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魔法少女の原罪


夜の街に、蒼い光が瞬いた。魔法少女リリサの杖が宙を切り、怪人――黒いマントを翻す男が地面に叩きつけられる。爆音と衝撃波が路地を震わせ、瓦礫が舞う。リリサの金色の髪が風に揺れ、彼女の瞳は燃えるような決意に満ちていた。


「これで終わりよ、怪人ヴァルド! あなたの悪は私が裁く!」


ヴァルドは血を吐きながら笑った。仮面の奥、赤い目がリリサを嘲るように光る。「正義、か。リリサ、お前の正義はあまりにも眩しすぎる。強すぎる正義感はやがて身を滅ぼすぞ」


リリサは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに杖を構え直した。「悪人の戯言に耳を貸す気はないわ!」


彼女の杖から放たれた光がヴァルドを飲み込み、彼の身体は光の粒子となって消滅した。リリサは息を整え、杖を下ろす。「また一つ、悪を滅ぼした。これで街は平和になる」


だが、彼女の心には微かなざわめきが残っていた。ヴァルドの言葉が、まるで棘のように胸に刺さっていた。


正義の重さ


翌朝、リリサはいつものように学校へ向かった。制服姿の彼女は、クラスメイトたちと笑顔で話す普通の少女だ。だが、彼女の心には常に「正義」があった。幼い頃、怪人に家族を奪われた日から、リリサは魔法少女として悪を滅ぼすことを誓ったのだ。


昼休み、校舎の屋上でリリサは一人、空を見上げていた。彼女の心は昨夜の戦いを反芻していた。ヴァルドの言葉が頭から離れない。「強すぎる正義感はやがて身を滅ぼす」。それは単なる悪人の捨て台詞だと信じたい。だが、なぜかその言葉は彼女の心に引っかかっていた。


その夜、リリサは新たな怪人の情報を得て街へ飛び出した。今回の敵は「ミラージュ」と呼ばれる女怪人。彼女は幻影を操り、人々の心を惑わす能力を持っていた。


戦いの場は廃工場。ミラージュは微笑みながらリリサを迎えた。「魔法少女リリサ。あなたの正義、どこまで本物かしら?」


「黙りなさい! あなたの幻影でどれだけの人が苦しんだか!」リリサの杖が光を放ち、ミラージュを攻撃する。だが、ミラージュは軽やかにかわし、囁くように言った。「正義とは、自分の都合の良い方に物事を進めるための大義名分よ。あなたが倒したヴァルド、彼は貧しい者を救うために動いていた。それを知っていた?」


リリサの手が止まった。「…嘘よ。そんなはずない」


「本当よ。彼は腐敗した権力者を排除し、富を分け与えようとした。でも、あなたの正義はそれを許さなかった」ミラージュの声は冷たく、鋭い。「あなたは自分の信念に盲目的よ」


リリサの心が揺れた。だが、すぐに杖を握りしめた。「悪人の言葉に惑わされない!」


戦いは激化した。ミラージュの幻影がリリサを追い詰める。彼女はリリサの記憶を呼び起こし、家族を失った日の光景を再現した。炎に包まれた家、泣き叫ぶ母、父の絶望的な叫び声。リリサの心は乱れ、攻撃の手が鈍る。だが、彼女は必死に自分を取り戻し、叫んだ。


「幻影なんかで私の正義は揺るがない!」


リリサの杖から放たれた光がミラージュを貫き、彼女は悲鳴を上げて倒れた。廃工場の静寂が戻り、リリサは膝をついた。息を荒げながら、彼女はミラージュの言葉を思い返していた。ヴァルドが貧しい者を救おうとしていた? そんなことが本当なら、彼女の正義は何だったのか。


揺らぐ信念


ミラージュを倒した後、リリサは放心状態で帰宅した。彼女の部屋は静かだったが、心は嵐のように乱れていた。ミラージュの言葉が頭から離れない。ヴァルドが本当に貧しい者を救おうとしていたなら、彼女が倒したのは悪人ではなく、別の正義を信じる者だったのか。


リリサはベッドに座り、杖を手に持ったまま考え込んだ。「正義って…何なの? 私がやってきたことは、本当に正しかったの?」


彼女はヴァルドの過去を調べ始めた。ネットや街の噂を頼りに、彼が貧民街で食料を配り、腐敗した役人を攻撃していた事実を知る。リリサの心はさらに揺れた。「私が…間違っていたの?」


彼女は鏡に映る自分を見つめた。金色の髪、決意に満ちた瞳。だが、その瞳には迷いが生じていた。彼女は魔法少女として戦い続けてきた。だが、その戦いが正しいかどうかを初めて疑い始めた。


新たな敵と新たな問い


数日後、新たな怪人「ガルム」が現れた。彼は街を破壊するテロリストだったが、その目的は環境汚染を引き起こす企業への復讐だった。リリサは再び戦いに赴くが、ガルムの言葉に打ちのめされる。


「お前の正義は企業の犬だ。俺たちが戦わなければ、誰も声を上げない!」


リリサは叫んだ。「それでも、罪のない人を傷つけるのは許されない!」


戦いは苛烈だった。ガルムは炎を操り、工場地帯を焼き尽くそうとした。リリサは全力で彼を食い止めるが、ガルムの言葉が彼女の心を抉る。「お前が守るこの街は、汚染された空気と水で人々を殺している。それを正義と呼ぶのか?」


