第21話 救世主からのお誘い
「どいて」
聞き覚えのある声がモルティス旧墓地に響き渡る。
「フロン!? どうしてここに!?」
そこには、黒い髪を高く結んだポニーテールを揺らし、桜色の片手剣を構えた冒険者──フロン・ノブルクレスの姿があった。
フロンは一瞬の躊躇いもなく、まるで風のように軽やかに地面を蹴る。
──彼女の姿が一瞬にして霧のように消えた。
「〈桜霞閃〉」
瞬きの間にソウルバンシーの背後に移動した彼女はそう呟くと、剣が桜色の輝きを放ち、半透明の身体を切り裂く軌跡を描いた。
「ギャアアアア!」
ソウルバンシーの悲鳴が墓地に響き渡る。
その体から淡い光が漏れ出し、まるで霧が晴れていくかのように少しずつ実体が薄れていく。
ソウルバンシーは俺を解放すると、逃げるように空の彼方へと飛び去って行った。
「ふぅ……」
淡い桜色の残光が漂う中、フロンは深々と息を吐いた。
──いやいや、何勝手なことしてるの!?!? ソウルバンシーちゃんにもっと絞りとって、じゃなくてレベルを吸い取ってもらおうと思ってたのに!?!?
もちろんそんなこと露ほども知らないフロンは、達成感に満ちた表情で話し始める。
「貴方も冒険者として上を目指すなら、下調べをしっかりすること。モルティス旧墓地には過去、ソウルバンシーの目撃例がある」
「え、あ、スミマセン……」
なんで怒られてんのオレ……?
「死なれたら困る。貴方は正式に私のライバル」
いやいつの間に!?
というか正式ってなに!?
「あれ、そもそもなんでソウルバンシーちゃんに攻撃が通用したの?」
「桜霞閃は体内エーテルを剣に集中させるノブルクレス家の剣技。実体を持たないソウルバンシーのような相手にもダメージを与えることが出来る」
『体内エーテル』や『剣技』という要素は初耳だが、要するに魔法ダメージを与えられる攻撃ってことか。
剣技……俺も武器の熟練度を上げれば使えるようになるのか?
「大丈夫かユウタ!!」
ヴァルドが枯れた手で俺の肩を掴む。
「いや、俺は大丈夫だが……お前こそ、その腕……」
「ああ、これくらい大丈夫さ、ユウタが無事でよかったわ!」
しぼみ切った腕をプラプラさせて見せるヴァルド。
コイツ、いいやつだな……
「そうだ、これを使ってくれ」
俺は1本だけ残っていた【死霊のポーション】をヴァルドに差し出す。
「いや、いいよ。さっき1本もらったばかりだしな」
「気にすんな」
「……ユウタ。ありがとな!!」
ヴァルドは満面の笑みで【死霊のポーション】を受け取ると、腕にかける。
「それより、どうしてフロンがここに?」
「貴方に話したいことがあったから」
え、そのためだけに?
ま、まさか俺、告白されるのか!?
墓地で!?
「貴方とパーティを組んだあの日から、不思議なことばかり起きる。あれほど出来なかった桜霞衝が、突然会得できた。身体機能も明らかに上がっている。更には──あれほど苦手だったアンデッドが平気になった」
……つまり、俺と一緒に居たことで強くなったってことか?
これはもしかして、【影響力Ⅰ】の効果だったりするのか?
確かに『味方の成長速度が上昇する』と書かれていたが……
「貴方は正式に私のライバル、それは変わらない。でも、私の一番の目標はお姉ちゃん──セリーナ・ノブルクレスに追いつくこと。そのために出来ることは、やりたい」
フロンは一呼吸置くと、ユウタを見つめて言った。
「ユウタ、私と正式にパーティを組んで」
「え、ごめんなさい」
「がーん!!」
だってパーティを組んだら好き勝手出来なくなるじゃん!!
一日中魔物と戦いたくてもパーティメンバーのことを考えて出来なかったり、ずっと走って移動とかもできなくなるし……
俺は好きなようにゲームやりたいんだよ!
だから”アポカリプス・クロニクル”でもレンデュランスというギルドには参加していたが、効率を求めて一時的なパーティを組むことはあっても、固定パーティを組むことは最後までなかったんだ。
ゲイルニクス周回をしていた時だって、一人でやってたし。
「い、いやでも誘ってくれたら全然パーティ組むから! 固定パーティはごめんなさい、ってだけだから……!」
「がーん!!」
ショックで動けなくなってるフロンに俺は必死に言い訳を続けるのだった。




