第37話 誰よあの女!?
「……」
フロンは咄嗟に石壁の陰に身を潜めた。店内の様子がガラス越しに見える。
間違いなくユウタだ。
喫茶店のテーブルに座る彼は、いつもの素っ気ない表情のまま、何も注文せずにただ座っている。
机の上には例の宝玉獣──SSランクの魔物カーバンクルの姿があった。その小さな体で、自身の身体ほどもある巨大なサンドイッチに齧りついている。
そして、ユウタの向かいに座る少女。
「誰……」
雪のように白い肌の少女は、その儚げな見た目からは想像もつかないほど豪快にサンドイッチを頬張っていた。
赤いソースで口元を汚したまま、時折ユウタと言葉を交わしては柔らかな笑みを浮かべている。その表情には、見知らぬ人には決して見せないような安心感が滲んでいた。
「随分と……仲が良さそう」
理性では分かっているはずだった。ユウタには自分以外にも親しい人がいて当然だと。それは女性であっても何らおかしな話ではないと。
それなのに──。
フロンは胸に、これまで感じたことのないざわめきを覚えた。
「彼女、というより妹みたいに見えるわねー」
「そう思う。──おぎょ!?」
慌てて振り返ると、そこには一ヵ月ぶりの姉セリーナの姿があった。
「お、お姉ちゃん! なんでここに!?」
突然の再会に驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべるフロンに、セリーナは柔らかな微笑みを向けた。
「久しぶりね、フロン。ちょっと用事があって、帰りにフロンを見かけたの。向こうで噂も聞いたわ。プラチナ級、おめでとう」
「あ、ありがとう……」
大好きな姉の祝福を受けているにもかかわらず、フロンの意識は完全にユウタへと向いていた。
そんな妹の仕草に気付いたセリーナは、小さく笑みを零した。
「彼が、いつも話しているユウタ君?」
「そ、そんなに話してない」
「そうかしらー? 最近のフロンの話は、100個中99個はユウタ君のことだったわよ?」
「それは盛り過ぎ」
「盛ってないのだけれど……。彼もプラチナ級に昇級したって聞いたわ」
「そう。ほら」
フロンはそう言って、ユウタのギルド証を取り出した。
「な、なんでフロンが持っているの?」
「それは……将来のパーティだから」
「……フロンがこんな風になるとはね。ま、それは置いといて──ユウタ君とは、少し話をしておきたいことがあるの」
セリーナの目が鋭さを帯びる。
「なんのこと?」
「それはもう、色々とね。それに、フロンに話そうと思っていた件も、彼に伝えておいた方が良さそう」
「話って、王都での話?」
レジェンド級以上の冒険者が王都に集められるなど、これまでにない事態だった。
並々ならぬ事態が起きていることは明白だった。
「その件もあるけど、もう一つ──ちょっとした勧誘のようなものよ」
「勧誘?」
首を傾げるフロンに、セリーナは穏やかな笑みを向けた。




