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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第12話 屋台戦争

 テオドールファミリーの溜まり場は、いつもより少しだけ真面目な空気に包まれていた。

 テーブルを囲む構成員たち。腕を組むブルーノ。その横で、ローレンツが椅子にもたれている。


 その前で、テオは事情を説明していた。


「――というわけで、屋台の売り上げ勝負をすることになった」


 沈黙。

 ブルーノが口を開く。


「ローゼンベルク家の窮状は聞いていたが、エリザベートお嬢様自らが屋台でお仕事をされているとは。しかも、地元のマフィアと揉めたと。ボスが偶然通りかからなければ、危ないところでした。そして、今後も嫌がらせは続くことでしょう」

「俺もそう思う」


 テオは真顔で答えた。


「まあ、通りかかっただけなんだけどね。勝負とか言われても、商売では向こうに一日の長があるから厳しいねえ」

「よく受けましたね?」

「ローゼンベルクが勝手に、だよ」


 構成員の一人が頭を抱える。


「屋台勝負って……」

「ケンカじゃないんですか?」

「商売で勝負?乗り込んでぶっ飛ばした方がはやいでしょう」


 テオは肩をすくめた。


「乱暴なのはちょっと……」


 一同はそれを勝手に「暴力で排除するのはいつでもできるから最後の手段だ」と解釈した。

 そして小さく呟く。


「どうしよう」


 再び沈黙。

 その時、ローレンツがゆっくりと眼鏡を押し上げた。


「ボス」

「なに」

「これは重大な問題です」


 全員の視線が集まる。


「露店通りの商業圏争い」


 ブルーノが頷く。


「ボスの威信がかかった戦い」


 大袈裟な仕草。


「違う」


 テオが否定するも、ローレンツは止めない。



「テオドールファミリーの名誉」

「違う」


 テオは机に突っ伏した。


「そんなものはかかってない」


 ローレンツは満足そうに頷く。


「つまり戦争です」

「違う」


 会話は成立していなかった。

 しかしローレンツは笑った。


「安心してください、ボス」

「嫌な予感しかしないけど」

「秘策があります」


 ローレンツは人差し指と中指を立てる。


「しかも――二つ。敵を倒す二本の矢です」


 ブルーノが呟く。


「ろくでもないだろ」

「完璧です」


 ローレンツは断言した。


「任せてください」


 構成員から湧き上がる歓喜の声。


「流石、知略のローレンツ」

「世界一のコンシリエーレ」

「金に汚い、狡猾な狐」


 最後は若干の悪口。しかし、盛り上がりは最高潮に達した。

 勝手に勝どきをあげる構成員。

 テオは天井を見上げた。


(俺はなぜ異世界でこんな目に……)


