第14話 武器屋ドラゴンスミス
ローズマリーによると、東街リミナリから北東に行ったところに『モルティス旧墓地』という誰も近寄らない場所があるらしい。
そこは現在アンデッドのオンパレードとなっており、街の人々も手を焼いているとのこと。
冒険者ギルドとしても対応の必要性を感じており、アンデッドを討伐すればその数に応じて報酬が支払われる仕組みになっているそうだ。
早速明日行く旨を伝えると、「陽が出ている間に絶対帰ること!」と忠告を受けた。
日中帯なら低ランクのアンデッドしか出てこないらしい。
更には「頑張ってね!」ということで、【死霊のポーション】も5個、タダでもらうことが出来た。
いやあ、距離感の近い子だったなあ。しかもカワイイし。
画面越しだから大丈夫だが、面と向かうと何も話せない可能性大だ。
陰キャはアンデッドみたいなもんだから、陽キャに弱いんだよ。
なんてアホなことを考えつつ、ラグジュアリーエリアを歩く。
次なる目的地は、武具屋だ。
俺のゲーマーとしての経験上、アンデッドは斬撃があまり効かない。
つまり、こんな【錆びた剣】とかいうゴミじゃ1体倒す間に日が暮れてしまう。
一方、神聖な属性や、殴打系の武器の攻撃は割と通るイメージがある。
例えば、極性元素盤にあった光輝魔法や、ハンマーで攻撃することで、効率よくアンデッド狩りが可能なはずだ。
魔法は、エーテルコアを消費しての習得になってしまう、つまり振り直しができるか分からない現状ではあまり習得したくない。
ハンマーであれば金で買えるわけで、また稼げばいいわけだ。
そういう思いのもと、武具屋を探すと──あったあった。
『武具屋 ドラゴンスミス』という名前の武具屋だ。
二階建ての石造りの建物で、屋根は何かの魔物のウロコに覆われている。
さきほどのプラチナムとはうってかわって、武骨な外観だな。
ドラゴンの彫刻が施された扉を開いて中に入る。
「おう、いらっしゃい」
店の奥の店主は、ちらりとこちらを見るだけで特に何もしない。
いいな、これくらいの方がゆっくり見ていけるってもんだ。
中には楽器店のように武器が壁に掛けられている。
さてと、お値段はというと──
────────────────────
【ミスリルソード】 <攻撃力 +50> 〔300,000ゴールド〕
ミスリル製の見事な片手剣。
【聖鉄のハンマー】 <攻撃力 +65> 〔500,000ゴールド〕
聖鉄で造られた巨大なハンマー。死霊種に効くとされる。
【ガルーダボウ】 <攻撃力 +55> 〔400,000ゴールド〕
ガルーダをも撃ち落とすとされる大弓。
【ドラゴンシールド】 <防御力 +30> 〔500,000ゴールド〕
フレアドラゴンのウロコで作られた大盾。火炎耐性が高い。
【スケイルメイル】 <防御力 +50> 〔800,000ゴールド〕
フレアドラゴンのウロコで作られた鎧。斬撃耐性が高い。
────────────────────
たっっか!!! たっっっっっっっか!!!
無理無理、舐めてた!!
800,000ゴールドて!? インフレすぎでしょ!?
俺が心の中で叫んでいると、店主が話しかけてきた。
「あんさん、高いと思ってるだろ」
「……ま、まあ」
「そう思うのも無理はない。あんさん、ブロンズだろ?」
店主が俺のギルド証を見つめて言う。
「今の報酬じゃ、せいぜい銅貨数枚が良いとこだろ。でもな、プラチナにでもなると依頼1つで銀貨数枚の報酬がもらえるんだ。一年も貯めれば買えるようになる」
やっぱり武具は車を買う感覚に近いのだろうか。
ゲームだと適当に金を稼いでいれば買えるから、感覚がマヒしていたのかもしれない。
仕方ない、昨日見た屋台の武具屋に行ってみるか。品質は格段に落ちるだろうが……
そう思い、店を出ようとする俺に再び店主が声をかけてきた。
「おい、あんさん。いくらまで出せる?」
「えっ? ……銀貨二枚、だな」
「そうか。ブロンズのくせにやるじゃねえか。いいぜ、それで特別に武器、作ってやるよ」
「え!? いいのか!?」
なんという神イベント!?
もしかしてこれも【外見】スキルのおかげなのか!?
やっぱり人は見た目が100パーセントなのか!?
「ああ。ただし、作るのは俺じゃない。──エリナ!!」
店主がそう言うと、二階から誰か降りてきた。
──!!
