第30話 召喚の術式
ク・タ・フィリア峡谷から帰ってきた俺たちは、ギルドの前で別れることになった。
シルフォスとエクリプスはギルド長ガンドルへの報告の後、打ち上げをするらしい。
俺とフロンも誘われたが、適当に理由をつけて断った。
興味ないし、そもそもゲームキャラで参加しても仕方ないからな。
フロンはというと──こうして俺の横を歩いている。
「良かったのか? 参加しなくて」
「打ち上げとか興味ないから」
「へえ。そういうところは俺と似てるよな」
「そう。私たちは似た者同士。ということで、パーティを」
「遠慮させていただきます」
「がーん!!」
俺たちが向かう先は、リミナリの北東にある、とある店だ。
俺がフロンに相談したところ、「この店がオススメ」ということで案内してもらうことになった。
「ここが話していた魔術具のお店」
フロンが立ち止まったのは、年季を感じる古い石造りの二階建て。
見上げると、そこにはこの店の看板があり、店名が浮かび上がっている。
『魔術具工房 マウル・アルカナム』──この街一番と噂の魔術具ショップに、俺とフロンは足を踏み入れた。
店内は、古びた外観からは想像もつかない優雅な空間が広がっていた。
天井から吊るされた魔術具の照明が、温かみのある琥珀色の光を投げかけ、店内は高級感に満ちている。
中央には大きなガラスケースが並び、その中で魔石を贅沢にあしらった装飾的な意味合いの強い魔術具たちが煌めいていた。高位の冒険者や金持ち向けのものだろう。
その一方で、壁際の棚には、魔石そのものや、普段使いできそうな魔術具が所狭しと並んでいる。
「いらっしゃい──って、ノブルクレス家の妹さんじゃないか!」
初老の店主がカウンターから出てきて驚きの声を上げた。
「マウルさん。お久しぶりです」
フロンが軽く会釈をする。
「フロンちゃん、元気そうで何よりさ! セリーナちゃんは元気かい? 今じゃミルドナイト級だもんなあ。セリーナちゃんが小さい頃は、よくここに来て魔術具で遊んでたもんだよ。……で、横の彼はボーイフレンドかい?」
「……」
「いや否定して!? 違う違う、冒険者仲間だよ」
「そうかい? まあいい、今日は何の用だい」
「ちょっと魔石を探しててな」
魔術具も気になるが、今回はフロンもいるのでまた今度だ。
今回の目的は、魔石。
スキルツリーの【魔術】で習得した【召喚の術式Ⅰ】を使いたいんだよ俺は。
ク・タ・フィリア峡谷で聞いた話によると、魔石に術式を掘り込んで魔術具にすればいいらしい。
ということで、魔石を買いに来たわけだ。
「魔石か。もちろん、取り揃えとるよ。一般的な第三級魔石から、最高品質の第一級まで、何でもござれ」
「だ、第三級? 第一級?」
フロンは知ってるのか、と横を見ると、顔を赤くしたまま固まっていた。
ガルーダとの戦いで疲れたのか? まあ生身であんなのと戦うってなったらそりゃ疲れるわな。
「まあ、平たく言えば魔石のレア度のことさ。第三級、第二級、第一級と順にレア度が高い。まあ、その上に特級もあるがな」
「射手座の魔石はどの程度のレア度なんだ?」
ニックスが使っていた腕輪型の魔術具が、射手座の魔石で出来ているらしい。
「それは第一級。射手座の魔石を探しとるのかい?」
「いや、知り合いがそれで出来た射手座の魔石を使ってたもんで」
「おお、それはすごいな! 第一級の魔石で作られた魔術具は云十万もする高級品だからねぇ」
「云十万……」
高い。確かに高い。
だが正直、払えない金額ではない。
ガルーダ狩りでかなり儲けたからな……
でもなぁ。武器も欲しいしなぁ。
「ところで、魔石を探しとるのはなんのためなんだい?」
「いや、【召喚の術式Ⅰ】スキルを習得したから使ってみたくて」
「──召喚の術式だって!?」
店主は声を上げた。その表情には、ただならぬ衝撃が浮かんでいた。
「召喚の……術式……」
見ると、フロンも唖然とした表情を浮かべていた。
なんだなんだ、どうしたんだ。
俺マズいこと言ったのか?
「召喚の術式って、あのシナンプー・セトゥリアが半世紀かけて研究しても完成していない魔法回路じゃないか! あんた、それを開発したってのかい!?」
「いや、開発したっていうか、スキルポイントが貯まったから取ったっていうか」
召喚ってなんかカッコいいし、馬とか召喚できたら移動手段として便利かなと思って……
「あんた、ふざけとるのかい!?」
「いや、ユウタはそんな嘘をつかない。いつも突飛なことを言うけど、全部本当だから」
「フ、フロンちゃん。そうなのかい?」
フロンは頷いてみせた。
「そ、そうかい……。だとしたら、世紀の大発見になるね……。実体のある生命体を召喚するなんて……不可能だと言われていた領域だよ」
「そんなになのか?」
「そりゃあんた、召喚ができるということは、いくらでも魔物を生み出すことができるんだよ!? 戦力にも資源にもなる存在を、いくらでも生み出せることになる」
言われてみれば。
「でも、今はまだミクリンしか召喚出来ないけど」
「ミ、ミクリンって……あんたそれが出来たら、いくらでも魔石を増やせることになるよ……」
確かに、もしかしてめっちゃ金策になる?
