第12話 無敵時間ってズルくね?
フロンとやってきたは、プレリード街道。
来る途中の無言が辛かったが、俺はへこたれない。
「おおっ、昨日あんだけ倒したのに今日もわんさかいるな!!」
「繁殖期が近いから……昨日も、ということは昨日の初級冒険者は貴方!?」
フロンがなにやら驚いているが、なんのことかよくわからない。
「ま、まさか本当にただのブロンズ級冒険者だったなんて……」
「ただの、って。何を驚いているのか分からないけど、さっさと始めよう」
俺は左クリックを押し、【錆びた剣】を構える。
……今日もこのクソ武器を使うことになるなんてな。
あの性悪エルフめ……
なんて思っていると、ちょうどいい感じにガルムが一匹近寄ってきた。
「いいか、俺は左から寄るから、フロンは右から──」
「私は見てる」
「は、はあ!?」
「貴方の戦闘が見てみたい」
それってパーティなのか!?
「ま、まあいいけど」
ガルム1匹なら何の問題もない。
昨日と同じように、2発殴って回避すれば攻撃を喰らうことも無いしな。
「じゃ、始めるぞ」
俺はさっさとガルムに近づいて、左クリックを2回。
ザシュッ、ザシュッ。
「ガアアアッ!」
ガルムは少しひるんだ様子だったが、負けじと飛び掛かってくる。
ほい、回避っと。
俺は無敵時間を利用してガルムの攻撃を避けた。
「……貴方、今明らかに当たってるように見えたのだけれど。大丈夫?」
「ああ、無敵時間だから」
「……何を言っているのか分からない」
フロンを尻目に、俺は再びガルムに2撃与える。
……あと1撃か。
無理やりいってもいいが、もうポーションが無いから無難にいこう。
再びガルムが最後の力を振り絞り飛び掛かってくる。
もちろん回避。
「いや、やっぱり当たってる!! 当たってる!!」
「当たってないよ」
声を荒げるフロンを適当にあしらって、俺は最後の一撃をガルムに叩き込む。
崩れ落ちるガルムを見て、俺は武器をしまった。
「はい、これでいいか?」
「当たってるか、当たっていないか。そこだけが問題。当たってるよね?」
「当たってないって、ほら、ケガしてないだろ?」
「お、おかしい……」
納得いっていない様子だが、まあそういうもんだから納得してもらうしかないよな。
「そんなことより、これってどうやって討伐を証明すればいいんだ?」
流石にガルムの死体を30体街に運ぶのは骨が折れるぞ。
「……それだけの実力があって、知らないの? ギルド証には《記録》の術式が刻まれていて、貴方の戦闘も自動で記録されている」
「なるほど。じゃあ帰ったらギルド証を見せればいいわけか」
「そう。それより、死体はどうするの? 後で回収車を呼ぶ?」
回収車──昨日横を通り過ぎて行った荷車や荷馬車のことか。
「うーん、呼び方もわからないし……そのままにしてたらマズいか?」
「問題はないけど。他の冒険者が嬉々として回収する。……素材に興味はないみたいね」
「あ、素材なら、ほら」
俺はアイテム欄から先ほどドロップした【灰色の毛皮】を『手に持つ』。
「えっ、いや、えっ……」
フロンはあまりの驚きに、目を白黒させながら亡骸と【灰色の毛皮】に交互に目をやった。
「け、毛皮が……増えた……?」
「あー、まあマジックみたいなもんだよ」
フロンは固まったまま動かない。
そんなやり取りをしていると、周囲にガルムが集まってきた。
1、2、3──三匹か。
「フロン、話しているヒマはないぞ。囲まれる前に倒そう」
「わ、わかった……!」
フロンはすぐさま剣を取り出す。
桜色の綺麗な剣身が見事だ。
俺の錆びた剣とは大違いだな……
「俺が3匹の攻撃を引き付けるから、1匹ずつ倒そう」
フロンは頷く。
俺はあえて3匹の攻撃が喰らう位置に陣取る。
「ちょ、ちょっと……!?」
