表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

欲しかった言葉

掲載日:2026/03/03

 とある日の出来事の話。


 娘二人と回転寿司に行った時の会話を、皆様、聞いてもらえないだろうか。


 

++++++++++



 3月、下の娘の卒園式がある。


 普段、私は化粧はするが、髪の毛には無頓着で、いつもささっと水で濡らして寝癖を直して終わりにしている。


 そのため、全くヘアアレンジというものが出来ない。数年前に買ったコテも2〜3度使ったきりで、今はホコリを被っていた。


 しかし、ふと来月の卒園式の事を考えたら、このままではいけないと思った。何か、フォーマルな格好に合う簡単なヘアアレンジを習得しなければ。できれば、結んだり、ねじったり、ピンで留めたりといった複雑なものではなく、ダウンスタイルがいいと思った。


 お寿司屋さんに行く前の一時間、私はYoutubeで「初心者 ヘアアレンジ 簡単」とキーワードを打って、とあるプロが教える簡単なコテの使い方動画を見た。適当に選んだユーチューバーだったが、本も出版されるくらい有名な美容師さんだった。


 だからか、説明がとても丁寧でわかりやすく、私は自分のコテのホコリを払い、動画を見ながら、同じ様に髪を巻いてみることにした。


 何度か最初は失敗して、ガタガタなウェーブだったが、途中からコツを掴み、それなりにまとまって見えるようになった。


 そんな私の奮闘する姿を発見した娘達は、


「え?ママ、何やってるの〜??すごーい!!私にもやって!!」


と次々に言って来た。


「いいよ〜。ママ、まだ下手くそだけどいい?内巻きにする?それとも、ママと同じウェーブにする?」


「内巻きっ!!」


「私はウェーブ♪♪」


 わらわらと群がる子供達を順番に座らせ、一人ずつカールさせていく。下の子は髪が細かったので、コテの温度を少し下げて微調整した。


「わ〜!!可愛い!!


「私は耳にかけて、ピンで留めよっと♪♪」


 各々の可愛らしい反応を見て、私はとても嬉しくなった。なんて愛しい子供達なんだろう。



++++++++++



 お寿司屋さんにて、それぞれが好きなものを頼み、美味しい時間が過ぎていく。


 少しお腹が膨れた所で、私は、目の前に座っている子供達に向かって言った。


「◯◯と◎◎は、今日はとっても可愛いね。どこから見ても髪型がきまってるよ。ま、普段ももちろん、最高に可愛いけどね。」と。


 それを聞いた上の子がぽつりと言った。


「ママはいつも◯◯の自己肯定感を上げてくれるね。」と。


「え…?」



 私は少し、目を見開いた。



 心の動揺を悟られないよう、出来るだけ自然に返す。


「そう?だって本当に可愛いんだもん。」


「えへへ。いつもありがと。」


「……。」


 涙がうっすら膜を張る。

 私は横を向き、娘に気づかれませんように、と、オーダー画面を見た。



 他愛のない親子の会話。


 お互いを想いやる会話。



 それは、



 それは、



 ずっと…私が欲していたもの。




 

 大切だよ。


 あなたは私の宝物。


 大好き。


 産まれてくれて、本当に嬉しい。


 ◯◯は、こんな所が素晴らしいね。


 ◎◎は、今日とっても勇気を出したね。


 よく頑張ってるよ。


 大丈夫だよ…。




 全部、全部、私が欲しかった言葉達。だけど、今更お願いして、言ってもらうことなんて、出来ない。


 両親と仲が悪い訳では無い。母はいつも私の愚痴や悩みを静かに、否定せず、ただただ、聞いてくれた。父は、私達が路頭に迷わないように、一生懸命働いてくれた。



 感謝している。


 

 だけど。



 だけど。



 私には自信がない。


 いつもいつも、これで良いのかわからない。



 頑張っても…


 頑張っても…


 頑張っても…



 認めてもらえていない様な気持ちが、


 ずっと消えない。



 愛されたかったな、とふと思う。


 愛してない、なんて言われてないのに。


 愛されてない様な、気がしてしまう。


 親子である事を、行動で伝えてくれる両親に、とても感謝している。


 

 だけど。



 だけど。



 私の思い過ごしだろうか。


 私の気のせいなのだろうか。


 

 子供達と過ごす日常の中、ふとよぎる。


 なぜ、私はこんな言葉達をかけてもらえなかったのだろうか。



 時代のせいだろうか。


 土地柄のせいだろうか。



 いや、違う。



 小さい頃は、可愛がってもらえた筈だ。大きな暖かい愛情の記憶がある。



「愛してる。」



 言ってもらった記憶も、ある。


 だけど。



 いつからだろうか。



 私の自我が彼等と合わなくなってしまったのだろうか。


 深くまで色んな角度で質問してしまう私は、いつの間にか、彼等を疲れさせてしまったのだろうか。



 育て方を間違えた?


 私は鬼?



 ごめんね。ややこしい性格で。


 もういいよ。話を聞くのも。


 もうやめよう。言い争うのも。


 ごめんね。融通がきかなくて…。



 「そのままのあなたで…。」


 

 あぁ、言ってもらいたかったなぁ。


 全然、自信なんて持てないや。


「愛されていないかもしれない…。」


 こんな想いが頭から離れない。



 鬼かぁ。



 そうかぁ。



++++++++++



 だから、私は紡ぐ。


 私の言ってもらいたかった言葉達を。


 愛する子供達に。


 身体中に染み込んで、


 もう、お腹いっぱいって思うくらい、


 愛情を言葉にして渡すんだ。


 将来、辛いことがあった時、


 私の紡いだ言葉達が、


 子供達の心を守ってくれますようにと、



 願いを込めて。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