第16話 モルティス旧墓地に到着!
翌朝、俺は武具屋ドラゴンスミスの店主から【奇重石のハンマー】を無事受け取ることができた。
エリナは久しぶりの仕事だと随分と張り切っていたらしく、夜通し作業してくれたため今は寝ているそうだ。
エリナちゃんの頑張り屋さんなところ──好きだナ。
……なんておじさん構文はもちろん心の中に留めつつ、ゲットしたハンマーを確認する。
デザインとしては深い青緑色をした装飾の少ないシンプルな見た目で、まさに慣れてきた初級冒険者が使っていそうだ。
アイテム欄で性能も確認してみよう。
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【奇重石のハンマー】 <攻撃力 +18>
マービュライトで出来た使い勝手の良いハンマー。装備している間、移動速度が少し上昇する。
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い、移動速度上昇!?
軽くて取り回しやすいというマービュライトの特性を反映したものなんだろうか?
めちゃくちゃイイ……!!
序盤から中盤にありがちな『性能はそこそこだが速度関係のパラメータが上昇するため評価が高い』装備って多いよね。
結局、快適過ぎて中々外せないのよな。
早速装備してみる──やはり両手装備か。
そして移動してみると──たしかに体感できる程度には移動速度が向上していた。
……これって、他の人の目にはどう映るんだ?
大股歩き、もしくは早歩きしているように見えるのだろうか?
なんてことを考えつつ、北出口から街を出る。
ここから北東に向かうと、モルティス旧墓地が見えてくるはずだ。
早速北東へ──といきたいところなのだが、その前に新装備を試しておきたい。
とりあえず一旦、左クリックでハンマーを構える。
そしてもう一度、左クリック──ユウタはハンマーを大きく振りかぶると、思い切り地面に叩きつけた。
なるほど、やっぱり片手剣と比較すると攻撃の隙は大きいな。
何度か振り回して、もう少し挙動を確認してみる。
移動しながら攻撃すると少し隙の少ない横振りか。これは使えそうだな。
……ん? これ、左クリック押しっぱで溜められるのか?
試しに長押ししてみると──ユウタは振りかぶったままその場から動かず、力を貯め続けている。
画面下にゲージのようなものが現れ、貯めた時間によって段階的に攻撃が強化されていく仕組みのようだ。
最大溜めは──轟音とともに、画面が揺れるほどの威力だった。
試し打ちしたいな、と思っていると、ちょうどいいところに可哀想なガルムくんが。
何も知らないガルムくんは、俺を見るなり戦闘態勢に入り、ゆっくりと近づいてくる。
早速、左クリックを長押し。
グンッ、グンッと力が込められていく。
……よし、最大溜め状態だ。この状態でガルムを待ち受ける。
ガルムは無防備な俺を見て、嚙みついてやろうと近づいてきた。
今だっ!!
渾身の一撃が、轟音と共にガルムを叩き潰す。
……一撃か。これは強い。
溜め中に移動できないのはツラいが、一撃で倒せる相手なら問題は無いか。
逆に一撃で倒せない場合は手痛い反撃を喰らいかねないところは注意だな。
俺はその後も少し慣らした後、北東に向かって移動を開始した。
◇
北東に向かって走ること約20分。
まだ午前中だというのに、周囲が薄暗くなるという不思議な現象が起き始めた。
ついには微かに霧がかかり、視界不良に。
アンデッドの影響なのだろうか。
普通の人間なら気味悪くて引き返すところだが、ゲームなのでもちろんひたすら前に進むぞ。
すると、一段と霧が濃い場所にたどり着くと同時に、画面の中央に例の表示が。
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> モルティス旧墓地
> ~怨嗟渦巻く亡者の聖地~
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どうやら、モルティス旧墓地に着いたようだ。
歩を進めると、霧の向こうからゆっくりと巨大な石造りの門が姿を現す。
苔に覆われた門柱には、判読不能な古代文字が刻まれていた。
門をくぐると、画面が一瞬真っ白になる。そして霧が晴れるように、目の前に広大な墓地が広がった。
無数の墓石が、まるで海の波のように起伏のある地形に不規則に並んでいる。
「...こりゃ、ユウタじゃなく高橋優太だったら無理だな」
モニターの向こうの景色にも関わらず、思わず身震いしてしまった。
……うん、後ろには誰もいないな。
気を取り直して、俺はマウスを握り直す。
「さ、さあ。アンデッド狩りと行くかぁ!!」
今回の目的は、言わずもがなアンデッド狩りだ。
レベル上げもできるし、倒した数に応じて報酬がもらえるらしいからな。
目標100体! さあ、どこからでもかかってこい! アンデッドどもめ!
──あれ? 意気込んだは良いが、魔物の気配がないぞ。
アンデッドのオンパレードだとローズマリーから聞いたんだが。
じゃ、じゃあしゃーない。今日は帰ってガルムでも倒すか!!
……別に、怖いわけじゃないからな。
と、誰にしているのか分からない言い訳を呟きつつ、引き返そうとすると、遠くから声が聞こえてきた。
「マズい! もう持ちこたえられない!」
「撤退だ、撤退するぞ!!」
「ダメだ、囲まれてる……!」
「い、いつの間に後ろに!?」
この声は、アンデッドのものでは無さそうだ。
行ってみよう……!
声のする方に進むと、そこには大量のアンデッドに囲まれた冒険者の一団が必死に抵抗しているところだった。
「《火炎球》!──くっ、もうエーテル残り僅か!」
「な、なんなんだこの数!? 聞いたことないぞ!?」
「ぐあぁっ! か、嚙まれたっ! 早く回復を……!」
「ひ、《神の加護》!」
冒険者たちは、必死の形相でアンデッドに対抗していた。
こ、これがアンデッドか……
冒険者たちを取り囲むアンデッドの群れを見て、俺は思わず息を呑んだ。
ゲームでは何度も見たことのあるモンスターだが、こんなにリアルで生々しいものは初めてだ。
骨と皮だけの痩せこけたゾンビが、むき出しの歯をカチカチと鳴らしながら、よろめくような動きで冒険者たちに迫っていく。その目は赤く光り、生者への憎しみが込められていた。
「はああぁぁ!!」
メイスを装備した冒険者が、思い切りスケルトンを殴りつけた。
ぐしゃっという音とともに、スケルトンは崩れ落ちる。
しかし、その穴を埋めるように、次から次へとゾンビが押し寄せてくる。
「ど、どりゃあああ!」
一撃を加えるが、ゾンビは怯むことなく前に進んでくる。
こ、これは恐ろしい……
冒険者たちの必死の抵抗をよそに、アンデッドの数は増える一方だ。
墓石の陰から這い出てくるもの、地面から腕を突き出して這い上がってくるものなど、その出現の仕方も様々だった。
「待て、あれは...!?」
突如、冒険者の一人が叫んだ。
彼の目線の先、アンデッドの群れの中から、異様に大きな体格のゾンビが姿を現す。
その皮膚は灰色で、爪は鋭く伸び、目は狂気に満ちていた。
「グ、グールだと!?」
冒険者たちの間に動揺が走る。
どうやらこのグールという存在は、普通のゾンビよりもはるかに危険らしい。
その傍らには、通常のスケルトンよりも背の高い骨の戦士が立っていた。
その骨は黒ずんでおり、両手に巨大な剣を構えている。
「ルストまでいるのか……! し、信じられない……」
冒険者たちの声には、明らかな恐怖と絶望が混じっていた。
このままでは、彼らは確実に命を落とすだろう。
さっさと助けてやらないと……!!
次話は明日の07:10投稿予定です!




