第26話 ガルーダ vs プラチナ級冒険者
岸壁に挟まれた細い道を抜けると、視界の開けた場所にたどり着いた。
「着いたぞ。ここがク・タ・フィリア峡谷の中心部──”炎神鳥の聖域”だ」
「ここが……」
「すごい……」
シルフォスの面々から感嘆の声が漏れ聞こえる。
確かに初見だと、この光景はまさに圧巻だろうな。
”炎神鳥の聖域”と呼ばれるここ──ク・タ・フィリア峡谷の中心部は、岸壁に囲まれた巨大な円形の盆地のようになっており、盆地の中央には青々とした草原が広がっている。
そんな草原の上には、小川が蛇行しながら流れ、水面は太陽の光を受けて煌めいていた。
そして、そんな絶景の中を我が物顔で飛び回る存在がいた。
「ガルーダだ……!」
ヴァンスが小さく、力強く呟く。
それに反応するようにシルフォスの面々が息を呑み、全員で空を見上げる。
空には、巨大な鳥の姿が見えた。
全身が青緑色の金属的な羽毛で覆われた、家のように大きな怪鳥だ。
翼を広げれば優に十メートルを超え、鋭い嘴と爪は日差しを受けて鈍く光っていた。
「空の、支配者……」
ガレスの呟きに、シルフォスの面々は無意識に頷いた。
ガルーダの悠々たるその姿は、まさに空の支配者と呼ぶに相応しかった。
「……想像以上、だな」
ニックスの声には、明らかな緊張が混じっていた。
「あの羽毛……本物の金属見たいです……」
「あ、あんなの倒せるのか?」
シルフォスの面々はガルーダの威姿に気圧され、及び腰になっている。
その様子を見て、ヴァンスは黙って盆地の中央の草原に歩を進めた。
「お、おい!」
ヴァルドが声をかけるが、ヴァンスは返事することなく進んでいく。
「なあ、お前ら。ビビったならついてくんなよ、雑魚」
ニックスもヴァンスに続く。
「ニックスに同意だ。”怯え”は戦闘で非常に不利となる。無駄に命を落としたくなければ、ここで待機しておいてくれ」
レイモンドも行ってしまった。
エクリプスが去り、しばし沈黙が訪れる。
「……リーダー、どうする?」
リアナの声には、まだ少し恐怖の色が残っているものの、その眼差しには決意の色も垣間見える。
手を強く握りしめ、俯いたままのヴァルドだったが、突然叫び声を上げた。
「──ちくしょおぉ!! 行くに決まってるだろ! 冒険者がここで引けるかよ!?」
ヴァルドが吹っ切れたようにずんずんと進んでいく。
「だよね、それでこそリーダー!」
さっきの怯えた顔はどこへやら、シルフォスの面々もエクリプスに続いて進んでいった。
よし、俺もガルーダ戦に備えて準備をしておくか。
「……どうしたの? ユウタ」
シルフォスに続こうとするフロンが、振り返りユウタを見つめる。
「ん、ああ、ちょっと魔法をセットしたり、色々と準備してて。──これでよし、っと」
俺はメニューを閉じると、フロンに追いつく。
「何を言っているか分からない。でもいつものこと」
よく分かってるじゃないか。
二人で盆地の中央の草原に向かって歩き出す。
”対ガルーダ” の動き方はもう完璧に理解している。
正直、クッソちょろい。
……ただ、ガルーダが複数出てきたときは、少し厄介だ。
その場合に備えた魔法がセットしてあることを再度確認してっと。
よし、大丈夫だな。
中央の盆地では、エクリプスの三人が巨岩のそばに陣取ってガルーダを待ち構えていた。
「ニックス、準備はいいか?」
「ああ、ここなら上手くいきそうだな。──おい、シルフォス! そこでちゃんと見とけよ」
ニックスが何やら準備をしつつ、シルフォスの方を向いて挑発的な笑みを浮かべる。
「くそぉ、見せてもらおうじゃねえか! プラチナ級冒険者の戦いってやつをよ!」
ヴァルドはレイモンドの方を見る。答えるように、レイモンドが静かに頷いた。
「──じゃあ、戦闘開始だ。ニックス!」
ヴァンスの号令が響く。
「はいよ」
ニックスが巨岩の影から飛び出すと、鉄の矢を取り出してガルーダに向かって大弓を構える。
彼は深く息を吸い、一瞬の静寂の後、矢を放った。
放たれた矢は、まるで生き物のように空気を切り裂きながら飛んでいく。
ガルーダの挙動も計算した完璧な軌道だった。
──が、ガルーダにたどり着く寸前で、矢は急に威力を失い、届くことはなかった。
「ちっ、やっぱりそのままじゃガルーダの生み出す風に負けるか」
ニックスは舌打ちしたが、その表情には諦めの色はなかった。
「じゃあ──」
ニックスが腕輪に手を触れる。
突如、腕輪が緑色の光を放ち始めた。
「あ、あれは?」
俺は思わず声を上げた。
「魔術具。あれは射手座の魔石で作られた腕輪型の魔術具。そして、緑色だから、風空の術式が刻まれているはず」
「色で分かるのか……」
なるほど、魔石に術式を彫り込んでおいて、魔石が含む魔力で術式を発動しているのか。
興味津々で見つめる視線の先──ニックスが声を荒げた。
「──〈|剛毅の一撃〈フォルテストラーレ〉〉!」
ニックスの大弓から、大きな覇気を纏った一撃が放たれる。
再び放たれた矢は、今度こそガルーダの風をも切り裂いて飛んでいく。
しかし、ガルーダの青緑色の羽毛に弾かれて、予想以上のダメージを与えることはできなかった。
あれが弓技……俺がいくら弓の熟練度上げても、覚えなかったんだよなぁ。
もしかして、技の習得は熟練度じゃないのか?
