第39話 マルチプレイ
「ふぅ……」
ルークとナノが寝静まった深夜。俺はモニターの前で大きく息を吐いた。
結局、今日は風花平原には行けなかったな。
それにしても、セリーナさんエロいな──じゃなくて、魔人化に紅蝕機関か……やっぱりこっちの世界は随分と物騒だな。
「……やることねえな」
画面から目を離すと、徐々に魔境と化しつつある汚部屋が目に入った。
脱ぎっぱなしの服に食事のゴミ。
ゲームに没頭してる間は気にならなかったけど、我ながらヒドい有様だ。
「まあ転生前からこんな感じだったけどな」
ヒキニートゲーマーに部屋の掃除など出来るはずもなく。
せっかく魔法のある世界に来たんだから、自動で掃除してくれる魔術具とかないか?
今度ユウタに買いに——
「……そうか。もう気軽にユウタを動かすのも難しくなったんだ」
ルークとナノという予想外の仲間が出来てしまった。
事情を説明すれば……いや、そもそも俺の存在を知られるのはリスクが大きすぎる。
ナノが正気を失ったりでもしたら、俺は即死なわけだし。
「辛うじてゴールドはあるけど、外に出るのもなあ……」
念のために残しておいた銀貨が数枚あるが、そもそも外に出ること自体が危険だし。
ナノの一件でも分かるように、この世界の治安は最悪で、あの性悪エルフみたいな悪党まで徘徊しているわけだ。
それに冒険者だってよくよく考えれば武器を堂々と持ち歩く危険人物。
もし運悪く襲われでもしたら……”ゲームオーバー” じゃすまない。文字通りの死を意味する。
食料はユウタが置いていってくれたものがあるから数日は凌げそうだが……その先は?
俺は椅子に深くもたれかかり、天井を見上げた。ふと、似たような状況を思い出す。
そうだ。転生したての頃、一日中何も口にできなかった時もこんな具合だったな。
あの時は確か、こう叫んだら助けが来たんだっけ。
「助けてカミサマ──!!」
「なんじゃなんじゃ、うるさいの!!」
「カミサマ! 久しぶり!!」
「毎度毎度、なぜ叫ぶんじゃ……して、何用じゃ?」
「固定が出来て自由に冒険できなくなったー!」
「こ、固定……? 何を言っとるのかさっぱり分からん……どうしたみずっち、激しく頷いとるが」
流石みずっち、ゲーマーへの造詣が深い。
「今日もみずっちと一緒にいるのか」
「ああ、横に座っとるぞ。今日はみずっちお気に入りのあにめ~しょんを見ておった。第一話から裸のおっさんに主人公の母親が食べられてしまうんじゃ……!」
みずっち、アニメ初心者に随分とインパクトのある作品を見せてるな……名作だけど。
「まああにめ~しょんの話は置いといて……みずっちの言葉を代弁するぞ。『あるよね、そういうこと。長いこと同じオンラインゲームをやってたら特に。でもそういうときは、やっぱりサブキャラを作るのが定石じゃない?』と言っとるが、どうじゃ?」
「えっ、作れるのか?」
「『スタート画面でキャラ選択画面あるよね?』……はあ、伝言も大変じゃわい」
思えばスタート画面すら見たことがない。ずっとつけっぱなしだったからな。
「まだこのゲーム落としたことないからわからん」
「『えぇ……じゃあアプデも出来てないんじゃない? エモートとか使える?』」
そういえば以前『動作安定性の向上および、エモート機能が追加されます』とか言ってたな。
「いや、分からん。エモートってどのキーだ?」
みずっちに教えてもらったキーを押しても、案の定、反応なし。
やっぱりゲームを再起動していない影響でアップデートが上手くできていないみたいだな。
「一旦再起動するわ。オプションにある『ゲームを再起動』でいいのか?」
みずっちに確認してもらいながら再起動を実施したところ、『アップデート中』という画面が。
残り時間、約10分か。
「そういえばカミサマ、この世界の治安終わってないか?」
「そうかの? おぬしの世界も同じようなものじゃろ」
「いやいや、少なくとも剣とか斧を持った人間が普通に歩き回ってるなんてことはないだろ」
「なんじゃ、おぬしの世界は鉄の塊が凄まじい速さで街中を走り回っとるではないか」
車のことか……確かによく考えたら、あれはあれで恐ろしい凶器だけど。
「そういう話じゃなくて……とにかく、怖くて家から出れないんだよ。というわけで、俺をチート能力にしてくれ」
「そんなことできるわけないじゃろ! 全く、簡単に言いおって。……まあ、おぬしに死なれてもワシも困るしの。それに引き籠りが外に出ようというのは良い心がけじゃし。うむ……そうじゃな、護衛をつけてやろう」
「護衛?」
「そうじゃ。そうすれば外も歩けるじゃろう。うーむ、誰が良いか……。まあ、こやつでよいか。それ、封印解除じゃ」
「ふああ~、よく寝た~☆」
「おあぁ!?」
突然、俺の横で大きなあくびが聞こえた。
振り返ると、そこには輝く銀髪が特徴的な少女の姿があった。
手で口元を隠しながら、また「ふぁ~」と可愛らしくあくびをしている。
あまりに一瞬のことで、まるで最初からそこに居たみたいだ……




