第6話 粗悪なポーション
東街リミナリは、中世ヨーロッパとタイの街が融合したような活気のある街並みだった。
石畳の道路にはカラフルな屋根の屋台が点在しており、街の人々の憩いの場所となっているようだ。
”魔物”という脅威が身近にいるにもかかわらず、随分と楽観的な雰囲気が漂っていた。
通りを歩きながら屋台の料理をチラ見したい……のだが、一人称視点ゲームだとチラ見とかできないので、ガッツリガン見させてもらう。
これは……何の肉だ? 牛や豚でも、鶏でもなさそうだぞ。
もしかして、魔物の肉だろうか?
獣クサそうだが、ジビエ料理好きな俺からしたら非常に味が気になるところだ。
……お腹がすいてきた。
「ニオイがしないし実際に食べられないのがゲームの弱点だな……」
とはいえ、ここは俺のいる世界でもあるんだ。
その気になれば食べられる。いつか行こう。
……というか、さっきから気になっていたんだが、この点在する掲示板は何なんだろう。
『エーテル濃度 12%』と書かれている。
エーテル濃度……なんだろう。
もしかして、放射能濃度のように空気の汚染状況のようなものだろうか。
だとすると非常に嫌な感じだな……
などと思いながら、通りを歩いていくと、横を荷車が轟音を立てて通り過ぎて行く。
あれは……魔物の亡骸か?
ガルムやスライム、他にも見たことのない魔物の亡骸を山積みにした荷車だ。
おそらく、討伐された魔物を回収して、街の解体施設に運んでいるのだろう。
そこで素材と肉を分けて、素材は加工して武具やアイテムに、肉はこの屋台などで料理として市民に振る舞われている、とか。
と、思いを馳せていると、またまた後ろから車が。
次は、荷馬車だ。
ただ、馬と言っても少し違うな……馬に似た魔物だろうか。
先ほどの荷車よりも大きな魔物を乗せて、街の中心部に向かって走っていった。
その背中を見送りながら、俺はこの先に目的地があることを確信する。
魔物の亡骸を運ぶ先は冒険者ギルドかそれに類する施設のはず。
道を進むにつれ、さらに賑わいが増す。
冒険者たちが武器の手入れをしながら屋台で食事を取る光景が多くみられるようになった。
おっ、これは武具屋か?
屋台のような感じで、武器や防具が吊るされたお店がチラホラと見え始めた。
小ぶりのナイフから大剣、槍や弓など様々な武器が立ち並んでいる。
ただ、どれも魔物の骨から作られたもののようで、金属製の武具はあまり見られない。
そういうものはこの街では売っていないのか、それかもっと高い、ちゃんとした屋内の武具屋で売っているのだろうか。
なんにせよ、どれも今の俺の【錆びた剣】よりもよっぽど良い武器に見える。
ちなみに、錆びた剣のアイテム説明文は【錆びついた小型の剣。切れ味は無いに等しい。】で、攻撃力は1だ。
……酷すぎる。早く買い替えたい。
──おっ!! これはアイテムの屋台か??
ポーションのような──少し濁った液体がビンで売られている。
「兄ちゃん、いらっしゃい! うちのポーションはそりゃもう抜群に効くよ! しかもリミナリ製! 安くしとくよ」
と、屋台のおばさんに声をかけられた。
リミナリ製を強調するあたり、この街は薬が有名なのか?
どれどれ、と近づいて、ポーションに視点を合わせると、アイテムのポップアップが浮かび上がる。
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【粗悪なポーション】 ×1
スライムゼリーと薬草を混ぜて水で薄めたもの。HPを10回復する。
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な、何がリミナリ製だよ!! 粗悪品じゃねえか!!
「……これ、いくら?」
「安くしとくよ! 300ゴールドだ!」
高いのか安いのか分からん……
俺は店主を適当にあしらって、更に街の中心へと歩を進める。
すると、一際騒がしい声が聞こえてきた。
「次は”光る目玉”!! ウィスプタロンから極まれにとれる超希少素材!! さっき解体したばかりで鮮度も抜群だよ!! さあ2000から! どうだ!」
あれは、”競り”か?
壇上に立った男が大きな目玉──しかも光ってる──を持って大声で叫んでいる。
それに呼応するように、「2500!」「3000!」と声が上がった。
「3000! 3000! ……はい3000で決定!」
どうやら決まったようで、商人のような男が大きな銅貨を3枚渡して、目玉の入った箱を受け取った。
あんな目玉なんに使うんだ。
そういえばスキルツリーに【錬金術】があったし、それに使うのだろうか。
なんにせよここは凄い熱気だな……まさに異世界だ。
少し気疲れしながら競りのエリアを早足で通り抜ける。
そんな中、ふと目に入ったのは、大通りの向こうに聳え立つ巨大な建物だった。
4階建てのその建造物は、隣接した建物と合体してカオスな有り様だった。
建物の周囲にはこれまで以上の人の往来があり、非常にせわしない。
そのほとんどは冒険者の装いで、その他もみな商人や職人──冒険者ギルドに関わりの深そうな人々に思えた。
正面には大きな両開きの扉があり、開かれるたびに中の喧騒がここまで漏れ聞こえてくる。
おそらく、アレが目的地だろう。
俺はその巨大な建物──冒険者ギルドへと歩を進めた。