「ガアァッ!」
ガルムたちはしめしめと言わんばかりに、同時に飛び掛かってきた。
回避っと。
「──!?」
三匹の飛び掛かりが重なるタイミングで回避をしたため、ガルム同士が衝突する。
フロンの言う通り、どう見ても当たってるが無敵時間なので何の問題もない。
倒れ込むガルムに近寄って、左クリック連打。
ザシュッ、ザシュッ。
……見ると、フロンは剣を握ったまま立ち尽くしていた。
「フロンも攻撃してくれよ」
「──えっ!? わ、わかった!!」
フロンは我に返ったように、倒れているガルムに斬りかかる。
おお、剣筋が美しいな。
かなり鍛えているみたいだ。
「──はあっ!!」
まだ半分ほどあったガルムのHPが一撃で無くなる。
すごい攻撃力だな、この子。
「やるじゃないか!!」
「ふ、ふん。貴方に褒められてもうれしくない」
「ガルムたちが倒れているうちに、さっさと残りもやってしまおう」
無言で頷くフロンと共に、ガルムに斬りかかる。
楽勝だな。
「ふう、これで4体か。残り26体だな」
かなり余裕のペースだ。これなら昼過ぎには終わるぞ。
俺たちは次の獲物を探して歩き出した。
◇
「よしっと、これで20体だ。これなら昼には街に戻れそうだな」
フロンの攻撃力が高いこともあり、ガルム狩りは非常に順調に進んだ。
対象の素材もドロップしたし、これで納品系の依頼もOKだ。
つぎ、つぎっと。
「ちょ、ちょっと待って……」
見ると、フロンがゼエゼエと息を吐いていた。
「はあ、はあ、み、水だけ飲ませて……」
フロンは腰に付けた水筒を持ち、口をつける。
そうだった、俺はゲームだから一切疲れない──精々手首が疲れる程度なのに対して、フロンはもうずっと身体を動かしてるんだもんな。
気遣いゼロ、これはモテない。
「──ぷはっ。……ごめん、もう大丈夫」
再び顔にやる気をみなぎらせるフロンだが、まだ肩で息をしている状態だ。
「大丈夫か? もう少し休んでても大丈夫だけど」
「……見くびらないで。私はノブルクレス家の冒険者」
大丈夫そうには見えないが。
「ノブルクレス家って、冒険者の中で有名なのか?」
仕方ないので、雑談を装って休憩させてやる。
これはモテる。
「有名も何も、私のお姉ちゃんはあのセリーナ・ノブルクレス」
「あの、って言われても……」
俺の言葉に気を悪くしたのか、フロンは不機嫌そうに続ける。
「知らないなんて……ミルドナイト級冒険者──無手の剣士セリーナ、聞いたことない?」
「聞いたことないな……それ以前に、ミルドナイト? レジェンドが一番上じゃないのか?」
俺の疑問に、フロンはやれやれと頭を振る。
「通常、冒険者の最高位はレジェンド。それは間違いないのだけれど……人類史に残るような活躍をした冒険者には、それ以上の階級が与えられる。それが、ミルドナイト」
人類史に残る活躍……
ボスモンスターを倒した的なことか?
「私のお姉ちゃんは、七人しかいないミルドナイト級冒険者の一人。そして更にその上には、セラフィナイト級冒険者──三傑と呼ばれる、まさに生きる伝説がいる」
や、ややこしい……
つまり、冒険者の階級にはブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、レジェンドの五つがあり、普通に昇級するのはここまで、と。
で、レジェンド級冒険者のうち、とんでもないことをした人は、更にその上のミルドナイト級冒険者になれるわけだ。
ただ、よくわからんがまだその上にセラフィナイト級冒険者が3人いて、三傑と呼ばれている、と。
何したんだ、そいつら。
「……ありがとう。もう十分休めた。さっさと終わらせよう」
……気付いていたか。
まあ、十分休めていそうだし続きと行くか。




