第22話 場違いな存在
めっちゃおくれました、、、
「……いったい、なんの用なの」
早朝の冷たい空気を切り裂くように、フロンは早足で歩きつつ、愚痴を零した。
向かう先は冒険者ギルド。
普段なら日が高くなってから訪れる場所だが、今日は特別だった。
連絡を受けたのは、昨日のことだった。
家にギルド職員が来て、ギルドマスターガンドルからの伝言を伝えられた。
曰く──『フロン・ノブルクレス。明朝、冒険者ギルド三階の会議室に来られたし』
「(今日こそはユウタとパーティを組みたかったのだけど)」
あの日──モルティス旧墓地での一件以来、フロンは毎日のようにユウタを探していた。
目的はもちろん、パーティを組むためだ。
ユウタとパーティを組むことで明確に成長速度が上昇していることを実感したフロンは、ユウタにパーティを申し込んだものの、普通に断られた。
でも、誘えばパーティを組むと言われたフロンは、その言葉通りユウタを探してはパーティを組んでいた。
しかし、最近はユウタの姿を見かけることが無く、仕方なく一人でクエストをこなしていた。
早く姉に追いつくためにも、ユウタの存在は必要不可欠。
何としてでもユウタとパーティを組む必要がある。
「早くユウタを見つけないといけないのに」
フロンはため息をつきつつ、更に歩く速度を上げた。
◇
冒険者ギルドに到着し、入り口を開けた瞬間、館内の喧騒が一瞬にして静まり返った。
フロンは顔をしかめる。こんな朝っぱらから面倒な状況に巻き込まれるのは御免だった。
「あれが噂のフロン・ノブルクレスか……ソウルバンシーを撃退したっていう」
「それどころか、Cランクの魔物を一人で倒しまくってるらしいぞ。おかげで、もうゴールド級だってな」
「しかも超絶美人ときた。彼女、一人なんだろ? うちに誘ってみないか」
「やめとけ。プライド高いのか知らないが、パーティを組まないらしい」
フロンは気にせず前に進むが、周囲の視線が一斉に彼女に注がれているのを感じずにはいられなかった。
囁き声が館内に広がる。
フロンの胸元で金色に輝くギルド証に、羨望のまなざしが向けられていた。
「(うるさい……)」
心の中でつぶやきながら、フロンはそれらの視線を無視し、まっすぐに階段へと向かった。
受付のドワーフが慌てて声をかける。
「フロン様! ガンドルがお待ちです。すぐに三階の会議室へどうぞ」
フロンは軽く頷く。
階段を上りながら、彼女の頭の中では様々な可能性が巡っていた。
新たなクエスト依頼? それとも姉に関する何か? 昇級の話?
そんなことを思いながら、フロンは会議室のドアノブに手をかける。
フロンがドアを開けると、会議室内の空気が一瞬凍りついたように感じた。
部屋には既にある程度の人数が揃っていた。
正面の大きな椅子に座る白髪の男性は、ギルドマスターのガンドル。
左手のテーブルには見覚えのある顔ぶれ──冒険者パーティ ”シルフォス” のメンバーだ。
リーダーのヴァルドと目が合うと、軽く手を挙げてフロンに挨拶した。
彼の顔を見ると、先日の旧墓地の一件が蘇る。
「(ユウタ……どこにいるの)」
早くユウタを探したい気持ちを抑えつつ、次の一団──右手のテーブルを見たフロンの目が、大きく見開かれる。
そこにいたのは、噂に聞くプラチナ級冒険者パーティ ”エクリプス” のメンバーたちだった。
エクリプスのリーダー、”大盾のヴァンス” がフロンを見つめ、わずかに眉を寄せた。
「フロン・ノブルクレス、来てくれて感謝する」
ガンドルの低い声が響く。
フロンは軽く会釈をして、部屋に入った。
「何の用ですか、ギルドマスター」
ガンドルは答える代わりに、空いている席を示した。
「座りなさい。あと一人来るのを待っている」
フロンは言われた通りに席に着いた。
誰がくるのか? なぜこれほどの面々が集められているのか?