――翌日。


 露店通りは朝から騒がしかった。

 焼ける肉の匂い。香辛料の香り。呼び込みの声。人の波。その中で、ひときわ目立つ行列ができている屋台があった。


 その中心に立っているのは――


「……なんで俺がこんな格好してるんだ」


 テオドール・フォン・ベルンシュタインだった。

 黒いメイド服。白いエプロン。頭にはカチューシャ、それもウイッグをつけて、その上から。

 完全にメイドだった。

 女性にしては背が高いので、若干の違和感があった。


 横ではエリザベートが同じくメイド服姿で串焼きを並べている。

 こちらは普通に似合っている。


 テオは深くため息を吐いた。


「ローレンツ」

「はい、ボス」

「説明してくれ」


 ローレンツは腕を組んで頷いた。


「庶民に疑似貴族体験を味わってもらうのです。それが売り上げにつながるのです。そのためには女装」

「どういう理屈だよ」

「メイドです」

「説明になってない」


 ローレンツは真顔だった。


「庶民は貴族の屋敷の生活を知りません」

「そうだろうな」

「しかし憧れはある」

「あるのかな」

「あります」


 断言だった。


「そこで」


 一つ咳払い。


「可愛いメイドが接客する屋台」


 テオは嫌な顔をする。


「なんで俺がそのメイドなんだ」

「ボスは顔がいいので」

「理由が雑すぎる」


 ブルーノが腕を組む。


「理屈はわかる」

「ブルーノまで言うのか」

「似合っています。普段の凛々しいお姿もよいですが、これはこれで――」

「嬉しくない」


 構成員たちもうんうん頷いていた。

 テオは背中にぞわりという感覚が走った。


「ボス、美人ですね」

「普通に可愛い」

「付き合って」


 悪乗りしている構成員に、テオはカチンときた。


「前出ろ」


 テオが本気で言うと、構成員は行列の後ろに隠れた。

 その時、客がどんどん増えてくる。


「串二本!」

「こっち三本!」


 アルフレッドが焼き、エリザベートが皿を並べ、テオが渡していく。


「ベルンシュタイン、遊んでないで。はい、これ!次三本!」

「はいはい!」


 テオは諦めて勝負に専念する。


「ベルンシュタイン、皿!」

「わかってる!」


 しばらくそんなやり取りが続いた。

 そしてエリザベートが眉をひそめる。


「……ベルンシュタイン」

「なに」

「長いわね」

「なにが」

「名前」


 エリザベートは真顔だった。


「忙しいときに『ベルンシュタイン』は長すぎます」


 テオは串を渡しながら言う。


「じゃあどうする」

「短くするわ」

「どうやって」

「……ベルン」

「嫌だ」

「何でよ」

「ベルンは嫌だ」


 エリザベートは小さくため息をついた。


「面倒な人ですね」


 テオは少し考えてから言う。


「じゃあテオでいいよ」

「テオ?」

「そう呼ばれてる」


 エリザベートは少しだけ考えたあと、頷いた。


「分かったわ」


「では、テオ」


テオは一瞬手を止めた。


「串三本」


「……はいはい」


エリザベートが続ける。


「それなら」

「なに」

「私のこともエリザベートは長いでしょう」

「まあ」

「リザでいいわ」


 テオは少し笑った。恥ずかしさからである。

 そして、串をアルフレッドから受け取ると、それをエリザベートに渡そうとして――


「はい、ローゼン……、いや、あの……」

「早くしてよ、忙しいんだから」


 そう言われると、テオは覚悟を決めた。


「じゃあリザ」

「はい、テオ」


 そのやり取りを見ていたローレンツが呟く。


「ほう」


 ブルーノが言う。


「おい」

「もう名前呼びですか」


 テオは揶揄うローレンツを睨んだ。


「黙れ」

「黙ってください」


 リザも不機嫌になっていた。

 ローレンツはそれに怯むことも無い。


「息ぴったりですね」

「ローレンツ」

「はい」

「あとで覚えてろ」

「ああ、ここで秘策第二弾!」


 ローレンツはテオの視線を無視して、秘策の発表をする。


「サクラ!おら、お前ら並べ!」


 ローレンツの号令の下、構成員たちがテオたちの屋台に並ぶ。


「人が集まっていれば、それを見た人も並びたくなるのが人間心理。勝負が終わるまで、構成員が何度も並んでにぎわっているように見せます!」


 胸を張るローレンツに、構成員から質問が飛ぶ。


「なあ、串を買う金はファミリーの金庫から――」

「自腹に決まっているだろうが!お前ら、ボスを勝たせるために身銭を切る覚悟はないのか!」

「じゃあ、お前も並べよ」

「俺は指揮官だ!」

「ふざけんな!」


 どこまでも金に汚いローレンツであった。


――


 隣のマフィア屋台は焦っていた。メイド服を着た二人の美少女が売る屋台。


「このままじゃ負けるぞ!」


 兄貴分が怒鳴る。

 すると、大男が前に出る。


「俺に任せてください」

「何か策はあるのか?」

「なあに、俺たちゃぁワルですぜ」


 そう言って意味ありげに笑うと、兄貴分も理解してニヤリと笑う。

 そして、大男は行動に出た。

 水の入った瓶を持って、テオたちの屋台に近づくと――


「悪ぃな、足が滑った」


 巨体が屋台に突っ込む。

 瓶からは水が飛び出し、串を焼く薪目掛けて飛んでいく。 


「危ない!」


 テオは前に出た。

 しかし、間に合わずに水は薪に当たって消火してしまう。

 水蒸気が発生して、周囲の視界を奪った。


 怒ったテオは魔力を一気に解放する。


 リザの目には、煙の中のシルエットだけが見えた。

 細く、美しく、しなやかな影。


(……綺麗。本物の女性みたい)


 次の瞬間。


 ドゴッ!


 大男が吹き飛んだ。

 煙が晴れる。


 そこに立っていたのは、いつものテオだった。


「……大丈夫?」

「え、ええ……」


 ローレンツがもみ手で近寄ってくると、相手の屋台を指さした。


「いやー、邪魔しに来た男を投げ飛ばして、相手の屋台を壊すとは。そんな作戦、この私でも思いつきませんでした」


 見れば、投げ飛ばした大男が相手の屋台にぶつかり、相手も商売が出来ない有様となっていた。

 両者料理不能となったことで、勝負が終了となる。勝負は完全勝利だった。


「こちらの勝利ってことで文句はないわね!」


 エリザベートは壊れた屋台に足をかけ、マフィアたちを睥睨し指を突きつけた。


――


 夕方。

 街には妙な噂が広がっていた。


「ベルンシュタインが敵対するマフィアの露店をぶちこわした」

「テオドールファミリーの資金源だ」

「誘拐してきた少女を売り子にしてたぞ」


 全部違う。

 それが耳に入ってくるも、テオは叫びたい気持ちを抑えて空を見上げた。


(違うんだ)


(俺はただ通りかかっただけなんだ……)


 そして呟く。


「ああ……俺はなぜ異世界でこんな目に……」

「もう、テオったら。忙しいんだから止まらないで」

「ごめん、リザ」


 屋台は繁盛していた。



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