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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第15話 風紀委員

 生徒会室には、いつもより張り詰めた空気が漂っていた。

 机に手をついたまま、ジークフリートは低く言う。


「入学早々のマティアス・ヴォルフへの暴行。学園内でのマフィアファミリーの結成。演劇クラブの乗っ取り。テオドール・フォン・ベルンシュタインはやはり奴は危険だ」


 静かに頷くディートリヒ。

 近衛騎士団長の息子にして風紀委員長。ジークフリートの忠実な部下だった。


「排除しますか」


 紅茶を優雅に口へ運びながら、シャルロッテが呆れた声を出す。


「やめなさいよ」


 ルミナは楽しそうに身を乗り出した。


「戦いですか?」

「違う」


 ジークフリートは即座に否定する。


「これはあくまで調査だ。結果が出たら、それなりの対応をする」


(絶対違う)


 その場の全員が同じことを思ったが、誰も口には出さなかった。

 第一王子としてあまやかされて育ってきた彼は、気に入らないものは力で排除してきた。

 時には政治力、時には物理的な暴力。今では一応体面を気にするようになり、露骨な対応はしなくなったが、本質は変わっていない。

 誰もがそれを理解していたのである。

 ジークフリートはディートリヒを見据える。


「風紀委員長ディートリヒ・フォン・シュタイン」

「はっ」

「テオドール・フォン・ベルンシュタインを調査しろ。風紀を乱すようなことがあれば、即座に排除だ」


 シャルロッテが吹き出した。


「ふふっ……本気なの?」


 ジークフリートは真顔だった。


 放課後。

 テオはローレンツに背中を押され、かつて演劇クラブであったアジトへと向かっていた。


「ボス、今日はきっと驚きますよ」

「毎日驚かされているんだけど」

「今日のはひと味違います」

「猛烈に悪い予感がしてきたんだ。帰っていいかな?」

「何をおっしゃいますか。俺がこのためにどれだけ先行投資をしたと思っているんですか」


 それを聞いたテオは、悪い予感に押しつぶされそうになっていた。

 こうして到着し、アジトの扉を開けた瞬間。


「いらっしゃいませ」


 室内から若い女性の声。

 室内はまるでキャバクラのようであった。ソファーとテーブルが用意され、そこで女性にお酒を注がれる構成員たち。


「どうですか、ボス。気に入りましたか?」

「ローレンツ、これは?」


 くらくらする頭に手を当て、テオはローレンツに訊ねた。

 どや顔で説明をするローレンツ。


「ここで金を稼ぐ方法を考え付きました。家賃のいらない酒場として使うことで、構成員や生徒たちを客として呼び込み、莫大な利益を稼ぐというわけです。女たちに支払う給金も高いので、質の良いのが集まりました」

「あの、ここは学びの園……」

「何をかたいことを言っているんですか。ほらほら、ご新規さんご案内!」


 ローレンツに押されて室内に入る。

 無理矢理ソファーに座らされると、すぐに女性が横について、グラスにワインが注がれた。


「学校でお酒は――――」


 必死に断るテオ。

 その時である。


「何をしているか!」


 怒鳴り声が響く。

 振り向くと、そこにいたのはディートリヒだった。


「まずい――」


 ローレンツは焦った。鬼の風紀委員と噂されるディートリヒである。

 問題になるのは間違いなかった。


「風紀違反だよな。これだけのことをすれば退学だな」

「退学……」


 ローレンツの頭の中のコンピューターが、退学を回避するために高速演算を開始した。

 そして出た結論は……


「ボス、だからやめようって言ったじゃないですか」


 テオに全ての責任を擦り付けることだった。


「ええ!?」


 いきなり言われて戸惑うテオ。


「やはり、貴様が首謀者か」


 ディートリヒは納得した。


「ち、違うから」


 必死に否定するテオ。

 しかし、ディートリヒは信じない。


「言い訳とは見苦しい。ならば、いやでも自白するようにしてやる。俺は魔力を使うと、その反動から虎の獣人になるんだ。お前は力自慢らしいが、獣人化するほどの俺に勝てるか?殴られて泣いて本当のことを言うようにしてやる」


(俺以外にも体が変化する人がいたんだ。いや、今は感心している場合じゃない。これは絶対に許してもらえない流れだ。そんなのと戦うとなれば、俺も――)


 テオは女体化を見られない方法を考えた。


「みんな、俺は彼と話し合いをしてくるから、絶対についてこないでくれ」

「ほう、子分の前でカッコ悪いところは見せられないか」


 そう言うと、二人は校舎裏へと向かった。


(助かった。今のうちにこいつらを丸め込んでしまおう)


 ローレンツは責任逃れに必死だった。


「この酒場はボスの発案。責任はひとりでとると俺に目で訴えた。だからついてくるなって……」


 ウソ泣きであるが、構成員の心に訴えかけた。

 酒に酔った構成員たちは、ローレンツの嘘を簡単に信じてもらい泣きをする。


「ボス、俺たちのために」

「ううう……」


 酒のせいで構成員たちは涙もろかった。

 そして、ローレンツも泣いた。


(くううう、ソファーにテーブル。酒の仕入れなど、全部パアか。俺の金が……)