彼女の心に、大きな疑念が渦巻いていた。
「フロン・ノブルクレス──噂は聞いている。まずは、ゴールド級への昇格を祝わせてもらおう」
ヴァンスが鋭い目線を向けながら、低い声で話した。
その声には祝福の言葉とは裏腹に、わずかな警戒心が滲んでいた。
「冒険者になって三カ月──これまでで最速だったか? 随分とお急ぎで」
皮肉を込めて話すのは、エクリプスのメンバーの一人、ニックスだ。
その目には明らかな不信感が宿っていた。
「おい、ニックス。やめておけ」
サブリーダーであるレイモンドが厳しい口調で制止した。
場の空気が一瞬にして張り詰める。
「すまない、こいつは皮肉屋でね。アンタの実力を疑っているわけではないんだ。ただ──」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ!」
シルフォスのリーダー、ヴァルドが慌てて間に入る。
「俺たちがここに集められたってことは、何か重大な事態が起きたんでしょう。今、雰囲気を悪くすることは得策ではないでしょう」
「ヴァルド、別にいい。私は気にしない」
冷静に対応するフロンの姿に、ヴァルドは安堵の表情を浮かべる。
「フロン、久しぶりだな。俺らが例の件で昇進する間に、フロンは2つも昇級するんだから、驚いたよ」
「アレイノスとムーンファルコンを倒したことが評価されたみたい」
「おいおい、一人でか!? 両方ともCランクの大型の魔物だろ、俺らも戦ったことはあるが、4人がかりで何とかってところだったぜ。実力については疑いようがないな!」
ヴァルドはチラリとエクリプスたちを見る。
「……言っただろう。実力を疑っているわけではない。経験の浅さが命取りにならないように警告しただけだ」
ヴァンスの声には、わずかに敬意が混じっていた。
「俺たちエクリプスのメンバーは全員、十年以上冒険者をやっている手練ればかりだ。様々な危機に遭遇し、乗り越えてきた。経験は力だ。ゆめゆめ、油断せぬようにな」
「大きなお世話。そんなことわかってる」
ヴァンスは大きく頷くと、ガンドルの方を見た。
「それより、最後の一人は誰なんだ? もう10分も遅刻しているぞ。俺たちも時間は惜しい。先に始めてくれないか」
「……そうだな、先に始めるとするか」
ガンドルの声が静かに響き、場の空気が一変した。
全員の視線が一斉に彼に向けられる。
「今日呼んだのは他でもない。討伐してほしい魔物がいる」
ガンドルの言葉に、部屋の緊張感が一層高まる。
「……なんだ?」
ヴァンスが低い声で尋ねた。
「ク・タ・フィリア峡谷に巣食う怪鳥──ガルーダの討伐だ」
その名を聞き、その場の全員が目を見開く。
「ガルーダ……Bランクの魔鳥種」
「金属のように硬い鱗に全身を覆われている上に、高速飛行能力を持つ。厄介な相手だな」
「しかも知能が高いんだろ? 岩を落としてきたり、竜巻を発生させたりするって聞いたことがあるな」
皆が口々に話す中、ヴァンスは眉を顰めた。
「……ガンドル、それで、話はなんだ? その程度のことで皆を呼ぶとは思えんが」
ヴァンスの言葉に、ガンドルは頷いて答える。
「……流石だな。ヴァンスの言う通り、ガルーダであればエクリプス単体に依頼すればいい話だ。だが、今回は少し事情が違う。……ガルーダが大量に発生している。その数、およそ三十体だ」
「さ、三十……!?」
「おいおい、冗談だろ? その情報は確かなのか?」
場が驚愕と疑念に包まれる中、ガンドルは静かに答える。
「ああ。昨日、占星術師のアガメに星見儀を実施してもらい、確認した。確かな情報だ」
「ま、マジかよ.....」
ヴァルドが絶句する。
「……それは、もはや我々の仕事ではないのでは?」
ガンドルは暗に、その依頼はエクリプスの手に負えないことをガンドルに伝えていた。
更に上の階級──レジェンド級やミルドナイト級に依頼するべき内容では、ということだ。
ガンドルは深く頷くと、深刻な表情で続ける。
「言っていることはもっともだ。ガルーダ三十体は、もはやレジェンド級……もしかしたらミルドナイト級のクエストなのだが……。如何せん、レジェンド級以上の冒険者は今、王都に集められている。戻ってくるのはいつになるか……」
「なるほど、魔人化の件か」
「ヴァンス、言うな」
ヴァンスの呟きに注目が集まるのを感じたガンドルは、厳しい言葉で制止する。
「そういうわけで、この街に居て、直ぐにでも対応できる実力者たちに集ってもらったのだ」
ガンドルは一人一人を見つめながら続ける。
「如何なるクエストも綿密な準備と柔軟な装備でやり遂げることから、『万能のエクリプス』として知られているプラチナ級冒険者パーティ”エクリプス”。そしてモルティス旧墓地の一件以降、目覚ましい活躍を続けるゴールド級冒険者パーティの”シルフォス”。パーティを組まずたった一人でゴールド級に最速で昇級したフロン・ノブルクレス。これだけの実力者たちが揃えば、あるいは……」
ガンドルの言葉が途切れた瞬間、重苦しい沈黙が部屋を支配した。
その沈黙を破ったのは、ヴァンスの低く、しかし断固とした声だった。
「ガンドル。すまないが、俺たちエクリプスは降りる」
その言葉により、部屋中の視線がエクリプスに集中する。
ガンドルの目が鋭く光った。
「……それは何故だ?」
「失敗する可能性が高いからだ。我々は確かに”万能”と呼ばれている。クエストを失敗したこともない。だがそれは『準備をすれば達成できる』と経験をもとに判断し、クエストを受けているからにすぎない。ガルーダ三十体? 我々はそんなクエストを受けるほど馬鹿ではない」
ヴァンスの言葉に首肯し、レイモンドが続く。
「我々の強みは、あらゆる状況に対応できる準備力だ。だが今回は、その準備すら間に合わない。そもそも、どれだけ準備しようが難しいだろうな」
「それに、経験不足の者と組むのは危険すぎる。申し訳ないが、フロンとやらの実力は未知数だ。……これは皮肉とかじゃないからな?」
ニックスの言葉に、フロンは口を開こうとしたが、ヴァンスが先に続けた。
「ガンドル、我々は街の安全のために尽力してきた。だが、無謀な挑戦は避けねばならない。失敗すれば、街の防衛力が大きく損なわれる」
部屋に重苦しい沈黙が広がる。
ガンドルは深いため息をついた。
「ヴァンス、お前がそう言うことは予想していた。長い付き合いだからな。ただ、最後の一人を見てから判断してほしい。彼こそが、この作戦の要となる存在だ」
「……誰なんだ? そいつは」
「……ガルーダの討伐数、35。この世界で最もガルーダを倒した冒険者──」
その瞬間、扉が勢いよく開かれた。
「彼、ブロンズ級冒険者のユウタだ」
そこには、銅に輝くギルド証を付けた冒険者、ユウタの姿があった。
次話は07:10投稿予定です!
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