第25話 クリムゾンリストって?
一行が歩を進めるにつれ、峡谷の様相は刻々と変化していく。
最初は単調だった岩肌に、今や無数の穴や亀裂が目立つようになっていた。
「あ……!」
突如、エリーゼが声を漏らした。
彼女の視線の先には、岩壁から湧き出る小さな滝があった。
その水は驚くほど透明で、太陽の光を受けて虹色に輝いている。
「きれい……」
そう言って目を輝かせるエリーゼを見てると、なんだか俺だけモニター越しなのが少し残念に思えてくるな。
「えっ!? あれって……」
リアナの指差す先──岩場の隙間から、小さな生き物が顔を覗かせて水をクツクツと飲んでいた。
初見の魔物だな、名前は──
「ミ、ミクリン!?」 「ミクリン!!」
目を輝かせるフロンと、興奮する俺の声が重なった。
ミクリンってアレか!!
この前、【魔術】のスキルツリーに【召喚の術式Ⅰ】があって、ミクリンの召喚術式を使えるようになったはずだ。
でも魔術の使い方が全く分からないんだよなぁ。
魔法とは別っぽいんだけど。
「可愛い……!!」
女性陣はすっかりメロメロだ。
確かにメチャクチャ可愛いな……
大きな耳に、クリっとした大きくて丸い目、ふわふわとした尻尾──リスとウサギを掛け合わせたような、サン○オに居てもおかしくない感じの魔物。
そして何より目を引くのは、額にある小さな宝石のような石だ。
「ミクリンとはまた珍しいな。魔石獣の一種だ」
一生懸命水を飲むミクリンを、レイモンドも興味深げに見つめている。
魔石獣ということは、あの石が魔石なのか?
「かわいい……!! 魔石獣は初めて見ますが、あの額にある石は魔石なんですか?」
俺と同じことを思ったのか、リアナがレイモンドにそう尋ねた。
「ああ。生体魔石の一種だな」
「すまん、そもそも魔石ってなんだ?」
”魔石” という単語自体は、色んなゲームに登場するから何となく分かるんだけど。
”使用すると対応する属性ダメージを与える”
”高く売れる換金用アイテム”
──などなど、ゲームによってその用途が結構違うんだよな。
「知らないのか? エーテルを吸収する性質を持つ石さ」
少し得意げに答えるヴァルドに、レイモンドが続く。
「まあ、平たく言うとそうだな。凝固したエーテルそのものである魔結晶とは違って、エーテルが中に閉じ込められてる分扱いやすい。魔術具が主な用途だな」
魔術具!?
なんだそれ!? 欲しい!!
てか、魔術──ってことは、もしかして【魔術】スキルは魔術具を作成する系のスキルなのか!?
てっきり魔法みたいにMPを消費して使用する系のスキルかと思っていたが……
「地質作用を経て自然に生成された天然魔石とは違って、魔物の体内で生成された魔石を生体魔石と呼ぶんだ。特にミクリンの魔石は、エーテル限界量こそ少ないものの、その希少性と見た目の良さから高値で取引されてる」
説明を聞いたリアナが、少し悲しげな表情を浮かべた。
「取り外すと死んじゃうって聞いたことがあります」
「ああ。だから今じゃ数も少なくなっちまってな。禁止一覧にも書かれてる」
帰ったら魔石を買って魔術具が作れないか試してみよう、とウキウキだった俺に、気になる単語が聞こえてきた。
……禁止一覧??
「すまん、もう一つ教えてくれ。禁止一覧って、なんだ?」
俺の言葉に、ニックスが呆れた表情を浮かべた。
「殺しちゃダメな魔物の一覧だろ? お前、冒険者ならそれくらい知っとけよ」
「これだからブロンズは」と嫌味を続けるニックスだったが、もはやそんなのどうでもいい。
──俺、禁止一覧の魔物、殺してないよな……?
「へ、へぇ。ち、ちなみに、どんな魔物がその禁止一覧に、の、載ってるんだ……?」
心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「ミクリンとかの魔石獣が有名だな。あとは……エレメンタル系統とかか」
「え、エレメンタル……もしかして、”春のエレメンタル”もか?」ユウタ
ニックスは眉をひそめながら答える。
「当たり前だろ。エレメンタルは周囲の魔物に大きな影響を与える魔物だ。殺しちゃ、生態系が乱れて魔物が狂暴化したり、大量死や大量発生の原因になるからな」
「……へぇ.....」
殺りました。わたし。
春のエレメンタル、先日、殺りましたね。
い、一体だけなんです!!
弓で遠くからチョコチョコ攻撃してたら倒せちゃったんです……
出来心だったんですぅ……
「冒険者の仕事は、魔物の脅威から街の人々を守ることだ。その意味でも生態系の均衡を保つことは、我々冒険者の重要な役目でもある。ただ魔物を倒すだけが仕事じゃないんだ」
レイモンドはミクリンを見つめながら、静かに言葉を続けるが、俺の耳には入って来ない。
「……ちなみに、その禁止一覧の魔物を倒すと、どうなるんでしょうか……」
「そりゃお前、クビだよ、クビ。ギルド証剥奪だよ」
「く、クビ。クビですか」
異世界でもニートになりそうな件について。
「なんだ、お前、殺っちまったのか?」
「い、いえ! 誓って殺しはやってません!!!」
「ああ、禁止一覧を知らなかったから、もしかして知らないうちに破ってないか気にしてるのか? それなら大丈夫だ。冒険者ってクエストをこなすだろ? 討伐対象が禁止一覧の魔物であることは絶対ないからな」
「そうかー、じゃあ大丈夫だなー! はっはっは!!!」
大丈夫なはずだ。バレっこない。
そうだ、誰もいなかったし、バレるはずないじゃないか。
監視カメラがあるわけでもないし?
そう思うと、少し落ち着いてきたぞ。
「……」
めっちゃフロンが見つめてくるけど、気のせいだよな? バレてないよな……?
「おい、そろそろ行くぞ。ガルーダはこの先だ」
一同は頷き、ミクリンに──特に女性陣が名残惜しそうに──別れを告げると、再び歩を進め始めた。