この前フロンも剣技使ってたし、聞いてみるか。
なんて思っていると、ガレスが不安げに声を上げる。
「お、おい、大して聞いてないぞ……」
「黙って見てな」
矢が刺さったことで、ようやくガルーダは俺たちの存在を認識したようだ。
「ズオォォォン!」
イラッとしたのか、ガルーダは空気を切り裂く鋭い唸り声をあげる。
その咆哮は峡谷全体に響き渡り、地面さえも震わせるほどだ。
「くるぞ!!」
ヴァンスの警告が響くと同時に、ガルーダが翼を大きくはためかせる。
瞬間、ガルーダの目の前に巨大な竜巻が巻き起こった。
竜巻は見る見るうちに勢力を増し、周囲の木々を巻き込みながら俺たちに高速で近づいてくる。
「きゃああぁ!!」
エリーゼが必死に木につかまって耐える。
「おい、踏ん張れ! 吸い込まれるな!」
ヴァルドが叫ぶ間に、レイモンドが一歩前に出る。
「任せておけ。|大旋風〈だいせんぷう〉」
レイモンドが杖を天に掲げ、呪文を口にする。
魔法杖に複雑な紋様が浮かび上がり、緑色に輝き始めた。
また緑に光ってる、ということはあれは風空の術式なのか。
レイモンドの前方に、凄まじい豪風の刃が発生し、ガルーダの生み出した竜巻に向かって飛んで行った。
|大旋風〈だいせんぷう〉の刃が竜巻を切り裂き、その勢いを瞬く間に弱めていく。
「面白っ、すげえ戦略的だな」
俺の地味な戦いとは大違いだな……。
フロンたちが俺の戦い方を見て冷めないか不安になってきたぞ。
竜巻が消えた後、一瞬の静寂が訪れる。その静寂は、次なる激しい攻防の前触れに過ぎなかった。
ガルーダは俺たちに竜巻が効かないと判断したのか、高速で飛び回り始めた。
その動きは予測不可能で、目で追うのも難しいほどだ。
そして突如、岸壁にあった巨大な岩を足爪で掴むと、俺たちに向かって投擲を行った。
ヴァンスの言っていた『落石』だ。
それに対して、ヴァンスが盾を天に構えた。
「ふん。|山嶽陣〈さんがくじん〉」
ヴァンスの声と共に、彼の盾から黄色い巨大な盾型の波紋が発生する。
その波紋は俺たちの頭上に広がり、天蓋のように覆いつくしていく。
それは、ガルーダが投擲してきた大岩と衝突すると、波紋が強く光りはじき返した。
岩は粉々に砕け散る。
「す、すげぇ……」
ヴァルドが声を漏らす。
ちょっと! 俺も技使いたいんだけど!
ていうか早く戦いたいのだが!?
激長ムービー見せられてて中々戦闘に移らないゲームあるある!?
「……そろそろだな」
ヴァンスが呟く。
『竜巻』と『落石』を防がれたガルーダがとる次の行動は1つ。
ガルーダが翼を大きく羽ばたかせ、後ろに距離を取る
「──来るぞ!!『突進』だ!!!」
一気に加速してエクリプスに向かって突進を始めた。
あまりのスピードに空気が切り裂かれ、轟音を立てる。
亜音速にも近い速度で、しかもあの巨体で衝突されたら、例え家屋であっても木端微塵になる威力だろう。
ましてや人間なんて、まさにグロ注意。
「ニックス!!」
「今だ!!」
二人の声に黙って頷くと、ニックスは迫りくるガルーダを真っ直ぐ見つめたまましゃがみ、地面に手を着いた。
瞬間、ガルーダの前に巨大なクモの巣のようなものが現れた。
なんだあれ……!? あれも魔術具によるものなのか……!?
恐るべし魔術具。
ガルーダはそのままクモの巣に衝突する。
容易くクモの巣を破ると思ったが、異常に伸縮性が高いのだろう、ガルーダは急速に速度を落とし、クモの巣に絡めとられた。
「レイモンド!」
それはヴァンスからの合図だった。
レイモンドが再び杖を高く掲げる。
「──巨岩撃!!!」
今度は黄色い術式が杖に現れると、地面が大きくくり抜かれ、巨大な質量となってガルーダに衝突した。
衝撃で辺りに土煙が立ち、一瞬視界が遮られる。
「ズオォォォン!」
おおっ、かなりHPゲージが削れたぞ。
あと数発殴れば勝てそうだな。
ガルーダはニックスの罠に絡まり、未だに身動きがとれない状態だ。
「もう少しだ、一気に攻めるぞ!」
ヴァンスは槍を、レイモンドは片手剣を、そしてニックスは短剣を取り出すと、一斉にガルーダに襲い掛かろうとした。
その時だった。
「ヒュオォォォッ!」
「な、なんだ!?」
突如響き渡った鋭い鳴き声に、エクリプスたちも攻撃の手を止め、全員が一斉に声のする方向を見た。
そこには信じられない光景が広がっていた。
「……ガルーダが、2体」
岸壁の上、俺たちの頭上はるか高い位置に、二匹のガルーダが佇んでいた。
次話は明日7:10投稿予定です!
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