言」


 風紀委員長が腕を組む。


「証拠は?」


 沈黙。


「目撃者」


 沈黙。


「物証」


 沈黙。


 書記がぽつりと言った。


「……完全な水掛け論ですね」


 グスタフが机を叩く。


「何を言う!犯人はベルンシュタインだ!」


 テオは困った顔をする。


「いや、違うんだけど」

「嘘をつくな!」

「嘘じゃない」

「嘘だ!」

「嘘じゃない」


 風紀委員長がため息をついた。


「……子供の喧嘩ですか」


 生徒会長がゆっくり立ち上がる。


「このままでは裁定は出せません」


 観覧している生徒たちがざわつく。


「どうするんだ?」

「証拠ないぞ」


 生徒会長は静かに言った。


「よって――」


 一拍。


「決闘裁定とします」


 どよめきが広がる。


「決闘!?」

「マジかよ!」


 生徒会長は続ける。


「両者が決闘を行い、勝者の証言を正当と認めます」


 これは貴族社会では珍しくない裁定だった。

 ゆえに、リート学園においても、決闘で決着をつけるというのは認められていた。

 グスタフの顔が一瞬青くなる。彼の実力は低い。そして、本人もそれを理解している。

 だがここで拒否すれば、犯人扱いになる。

 歯を食いしばった。


「……いいだろう!」


 テオを睨む。


「決闘してやる!」


 テオは肩をすくめた。


「別にいいけど」


 生徒会長が言う。


「決闘は三日後。訓練場で行う」


 コン。


「これにて裁定を終了します」


 生徒会室は再びざわめきに包まれた。


「ベルンシュタイン強いらしいぞ」

「クレーテの息子ヤバくね?」


 グスタフの背中を冷たい汗が流れた。


(まずい……普通に戦えば負ける)


 その時、彼の頭に浮かんだのは――


(薬を使ってベルンシュタインを弱らせよう)


「……決まりだ」


 そして呟く。


「ベルンシュタイン、決闘まで楽しみにしてろ」


 その声には、すでに卑劣な企みが滲んでいた。



 ――決闘裁定が出た翌日――


 グスタフは、学園の裏庭で苛立っていた。


「くそ……」


 地面を蹴る。


「どうやって薬を盛ればいいんだ!」


 彼は強くない。

 剣術も魔術も平均以下。

 これまで勝てていたのは、家の権力と金のおかげだった。

 しかし今回の相手は――


 ベルンシュタイン。


 街の不良を半殺しにしたという噂の男。


(薬を使うことを思いついたまでは良かったが、俺が直接飲ませるわけにはいかないよな。何か、何か良い方法は……)


 その時だった。


「まったくあくどい奴だぜ」


 近くで、誰かが話している。


「ローレンツだろう」


 グスタフは思わず耳をそばだてた。


「この前、違法娼館潰して大儲けしたのに、会費だ上納金だと言って、戦利品を売却した金を奪っていくじゃねーか」

「でもさ」


 もう一人が言う。


「ボスの命令なんだろ?」

「違うぜ。ボスはそんな命令してない。全部あいつが独断でやっているんだ」

「なんだよそれ」

「金に汚いんだよ。以前からそういう噂もある。だいたい、コンシリエーレだって勝手に名乗っているだけだろ。ファミリーの金の管理をあいつに任せるのに誰が賛同した?ないだろ」

「そういやそうだな」

「あいつなら、金をもらってボスの名前でファミリーを動かすことだってやるだろ。いや、ファミリーを裏切ることだってやるだろうな。なんか、ボスに対する敬意っていうのがなくて、ボスの暴力に従っているだけに見える」


 それを聞いてグスタフの口元が、ゆっくり歪んだ。


(なるほど……)


(テオドールファミリーに、ローレンツ・フォン・クライネルトっていうのがいたな。あいつは金で裏切るか。もう少し調べてみよう)


 グスタフはローレンツのことを聞きまわると、金で裏切るという確信を得た。

 そして、グスタフはローレンツを呼び出した。

 場所は学園の空き教室。


 扉が開く。

 ローレンツが入ってきた。


「ボスと決闘する奴が俺に何の用だ?命乞いするために俺に仲介しろっていうのなら、それ相応の金を――」


 いつもの胡散臭い笑顔。

 それを見てグスタフは勝ちを確信した。


(いきなり金の要求か。これなら――)


 グスタフは椅子にふんぞり返った。


「お前に頼みがある」


 ローレンツの目が細くなる。


「頼み?」

「決闘直前に、ベルンシュタインに下剤を飲ませろ」


 一瞬、沈黙。


 ……次の瞬間。


 ローレンツは鼻で笑った。


「なめるな」


 低い声だった。


「俺はテオドールファミリーのコンシリエーレだ」


 胸を張る。


「ボスを裏切ると思うか?」


 グスタフは無言で机の上に――


 ドン


 重たい袋を置いた。

 金貨が入った袋だった。

 袋の口からあふれ出る、金色の輝きにローレンツの目が止まる。


 沈黙――


 三秒。

 五秒。


 ローレンツは咳払いをした。


「……話だけは聞きましょう」


 態度が百八十度変わった。漫画であれば、眼球にお金のマークが浮かんでいるところである。

 グスタフがニヤリと笑う。


「決闘当日」

「差し入れを持っていけ」

「差し入れ?」

「決闘の相手に敬意を示して、差し入れをするという理由だ。用意するのはチーズケーキだ。その中に下剤を入れる」


 ローレンツは腕を組む。


「ほう。しかし、それをボスにだけ食べさせるっていうのもなあ。怪しさ満点だろう」

「お前も食えばいいだろう。ただし、目印にミントの葉を乗せておく。それが下剤入りだ」


 グスタフは身を乗り出す。


「それをベルンシュタインに食わせろ」


 ローレンツは顎に手を当てた。


「なるほど。合理的な作戦ですね」


 そして金貨袋を持ち上げた。

 重い。

 かなりの額だった。


「成功報酬?」

「当然だ。しかし、前払いを少しだけしておこう」


 グスタフは笑った。そして、金貨を5枚ほど、ローレンツに差し出した。

 ローレンツはそれを素早く受け取る。


「成功して決闘に勝ったら、ファミリーをそのまま乗っ取りましょう。その時はボスと呼ばせてください」


 ローレンツは満面の笑みになった。


「任せてたぞ」

「コンシリエーレの名にかけて」


 そして二人は力強い握手を交わす。


「完璧にやり遂げます」


 グスタフは満足そうに頷いた。


「いいだろう」

「決闘は終わったな」


 ローレンツは教室を出た。


 廊下を歩きながら、手の中の金貨の感覚を確かめる。

 そして小さく呟いた。


「クックック……どちらに転んでも俺は損しない」


 完璧な作戦だと思えた。

 ローレンツは知らない。グスタフは全ての責任をローレンツに押し付けようとしていることを。


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