リリサの杖が光を放ち、ガルムを倒した。だが、勝利の喜びはなかった。彼女は炎に包まれた工場地帯を見ながら、ガルムの言葉を反芻していた。彼が戦った企業は、確かに環境を破壊していた。その事実はリリサの心に重くのしかかった。


正義の果て


リリサの戦いは続いた。次々と現れる怪人たち――彼らはみな、悪とされる者たちだったが、それぞれに信念を持っていた。貧困、環境破壊、腐敗した権力。彼らの戦いは、リリサの正義と衝突し、彼女の信念を揺さぶった。


ある夜、リリサは街を見下ろす丘に立っていた。彼女の杖は握り潰されそうなほど強く握られていた。「正義って何? 私が戦ってきたものは、本当に正しかったの?」


彼女は過去の戦いを振り返った。ヴァルド、ミラージュ、ガルム。彼らは悪だった。だが、彼らの行動には理由があった。リリサの正義は、街の秩序を守るためだった。だが、その秩序は誰のためのものだったのか。企業、権力者、そして無関心な市民たち。彼らを守るために、彼女は戦ってきた。だが、その戦いが正しいかどうかは、もう分からなかった。


リリサは杖を握りしめ、呟いた。「分からない。でも、私は私の正義を信じるしかない」


彼女は新たな怪人の情報を得て、夜の街に飛び出した。戦いは続く。だが、彼女の心にはもはや確信はなかった。正義は存在するのか。それとも、ただの幻想なのか。リリサは答えを見つけられないまま、戦い続けた。


新たな試練


数週間後、リリサは「セレスティア」と名乗る新たな怪人と対峙した。セレスティアは光を操る能力を持ち、街全体を浄化するかのように輝く力で人々を魅了していた。だが、彼女の目的は、街の全てを「完璧な秩序」のもとに再構築することだった。そのためには、既存の社会を破壊する必要があった。


「リリサ、あなたの正義は不完全よ」とセレスティアは言った。「この街は腐っている。欲望、汚染、争い。それらを全て焼き払い、新しい世界を作り上げるのが私の正義よ」


リリサは反論した。「人を犠牲にしてまで、そんな正義は認められない!」


戦いは壮絶だった。セレスティアの光はリリサの攻撃を全て弾き返し、彼女を追い詰めた。だが、リリサは諦めなかった。彼女の杖から放たれる蒼い光は、セレスティアの輝きとぶつかり合い、夜空を照らした。


戦いの最中、セレスティアはリリサに問いかけた。「あなたが守るものは何? この腐った世界? それとも、自分の信念?」


リリサは答えた。「私は…私が信じるものを守る!」


その言葉は、彼女自身の迷いを振り切るためのものだった。セレスティアを倒した後、リリサは倒れ込み、息を荒げていた。彼女の心はさらに重くなった。セレスティアの言葉は、彼女がずっと避けてきた問いを突きつけた。彼女が守るものは、本当に正しいのか。


内なる戦い


リリサは戦いを続ける中で、自分自身と向き合う時間が増えた。彼女は夜な夜な屋上で空を見上げ、過去の戦いを振り返った。ヴァルド、ミラージュ、ガルム、セレスティア。彼らの言葉が、彼女の心に刻まれていた。


ある日、彼女は街の図書館で古い資料を見つけた。そこには、魔法少女たちの歴史が記されていた。かつての魔法少女たちもまた、正義を信じて戦い、だがその多くが自らの信念に疑問を抱き、戦いをやめた者もいた。リリサは、自分がその道を辿るのではないかと恐れた。


彼女は鏡に向かって呟いた。「私は…間違っていないよね?」


だが、鏡は答えない。彼女の瞳には、かつての燃えるような決意が薄れ、代わりに深い迷いが見えた。


最後の決断


数ヶ月後、リリサは最後の大規模な戦いに直面した。怪人「カオス」と呼ばれる存在が街に現れ、全てを破壊しようとしていた。カオスは、秩序も正義も否定し、混沌こそが真の自由だと主張した。


「リリサ、お前の正義は偽物だ。全てを壊し、新たな世界を作ろう!」


リリサは叫んだ。「そんな世界、誰も望んでいない!」


戦いは街全体を巻き込んだ。カオスの力は強大で、リリサは幾度も倒れそうになった。だが、彼女は立ち上がった。彼女の心には、家族を失った日の記憶が蘇っていた。あの日、彼女は無力だった。だが、今は違う。彼女は戦う力を手に入れた。


「私は…私の正義を信じる!」


リリサの杖から放たれた光は、カオスを飲み込み、街に静寂が戻った。彼女は勝利した。だが、その勝利は空虚だった。カオスの言葉が、彼女の心に響いていた。「正義は偽物だ」。本当にそうなのか。リリサには分からなかった。



戦いが終わり、街は再び平和を取り戻した。リリサは学校に戻り、普通の少女として生活を続けた。だが、彼女の心は変わっていた。彼女は正義を信じ続けていたが、それはもはや絶対的なものではなかった。


ある夜、彼女は丘の上に立ち、街を見下ろした。杖を手に持つ彼女の瞳には、迷いと決意が混在していた。「正義は…存在するのかもしれない。だけど、それは私が決めるものじゃない」


リリサは杖を握りしめ、夜の街に消えていった。彼女の戦いは終わらない。だが、彼女は知っていた。正義は、信じることでしか生まれないことを。


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