第24話 採取コマンド未実装
馬車に乗ること二時間──画面の中央に例の表示が。
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> ク・タ・フィリア峡谷
> ~風魔渦巻く神鳥の聖域~
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どうやら、クタフィル峡谷に着いたようだな。
馬車が停まると、ユウタたちは一斉に降り立った。
目の前に広がる光景に、シルフォスのメンバーは緊張した面持ちで息を呑む。
「これが、クタフィル峡谷か……」
ヴァルドが呟いた言葉に、皆が無言で頷いた。
眼前には、赤褐色の岩肌が天を覆わんばかりに聳え立っていた。
その岩壁の間を縫うように、細い山道が続いている。
「行くぞ」
ヴァンスの一声で、俺たちは歩き始めた。
狭い道は所々で急勾配となり、時には切り立った崖の縁をなぞるように進んでいく。
全員が額に汗を浮かべる中、俺はというとクタフィル峡谷の景色を楽しんでいた。
前来たときは走り抜けたから、じっくりと景色を見ることは無かったからな。
「おい、ユウタ。お前、随分と余裕層だな。この地形、慣れてないとキツイはずだぞ」
ガレスが息を切らしながら声をかける。
ユウタはもちろんゲームのキャラなので疲れることは無いし、俺はというと快適な部屋の中でキーを押しているだけなのでもちろん余裕だ。
みんなよくこんな急勾配歩けるな、俺なんてトイレ行くだけでも疲れるのに。
歩を進めつつ、ヴァンスは後続のメンバーに向かって話し始めた。
「いいか、ガルーダの恐ろしさを理解しておく必要がある」
その言葉に、全員の注目が集まる。
「まず、その巨体だ。翼を広げれば優に十メートルを超える。その翼で起こす風は、大木さえも吹き飛ばすほどと言われている」
「風を操る能力か……弓矢での攻撃が難しそうだな」
眉をひそめるシャルフに、ヴァンスは頷いた。
「だが、それだけではない。全身を覆う青緑色の羽毛は、非常に硬質で、通常の武器では傷つけることすらできん」
「じゃあ、どうやって倒すんだ?」
不安げにそう尋ねるガレスに、ヴァンスは腕を組んで答える。
「弱点は確かにある。翼の付け根と腹部は比較的柔らかい。だが...」
「それを狙うのが難しい、と」
レイモンドが言葉を継ぐ。
「ああ。ガルーダは驚異的な機動力を持つ。地上の我々では手も足も出ないほどだ」
「聞いたことがあります。岩を落としてきたり、竜巻を起こしたりするそうで...」
リアナが小さな声で付け加えた。
「その通りだ」
ヴァンスの表情が一層厳しくなる。
「特に竜巻は厄介だ。範囲が広いうえに、巻き込まれると高々と吹き飛ばされてしまう。下手をすれば、峡谷の底へ叩きつけられることもある」
一同が息を呑む。
「……脅かすのはこのくらいにするか。いいか、ガルーダとの戦闘時について、復習をしておこう。ガルーダの主な攻撃は3つ──『突進』、『竜巻』、そして『落石』だ。このうち、『竜巻』はレイモンドが、『落石』は俺が対処する。シルフォス、そしてユウタとフロンは俺らの後ろに待機しておいてくれ」
「ああ、了解だ。で、『突進』が来たら──」
ヴァルドが視線を向けると、ニックスがニヤリと笑う。
「俺の罠の出番、ってわけだ」
その後も歩を進めつつ、一通りの動きや、各々の役割を確認していると、リアナが歩みを止めて大声をあげた。
「あ、あれって……!」
リアナが指差す先には、岩肌から生える奇妙な植物が見える。
葉は風に逆らうように天を指し、赤と紫が混じった不思議な色をしていた。
それを見て、レイモンドが「ほう」と感心した様子だった。
「よく知ってたな。ワイバーンリーフだ。強力な魔法薬の材料になる希少な薬草だな」
「わ、私、植物が好きで……すみません、隊を乱すようなことを……」
リアナは叱られているような様子で俯いた。
まだ打ち解けていない雰囲気を察したのか、レイモンドは優しく微笑んで話を続けた。
「気にするな。むしろ良い眼力だ。あれは一つ二万ゴールドはするレアアイテムだからな」
「に、二万!? 一つに二万ゴールドですか!?」
マジかよ、ガルーダのドロップアイテムくらいの価値があるのか……
ゲームのシステム上、ユウタはこういう自然のアイテムは取れないんだよな……
みずっちに文句言っとくか。
「人の手で育てることが難しく、こういう危険な場所にしか咲かないうえに、滅多に見かけないからな。なんにせよ、今採取するのはやめておこう。戦闘の邪魔になるからな。帰り道の楽しみにとっておこう」
そう言って笑うレイモンドに、リアナは嬉しそうに頷いた。