「……すごいね。私を見てイヤな顔ひとつしないなんて」
銀灰色の短めのセミロングヘアの少女。
眼帯を付けた彼女には、右腕が無かった。
「俺の娘のエリナだ。まだ17だが一人前の鍛冶師で、将来は後を継いでもらうつもりだ。だが、二年前、魔物に襲われてこんなになっちまった」
「ビックリだよね、鍛冶師が片腕って!」
ハハハと笑うエリナ。
……正直言うと、俺は絶句していた。
痛ましい姿の少女になんと声をかけていいのか分からなかった。
ただユウタはもちろん顔色一つ変えない。
そんなユウタのことが気に入ったのか──それとも【外見】スキルのおかげなのか──エリナは気さくに話しかけてくる。
「うちの武具屋、高いでしょ!」
「……それだけ自信があるってことだろ」
「その通り! うちは誇張抜きで街一番! どの武具も一級品でしょ?──その【ミスリルソード】なんて私が昔造ったんだよ!」
エリナが指を差したのは、先ほど見たミスリルソードだ。
確かに、腕は確かだったようだ。
「今はもうそれほど上手く作れないけどね! ハハハ!」
──笑えねえよ!!!
そういうのやめてもらっていいですか?
引き籠りはそういうの上手く返せるコミュ力ないんです……
「エリナ、この冒険者に銀貨二枚で武器を作ってやってくれ」
「うん、聞いてたよ。それは別にいいけど、私でいいの?」
「そりゃもう、作ってもらえるだけで大感謝ですよ、はい……」
正直、銀貨二枚で造ってもらうのは少し申し訳なかったので、
これくらいの方が助かる。
……これくらい、というのも失礼か。
「そう? じゃあ、ちょっと頑張っちゃおうかな!」
エリナの顔にやる気がみなぎる。
……凄いな、そんな悲惨な目にあっても明るく振る舞えるのか。
「どんな武器がお望み?」
「アンデッドに効果的な武器、ってあるか?」
「アンデッド!? め、珍しい要望だね……。そうだね、アンデッドならやっぱり殴打系の武器がいいよね。お兄さん──ごめん、名前は?」
「えー、アポクロの最古参ギルドの一つ”レンデュランズ”のサブリーダーの高橋優太です」
「……ユウタね、ユウタはみた感じ盾を使わないみたいだから、片手メイスよりもハンマーの方がいいかな? となると、使う鉱石としては、本当は聖鉄がいいんだけど……流石に予算的に厳しいな。それなら、破壊力重視で──」
エリナはカウンターの横に置いてあった巨大な鉱石に目を落とした。
「それは?」
「マービュライト! 奇重石とも言ってね……だまされたと思って、ちょっと持ってみて!」
俺は言われるがまま、マービュライトを『手に持つ』。
「ほら、そんなに重そうなのに片手で持てるほど軽いのが特徴なんだ」
いやごめん、重いのか軽いのかワカラン……
「でも強い衝撃を加えると、途端に重くなるの。つまり──」
「軽くて取り回しはいいのに、叩きつけた時だけ重くなるハンマーが作れる」
「そういうこと! どうかな? 【奇重石のハンマー】でいい?」
「ああ、それで頼む」
「オッケー! じゃあすぐに作り始めるから──そうだなぁ、明日の朝にでも取りに来てよ!」
俺は頷くと、銀貨二枚を店主に渡して店を出た。
それにしても、魔物か……
帰り道、俺は珍しく物思いに耽る。
俺からしたらこれはゲームだ。
別に魔物に噛まれようが、飛びつかれようがHPゲージが減るだけ。
だが、この世界に生きる人々にとって、魔物は恐ろしい存在であり、受けたダメージは一生残るんだ。
……今思えば、フロンに無茶させてたんじゃないか?
あんな疲弊した状態で、もし動きが鈍ってガルムに嚙みつかれたら。
──そもそもこの世界におけるポーションとは何なのだろう。
いわゆる活力を回復するもの、もしくは自然治癒力を高めるもの?
一方のユウタは、ポーションを飲めば即時にHPを回復することが出来る。
……彼女を治せるとしたら、【錬金】スキルだろうか。
珍しく頭を使ったら、腹が減ってしまった。
ユウタに帰り道、屋台に寄ってもらうことにする。
「いらっしゃい!」
屋台に並ぶのは、見たこともない魔物の肉。
オンコック、というらしい。
おばさんによると、この世界では非常にポピュラーな肉らしい。
この丸焼きは、この大きさで100ゴールドというお値打ち価格。
魔物が多い分、肉も大量に手に入るからだろうか。
俺は銅貨一枚を渡して、【オンコックの丸焼き】を受け取った。
────────────────────
【オンコックの丸焼き】
オンコックの丸焼き。3時間の間、STAの減少を抑える。
────────────────────
……ん?
えっ、もしかして、ユウタ、お前……
メシ食うと強くなるタイプなのか……?
この感じ、絶対攻撃力強化の料理あるよな……
もしかしてこのゲーム、料理OPだったりする……?
そういえば、【料理】スキルとかあったな。
ちくしょー、取りたいスキルが多すぎてスキルポイントが全然足んねえ。
ちなみにオンコックの丸焼きは、味としてはほぼ鶏肉だが、少し噛み応えがある感じだった。
まあ一言で言うなら美味かったゾ。




