第13話 死霊のポーション
無事ガルム30匹の討伐を終え、冒険者ギルドに戻ってきた俺たちは、クエストの完了報告と素材の売却を終えた。
結果手にしたのは、銀貨2枚と大銅貨4枚──即ち、24000ゴールドだ。
フロンは「お姉ちゃんと約束がある」とかなんとかで冒険者ギルドで別れ、俺は一人で東街リミナリのラグジュアリーエリアにやってきた。
フロン曰くここはその名の通り金を持ってる冒険者向けのエリアらしく、買い物をするのにうってつけだと思ったわけだ。
「流石ラグジュアリーエリア、通りを歩く冒険者はみな胸に金色に光るバッジを着けてるぞ……」
場違い感を覚えながらも、目的の場所に急ぐ。
その目的の場所とは──あったあった、ここ、『アイテムショップ プラチナム』だ。
やっぱりポーションがある方が安心だしな。【粗悪なポーション】は流石に使い勝手が悪いので、コスパの良いポーションを探しに来たわけだ。
プラチナムは優雅な白亜の建物で、正面には大きなショーウィンドウがあり、いろんな種類のポーションが展示されている。
値段がついていないところから推察するに、希少な展示用アイテムなんだろう。
少し緊張しつつ、中に入る。
「いらっしゃいませ」
待ってましたと言わんばかりに、笑顔を貼り付けた男性が近寄ってくる。
「お客様は──あぁ、ブロンズ級冒険者でいらっしゃいますね」
「は、はあ」
「どうぞお好きに見て回ってください」
興味を失ったように、店の奥へと帰っていく店員。
……おい、今舌打ちしなかったか!?
どうやら、ブロンズ級冒険者はここでは歓迎されていないみたいだな。
まあいい、そんなの気にせず見て回ろう。
内装はというと、大理石の床に高級そうな絨毯が敷かれ、深い緑色の壁がなんともマッチした、まさに高級感あふれるものとなっていた。
ガラス製の陳列棚がゆったりと置かれており、ポーションが所狭しと並んでいたアイテムの屋台とは大違いだ。
まあ、内装は何でもいい。俺は陳列されたポーションを適当に見て回る。
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【高価なポーション】 〔3,000ゴールド〕
見た目が美しい観賞用のポーション。HPを100回復する。
【激高なポーション】 〔5,000ゴールド〕
金が散りばめられた非常に高価なポーション。HPを300回復する。
【いい匂いのポーション】 〔2,000ゴールド〕
ムーンセージのエキスが入ったポーション。HPを100回復する。
【ゴールデンポーション】 〔8,000ゴールド〕
有名な錬金術師が調合したポーション。体力を400回復する。
【プレシャスポーション】 〔2,0000ゴールド〕
プレシャスライムの体液で出来たポーション。体力を600回復する。
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たっっっっっか!!!
信じられないくらい高いんだけど!?
なんだよ20000ゴールドって、こんなの誰が買うんだよ!?
うーん、あえて買うとしたら【いい匂いのポーション】だけど……
ゲームだから匂いも分からんし全く意味ないんだよな。
てか、普通のポーションは売ってないのか……
うん、ここはブランドショップ的な立ち位置なんだな。
そう判断した俺は、そそくさと店を出た。
「さ、流石に高すぎる。このエリアはこんな感じなのか……?」
上級冒険者になれば、この値段帯のポーションを普段使いできるぐらいの収入が得られるのだろうか。
なんにせよ、今の俺にはまだ手が出せないわ……
そう思って店の前を去ろうとしたら、不意に声をかけられた。
「お兄さん、高かったでしょ? ここのポーション」
話しかけてきたのは、何やら元気そうな、帽子を被った少女。
「目の玉が飛び出ちゃうよねー。こっちとしては、安価でそこそこの効果のポーションを探しているのにね!」
「あ、ああ。そうなんだよ。というか誰」
俺の問いかけは無視して、少女は続ける。
「だよねー。いい匂いとかしなくていいから、安くしてくれー! って思うよねー」
「ほんとそれな。で、誰でしょうか」
「そんな貴方に朗報! ここに【そこそこ安くてまあまあなポーション】がありまーす!」
そう言って、少女はポーションを取り出した。
「これ、複雑な事情があって市場に出回ってないんだけど、効果は確かなの!」
複雑な事情ってなんだそりゃ。盗品だったりするのか?
