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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第1話 針のむしろの入学式

 リート学園の正門をくぐった瞬間、テオドール・フォン・ベルンシュタインは、ひとつ小さく息を吐いた。

 重厚な石造りの門柱、その上に掲げられた王家の紋章。長い歴史を誇る王立リート学園の威容は、何度見ても圧倒される。それと同時に、今日は“入学式”という名の公開処刑の日でもある、という気分にさせられた。


「はあ……」


 前世がどうこう、転生がどうこう、そんなことは正直どうでもいい。目を覚ましたら貴族の家の次男で、しかも“悪名高いベルンシュタイン家”の息子だった、という現実のほうがよほど厄介だった。


 父であるガルディス・フォン・ベルンシュタインはベルンシュタイン侯爵を乗っ取ったマフィアのボス。兄のレオンハルトは街の不良を束ねており、学園でも名の知れた問題児。

 そして自分はその弟。そんな環境でも悪に染まらなかったのは、前世での常識を覚えていたから。


 どう考えても、初日から好意的に迎えられるはずがない。


 案の定、周囲の視線は痛いほどに刺さっていた。

 貴族の子息たち、商会の息子たち、アルテン聖秩教会の推薦で来たらしい真面目そうな生徒たち。誰もが一様に、名簿とテオの顔を見比べ、ひそひそと声を落とす。


「ベルンシュタインの次男坊ってあいつか」

「兄貴があの……」

「関わらないほうがいいぞ。人身売買もしているらしいからな」


 聞こえないふりをして、テオは式典会場へ向かった。


 入学式自体は、驚くほど形式的で、退屈なものだった。学園長の長い祝辞、王家の名代の挨拶、聖秩教会の代表によるありがたいお言葉。

 その間も、テオの背中には、ちくちくとした視線が突き刺さり続けていた。


(まあ……予想通りだよな)


 式が終わり、クラスごとに分かれて教室へ移動する。

 自分の教室に入った瞬間、空気がわずかに揺れたのが、はっきりと分かった。


 席に着こうとすると、周囲が、ほんの一歩ずつ距離を取る。

 まるで、そこだけ見えない壁があるかのように。


(うん、知ってた――――)


 テオは内心で肩をすくめながら、窓際の席に腰を下ろした。

 そのときだった。


「テオ様! 同じクラスになれて光栄です!」


 やけに明るい声とともに、誰かが隣の席にどかっと腰を下ろす。

 振り向くと、細身で、いかにも神経質そうな顔つきの少年が、満面の笑みを浮かべていた。


「……えっと、君は?」

「ローレンツ・フォン・クライネルトです! どうぞ、これからよろしくお願いします!席も隣なのは運命ですね!」」


 周囲の生徒たちの視線が、一斉にこちらに集まるのが分かった。

 “もう取り巻きを作ったのか”とでも言いたげな、あからさまな空気。

 テオドールもその雰囲気を察する。


(いや、まだ何もしてないんだけど……。頼む、俺にかまわずどっかに行ってくれ!!!)


 そんなテオの内心などお構いなしに、ローレンツは小声で囁いてくる。


「テオ様……ああいう連中、今のうちに締めておきましょうか?」

「いらないから。やめて」


 即答すると、ローレンツはなぜか感心したようにうなずいた。


「なるほど……“今はまだ”ということですね。さすがです」


(違う。そういう意味じゃない)


 とは思うものの、それを口にはしなかった。

 周囲の生徒たちが、ひそひそと声を落とす。


「もう指示出してないか?」

「入学初日から締めるとか。凶暴だという噂は本当か」

「さすがベルンシュタイン……」


(だから違うって!)


 そう叫びたかったが、否定したところで信じてもらえないのは、これまでの人生でわかっていた。

 そのとき、前の席から、はっきりとした視線を感じた。


 銀色の髪の少女が、こちらを見ていた。

 その目は、まるで道端のゴミを見るような、一切の容赦もない、冷え切ったものだった。


(あ、これ完全に嫌われてるやつだ)


 銀髪の少女――エリザベートは、鼻で笑うように一度だけ視線を逸らし、何事もなかったかのように前を向いた。


 ローレンツが小声で言う。


「ああ、ローゼンベルク家のご令嬢ですね。なるほど……噂通り気が強そうですが、ああいうスケが好みですか?なんなら俺が声を掛けてきますが」

「いや、どうみても軽蔑していると思うからいいよ」

「そうですか。テオ様が声をかけりゃあ、どんなスケもいちころでしょうが」


 テオが内心でため息をついた、その瞬間。

 教室の扉が、乱暴に開いた。


 ガンッ、という音とともに入ってきたのは、どう見ても教師より戦士にしか見えない男だった。

 大柄な体躯、広い肩幅、顔に残る古傷。制服の上からでも分かる筋肉の塊。

 男は教壇に立つと、教室全体を一睨みした。


「今日からお前らの担任だ。ゲルハルト・フォン・クラウスだ」


 低く、腹に響くような声。


「まず言っとく。ここは遊び場じゃねぇ。問題起こした奴は容赦しねぇ」


 そして、その視線が、一直線にテオへ向く。


「特にだ、ベルンシュタイン。兄貴の評判は知ってる。お前も同じなら、最初から叩き潰す。問題、起こすんじゃねーぞ」


 教室の空気が、さらに冷え込む。


(だから、何もするつもりないんだけど)


 その横で、なぜかローレンツが目を輝かせた。


「テオ様……これは……やっちゃいましょうか?」

「やらない。絶対やらない」


 しかし、そのやり取りを、ゲルハルトは見逃さなかった。

 ギロリ、と睨まれる。


「……っ」


 ローレンツは一瞬で黙り込み、さっきまでの勢いはどこへやら、完全に萎縮する。

 数秒後、小声でテオに縋りついてきた。


「テ、テオ様……ここは……大人しく……しましょう……」


(さっきまで“やっちゃいましょう”って言ってたの誰だよ……)


 ゲルハルトは満足そうに鼻を鳴らし、黒板に乱暴な字で名前を書いた。


「オリエンテーションを始める。校則だ。守れない奴は――叩き出す」


 テオは、そっと天井を仰いだ。


(俺の学園生活、開始早々、前途多難すぎないか?ああ、俺はなぜ異世界でこんな目に……)


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