第40話 初めてのゲーム
「久しぶりじゃな、ロムラス」
「お、カミサマじゃん☆ なになに、どうしたの~?」
ロムラス──そう呼ばれた少女は、頭の後ろで手を組みカミサマと親しげに話している。
「実はカクカクシカジカでの。起きたばかりのところ悪いが、お主にはこの男の護衛を務めてもらいたいのじゃ」
カミサマの説明を聞いたロムラスは、俺の方へと視線を向けた。
「ほ~、これはこれは」
上から下まで、じっくりと品定めされているみたいだ。
「な、なに!? そんなに見つめないでっ!?」
髪もボサボサ、服もパジャマみたいな恰好。
ヒキニートにも羞恥心はあるのよ!!
「あはは、よわそ~☆」
「第一印象それかよ!?」
「どうじゃ、ロムラス。引き受けてくれるか?」
カミサマの言葉に、ロムラスは俺をしっかりと見据える。
「カミサマの命であれば、ボクの命に代えても☆」
「重っ! てか、護衛とか言うからもっとゴリマッチョな感じのボディガードが来るかと……」
「なんじゃ、筋肉が好みなら別のやつにするかの?」
「いや!!! いいです!!! 可愛い女の子がいいです!!! むしろありがとうございます!」
「と、いうわけじゃ。これからはロムラスが守ってくれるのでな。安心して外出してくれ」
「あはは、筋肉には自信ないなぁ☆ でもよろしく~」
可愛くポーズを取るロムラス。
可愛い。
めちゃくちゃ可愛い。
何ならめっちゃいい匂いする。
だけど正直不安だ。護衛としては心もとない。
だって腕なんて、なんなら俺の方が太いぞ?
そんなことを思いながらロムラスの二の腕を見つめていたら、ロムラスが不意に顔を覗き込んできた。
「なに~? ボクに見惚れちゃった? あはは、大丈夫。ボクは誰よりも強いよ」
まるで心を読まれたような返事に、思わず言葉を失う。
……まあ、カミサマが選んだんだし、何か凄いやつなんだろう。
そんなことを考えている間に、アップデート完了の文字がモニターに映し出されていた。
「お、アップデートが終わったみたいだ」
「ん、あっぷで~と? 何のことでしょ?」
俺がモニターの前に座ると、ロムラスがモニターを覗き込んできた。
いちいち距離が近い……こっちは引き籠りだぞ。刺激が強い。
「何って、みずっちの作ったゲームのアップデート──と言っても分からないよな」
俺は簡単にゲームについて説明した。
「へえ~……ねえ、それってボクにもできたりする?」
「えっ、やりたいのか? まあ、出来るけど……」
確かに、護衛となればロムラスは基本的にずっとここに居てもらうことになる。
いきなり美少女と同居とかどんなギャルゲーだよ。
……じゃなくて、そうなると一緒にゲーム出来た方がロムラスも退屈しなくて済むか?
「なあカミサマ、このモニター、キーボード、マウスのセットってもう1つもらえたりするか?」
「ほれ」
一瞬の間もなく、机の横に新品のセットが出現した。
もうなんでもアリだなこのカミサマ。
「カミサマありがとう☆ で、なになに、ここに座ればいいの?」
ウキウキでモニターの前に座るロムラス。
仕方ない、アップデートの確認は後回しだな。
「えーっと、モニターのボタンは……」
これだな。カチッという音と共に画面が明るく灯る。
「おお~、すごいすごい!」
子どものように手を叩いてはしゃぐロムラス。
モニターには、これまで見たことのなかったタイトル画面が表示されていた。
ニューゲームにロード、オプションか。至ってシンプルだな。
「ねね、これを持てばいい?」
ロムラスは宝物でも扱うかのように慎重に、両手でマウスを握った。
「違う違う、それは右手だけで握るんだよ。で、左手はこんな感じでキーボードの上に置く」
「えっと……こう?」
見よう見まねでポーズを取るものの、左手は全然ホームポジションにないし、マウスの握り方も歪だった。
「……まあ、とりあえずそれでいいか」
「ん~、何その反応。まあいいや、で、次は何をすればいいの?」
「そうだな、この "ニューゲーム" ってとこをクリックしてくれ」
「……クリック?」
そうか、この世界の人にはクリックで通じないのか……
何だかジジババにパソコン教室をやっている気分になってきたぞ。
「クリックってのは、マウスの──えーっと、今握ったやつをマウスっていうんだけど、それの左側を押し込むことを言うんだ」
「ふーん、こんな感じ?」
ロムラスは恐る恐るマウスの左側に力を込める。
──カチッ。
「そうそう! やればできるじゃないか」
「……なんだかバカにされてる気がする☆」
と言いつつ、嬉しそうにクリックを連打するロムラス。
「…… "ニューゲーム" をクリックしてくれ」
「……ど、どうやって?」
ロムラスは困惑した表情で、助けを求めるように俺を見上げてきた。
はあ、そうか。まずはカーソルの説明からしないといけないのか。
まどろっこしくなった俺は、ロムラスの背後に回り込み、ロムラスの手の上からマウスに手を添えてやる。
「いいか、こんな感じでマウスを動かすと、画面の中の矢印も一緒に動くだろ? この矢印をカーソルって言って、これを使って画面の好きなところを選べるんだ」
「ふ、ふむふむ……」
ロムラスは真剣な表情で画面を見つめている。
「今回はニューゲームってところをクリックしたいから──」
俺はロムラスの手ごと動かして、クリックしてやる。
柔らかな感触と共に、画面が切り替わる。
すると、これまた初めて見るキャラクリ画面が表示された。
「こんな感じ」
「見て見て、ボクそっくりの人間が映ってる☆」
嬉しそうに画面を指差すロムラス。
最初からロムラスそっくりのキャラクターが用意されているのか。
誰がニューゲームをクリックしたかを判別して、そいつそっくりのキャラクリをしてくれる機能……
そこだけやけに高機能だな。
「優太、早くしてくれんか。みずっちがあっぷで~となるものの完了まで待てと言っとっての。確認を優先して──なんじゃなんじゃ、わかった、わかった!」
「どうした?」
「みずっちが、『今ゲーマー人口が1増えようとしているんだから暖かく見守るべき』と言っとっての……」
「みずっち……どこまでもついていきます」
ゲーマーの鏡であるみずっちの言う通り、ロムラスの初期設定を進めてやる。
「キャラ……えー、これからロムラスが操作する奴のことをキャラって言うんだが、そいつの外見はこれでいいか?」
「うん、よくわからないからそれでいいや☆」
「了解。じゃあ、これで完了っと」
ロムラスと一緒に完了をクリックすると、見覚えのある草原が映った。
これは、俺がゲーム開始したときと同じ場所だな。
「おお? 草原?」
「プレリード街道だな、ほら、右上にミニマップがあるだろ。ここに今このキャラがいる場所が表示されてる」
「な、なるほど? それで、これからどうしたらいいの?
「一旦基本操作を教えるから、俺がアップデートを確認している間、適当に触っててくれ」
俺は移動や攻撃などの基本操作を説明してから、自分のモニターの前に戻った。
早速、「え、えぇーっと、これが左、これが右……うわっ、なんか出てきた!!」という微笑ましい声が聞こえる。
ゲーム始めたてのあの感覚は最初しか味わえないからな。精々苦しんでくれ。