でも確かリアナが、外したら死ぬとか言ってたな……
「まだ信じられないけど、フロンちゃんが信用しているようだしねぇ。……よし、ここは特級の魔石を特別にプレゼントしてあげよう」
「え!? マジで!?」
「マウルさん……」
「ああ、あんたの言うことが本当なら、私も是非見てみたいしねえ。それに、世界で初めての召喚の術式がこの『マウル・アルカナム』の魔石ってことになれば、宣伝にもなるしねえ」
そう言って笑うと、マウルは手袋を着けてガラスケースの鍵を開け、魔石を一つ取り出した。
「アルテミスの魔石──非売品だけど、飾ってても仕方ないからねえ。ほら、受け取りな」
>【アルテミスの魔石】を入手
「う、うおお……ありがとう」
「それじゃ、召喚の術式、楽しみにしとるよ」
「あ、ここで試してみるからちょっと待って」
「「!?」」
絶句する二人を尻目に、アイテム欄を開く。
おそらくだが、【アルテミスの魔石】を選択すれば──やっぱり。
俺は躊躇いなく『術式』を選択した。
すると、術式を選択する画面へと遷移する。
一覧には、【召喚の術式Ⅰ〈ミクリン〉】がただ一つ表示されていた。
「じゃ、やってみるか」
俺は【召喚の術式Ⅰ〈ミクリン〉】を選択して決定を押す。
>【アルテミスの魔石】は【ミクリンの召喚石】になった!
「あ、出来ました」
「「!?」」
二人とも、顎が外れるんじゃないかってくらい口を開けてるけど、大丈夫か?
「で、出来たって……何もしていないじゃないか」
「ほら」
俺は【ミクリンの召喚石】を『手に持つ』。
「──!? じゅ、術式が掘られとる……。な、何が起きたんだい……」
「……ほ、本当だ。信じられない……」
呆然とする二人を尻目に、俺はアイテム欄を開いた。
よし、ちゃんと出来てるな。
「ここで使ってみていいか? ミクリンだし大丈夫だと思うんだけど」
これがドラゴンとかだったらマズいが、ミクリンだし。
最悪、可哀想だけど倒せばいいからな。
「も、もちろん! 世紀の瞬間を私に見せておくれ!!」
フロンも息を呑む。
なんだ、言うてミクリンだろ?
そんなに緊張することないのにな。
で、召喚石の使い方は──やっぱりアイテム欄で選んで『使用する』だな。
ポチっとな。
その瞬間、目の前の床に淡い青白い光が広がり始めた。
それは水面に落ちた一滴の水のように、中心から波紋を描くように瞬時に広がる。
「な、なんだ!?」
マウルの声が響く。
光の波紋は次第に形を変え、複雑な幾何学模様となって床に浮かび上がった。
六芒星を基調とした紋様の中には、古代文字のような文様が刻まれており、それらは互いに呼応するように明滅を繰り返している。
やがてその紋様は、まるで水面から浮かび上がるように床から立ち上がり、空中に浮遊する立体的な魔法陣となった。
直径はゆうに2メートルはあるだろうか。魔法陣は青白い光を放ちながら、ゆっくりと時計回りに回転を始める。
「これが……召喚の術式……」
フロンの呟きが聞こえる中、魔法陣の中央部分に光の粒子が集まり始めた。
それは次第に形を成していき、小さな獣の姿を象っていく。
耳、尻尾、四肢──その光の束は、まるで粘土細工のように徐々に対象の形を作り上げていった。
そして出来上がった光の像が、一瞬まばゆいばかりの光を放つ。
その光が収まった時、そこには小さな魔物が佇んでいた。
ふわふわとした白い体毛に包まれたその姿は、まるで光から生まれ出たかのよう。
その額には魔石がキラリと光り、大きな耳と尻尾が愛らしく揺れている。
「や、やった……召喚の術式が、本当に……」
マウルは震える声で呟く。その表情には驚きと興奮が混ざり合っていた。
おおー、本当に召喚できた。
……あれ?
でも待って。
なんか違う。
この前みたミクリンって、額の宝石の色、青じゃなかったか?
なんか宝石、赤いんだけど。
「……ミクリン?」
「ミクリンじゃねえよ!!」
──えっ
今、ミクリンが喋った……!?
「ユウタ、これって……」
「どうした?」
「──カーバンクル、かもしれない。SSランクの」
「……え?」
どういうことだ?
俺は確かに【ミクリンの召喚石】を使ったはず、だよな?
もう一度アイテム欄を開く──確かに【ミクリンの召喚石】と書いてあるな……
「す、すみませ~ん」
俺は恐る恐る現れた魔物に話しかける。
「なんだ?」
「あの、召喚させていただいた者なんですけど、ミクリンさん、でしょうか?」
「ミクリンじゃねえよ! カーバンクルだ!!」
「どうなってんだ!?」
おい、これってもしかして、バグ?
ワ〇ップに書かないと……