それか、ポーションの製薬には規定があって、それを満たしてないとか。
それにしてもこの子、自信満々だな。
もしかして……。
「これ、作ったのって……」
「そう、何を隠そうこの私! 未来の天才錬金術師になるローズマリー・オルディス!!」
ローズマリーと名乗る少女は胸を張る。
錬金術師、か。
スキルツリーに【錬金】があった時点から予想はしていたが、やっぱり存在したか。
「良かったら買ってみない? ひとつたったの800ゴールド!」
地味に高いな……
「それ、何と何を錬金してるんだ?」
この世界の錬金の仕組みは知らないが、俺のゲーマーとしての経験上、おそらく素材と素材を組み合わせて作るのだろう。
そう思った俺の問いかけに、ローズマリーはドキッとした表情を浮かべた。
「ひぇ!? え、えっと、そりゃあもう効能の高い徳の高い草やら液体を──」
などと宣うローズマリーだが、俺の目はごまかせない。
何故なら、アイテム説明文に全て書かれているからだ。
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【死霊のポーション】 〔800ゴールド〕
アンデッドの骨や腐肉を材料としたポーション。HPを100回復する。
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「へぇー、これってアンデッド系の素材から作られてるのか」
「そうなの!! ゾンビやスケルトンって、倒しても有効活用できないなと思って──って……」
ローズマリーの顔が見る見るうちに青ざめていく。
「な、なんで分かったの!?」
「俺にはアイテムの声が聞こえるんだよ」
あながち嘘ではないゾ。
「え、それホント!?」
「アア、ホントホント」
「すっご──────い!!!!!」
ローズマリーは目を輝かせて飛びついてきた。
「え、じゃあもしかしてプラチナムの【いい匂いのポーション】に入っている素材も分かったり!?」
「ちょ、引っ付くな! えっと、あれは確かムーンセージってのが入ってるらしい」
「あ──ー!!! ムーンセージだったんだ!!! じゃあ、ポーションにムーンセージを混ぜればボロ儲けなんじゃ!?」
「た、確かに」
随分と金稼ぎに食いついてくるな。
話しかけてきたのも俺が店から出たタイミングだったし。
もしかして金に困っているのだろうか。
それか、錬金術師はめちゃくちゃ金がかかるとか。
なんて考えている間に、ローズマリーは突然落ち込み始めた。
「で、でも多分だめなんだ……。錬金術師の界隈は利権まみれで、せっかく良いものを作ってもすぐに潰されちゃうんだ……」
「そ、そうなのか……」
ゲームでよくある、素材を安く買って錬金して高く売る、みたいな手法は難しいってことか。
それにしてもこの反応……これまでもそういったことがあったのだろうか。
「このポーションだって、効果は確かなんだよ!? でも、『アンデッドの素材が入ったポーションなど認めない』って言われちゃって売りに出せないんだ……」
「うーん、それはそう」
どんなに害がないって言われても、アンデッドの素材が入ってたら誰も飲まないわな。
ただ、回復アイテムとしてはめちゃくちゃコスパがいいことは確かだ。
だって、【いい匂いのポーション】がHP100回復で2000ゴールドだろ?
俺は絶対に飲みたくないが、ユウタなら問題ないしな。
……なんとか500ゴールドにしてもらえないか? アンデッドの素材なんてほぼタダだろ。
そう思い、ローズマリーに聞いてみることにする。
「……なあ、そのポーションってアンデッドの素材から作ってるんだろ? もう少し安くならないのか?」
「それが……アンデッドの素材なんて利用価値もないし気味悪がって誰も回収しないから、悪趣味な儀式用のお高い素材を買わないといけなくて……」
確かに、言われてみればそりゃそうだわ。
スケルトンの骨とかゾンビの肉なんて、回収する方がおかしいわ。
ゲームだと勝手にドロップする上に、アンデッドって大量に出てくるから結構手に入るんだけどな……
──ん? ゲームだと?
いやこれゲームだよね?
その時、俺の頭に天才的なアイデアが浮かんだ。
「じゃあ、俺がアンデッドから素材を回収してくるから、出来たポーションを安く買わせてくれないか?」
「えっ!? いいの!?」
少女は目を丸くしている。
「ああ。俺はコスパのいいポーションが手に入る。ローズマリーはタダでアンデッドの素材が手に入るし、俺に作ったポーションが売れる。お互いにウィンウィンだと思うんだけど」
「それアリ!! 最高!!」
ローズマリーが思い切り抱きついてくる。
うん、ゲームだから何ともないけど、生身だったら危なかったな。
主に男としての部分が。