 自分のために泣いていた。


 そのころ、校舎裏に来たテオたち。


「ここなら気兼ねなくやりあえるな」


 ディートリヒがそう言った次の瞬間、魔力が膨れ上がる。

 骨が軋む音。

 筋肉が膨張する。

 背がさらに伸び、牙が覗く。


 そして――


 虎の耳と尾。

 完全な虎獣人。


「殺しちまったらわりいな!!」

「えええええ」

「行くぞ!!」


 ディートリヒが踏み込む。


 その瞬間――


 今度はテオの体が変化した。

 輪郭が細くなる。

 髪が伸びる。

 空気が一変する。


 そこにいたのは――


 可憐な少女。

 だが、その瞳は同じだった。

 落ち着いた灰青色。


「何か変わったようだな」


 ディートリヒはテオの変化を感じた。

 しかし止まらない。

 テオを吹っ飛ばすつもりで、体当たりをかました。


「……は?」


 ぶつかった瞬間感じたのは、男の分厚い胸板ではなく、クッションのような柔らかさ。

 一瞬、思考が追いつかない。


 だが本能は動いた。

 一旦距離を取って、再び踏み込む。

 拳が振るわれる。

 当たらない。

 ひらりと避けられる。

 軽やかに。

 無駄なく。

 しなやかに。


(……美しい)


 思わず、そう思った。

 テオが動いた。

 距離が詰まる。

 目が合う。


「勘違いだし、引いてくれないかな。ローレンツには止めるように言っておくから」


 その言葉でディートリヒの心臓が跳ねた。

 ドクン、と。


(なんだ、この感覚は)


 体が動かない。

 いや、動けない。

 ディートリヒは一歩、後ろに下がった。

 一度冷静になるため。


(殿下の命令を遂行しなくては)


 下唇を強く噛み、浮ついた気持ちを消し去る。


「駄目だ。それに、貴様が首謀者だろう」

「やっぱり駄目か」


 テオは淡い期待を抱いていたが、それが高望みだったと諦めた。

 そして踏み込む。


「死なないよね?」


 そう訊くが、ディートリヒに返答する時間は無かった。

 テオの拳がみぞおちに入る。

 巨大な虎の体が宙を舞った。

 意識を失い、そのまま背中から落下する。

 その衝撃でディートリヒは意識を取り戻した。

 そして、ポツリと口にする。


「……撤退する」

「え?」

「これ以上は戦えん」


 テオは安堵した。

 わかってくれたと思った。

 ディートリヒは静かに言う。


「その姿……」


 一拍。


「惚れた」


 テオの顔が固まる。


(ばれてる!?)


――――


 ディートリヒは生徒会室に戻った。


「どうだった」


 ジークフリートの問い。

 ディートリヒは真顔で答える。


「……戦えません」

「なぜだ」


 一拍。


「惚れました」


 沈黙。

 シャルロッテが吹き出した。


「ぶっ……!」

「は?」


 ジークフリートの顔が固まる。

 ディートリヒは真剣だった。


「惚れた相手は殴れません」


 ルミナが微笑む。


「素敵ですね〜」


 バルタザールが腕を組む。


「同性相手に恋をしましたか」


 カスパルが淡々と書き込む。


「風紀委員長、恋愛により戦闘不能」


 ジークフリートはゆっくりと目を閉じた。


「……なるほど」

「何が?」


 シャルロッテが笑いながら聞く。

 ジークフリートは重々しく言った。


「奴は危険だ。ディートリヒを魅了した。どうやったかわからないけど、同性を惚れさせるだけの能力がある」

「違います。あいつは女でした」

「ディートリヒ、頭を強く打ったか?」


 シャルロッテは腹を抱えて笑った。


「ぶははははは!!」


 ルミナが楽しそうに言う。


「魅了系ですね〜」


 カスパル


「精神干渉の可能性」


 バルタザール


「市場価値が高い」


 ジークフリートは断言した。


「単なる戦闘能力ではない」


 ふーっと息を吐いた。

 真剣なまなざし。


「極めて危険な存在だ」


――――


 その頃、アジト。

 戻ったテオの元に、構成員たちが駆け寄る。


「ボス、ありがとうございました」

「コンシリエーレに聞きました。俺たちを慰安するために作ってくれた酒場」

「ひとりで責任をとろうとするなんて」


 テオは本気で困っていた。

 ローレンツがにやりと笑う。


「評価が上がっています」

「意味が分からないんだけど」


 ブルーノが頷く。


「ローレンツの言ったことは違っているのでは?」


 だが、その疑問は誰にも届かなかった。


(ああ……俺はなぜ異世界でこんな目に……)


 テオはもう色々と否定する気力もなくなっていた。


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