01 野良猫
猫崎楓。高校2年生。
背は高くも低くもなく。端整な顔立ちをしており、艶やかな桜色のロングヘア。薄く色づく桜色の唇。スカートの裾から覗く、健康的な太腿。
しかし、それらより先に目につくものがある。
それは猫耳と尻尾だ。
だが、見えたら、だ 。
楓の猫耳と尻尾は楓の家族と吉田透という少年にしか見えない。
これはそんな猫崎楓と吉田透の日常の物語。
◇
ある日の放課後。
猫崎楓と吉田透は肩を並べ、帰り道を歩いていた。
「あ、猫」と楓。
コンクリートの塀の上に野良猫が一匹。
楓は立ち止まり、上から手を差し出し… …。
「ッ!」
猫にべしっと叩かれた。
「大丈夫!?」
「うん……大丈夫……」
「ちょっと手、見して 」
幸いにも血は出ておらず、傷もない。
一安心する透。
しかし、楓はそうでは無かった。
何故なら、今、透の掌には楓の手が置かれている。
(吉田君の手……!あと心配してくれてる…!)
楓は頬が緩んでしまうのをなんとか耐えた。
(ニマニマしていると変態だと思われしまう、クールよ、クールに!)
しかし、尻尾がブンブンと振られて、耳がピコピコしていて、クールとはかけ離れている。
そんな様子に、透は気づいておらず、
(良かった……怪我してなくて……)
と、胸中で呟やき、
「あ、ごめん!手……!」
慌てて、触れていた手を離した。
(うわっ、やってしまった……急に手を触れるとか……変態だ…)
反省する透。
「ご、ごめん!本当に!」
「え、全然大丈夫だよ」
ひどく落ち込んでいる透に声をかける。
「本当に全然気にしないで!むしろ心配してくれてありがとう!(……でも、もっと触ってて良かったのに……)」
後半はボソボソと呟き、透の耳には届かず、透は首を傾げる。
「と、とにかく!ありがとう!」
赤面しながら言う楓に透は慌てて、
「ど、どういたしまして!」
と、反射的に返した。
そして、二人のいる空間には気恥ずかしい空気が流れ、
「そ、そういえば、猫ってどうすれば恐がらないのかな?」
楓は耐えきれず、新しい話題を。
それに透は乗っかる。
「……えっと、動物って上から触ると怖がるから……下から手を差し出した方が良いって誰かが言ってた気がする…」
楓はそんな透の意見(?)をすぐ取り入れ、下から手を差し出し……。
野良猫は楓の手をペロッと舐め、頬をスリスリする。
楓は頬をほころばせる。
そんな楓の様子を見て、透も頬をほころばせる。
透も下から手を差し出し、その野良猫を撫でる。
野良猫は嬉しそうに目を細める。
「可愛いな~」
そんな透の呟きに対して楓は……少し……ほんの少しムスッとする。
「うわ~、本当に可愛いな~」
(………)
「この角度とか可愛いな~」
(言いすぎじゃない!?……私……まだ……可愛いって言われたことのないのに……!)
楓は野良猫の方を見ると、野良猫がニヤっと悪質な笑みを浮かべた。
いや、浮かべたかは分からないが楓はそう受け取った。
楓はメラメラと対抗心を燃やし(女子高校生が猫に対抗心を燃やすという不思議な図が出来あがった)、無意識に透の腕をガッと握り、自分の方にぐいっと引き寄せていた。
「!?」
透と楓の距離は一気に近づき、透の腕には柔らかい果実が押しつられ、楓のほんのりの甘い香りが透の鼻をくすぐる。
硬直し、顔が赤い透。
そして、 楓はというと……。
(あわわわわっ!何してるの私!)
目をぐるぐるさせ、かぁぁぁと顔も耳も全てが真っ赤。
(や、やばい!何か言わないと!)
そんな楓の口から出た言葉は。
「私って可愛いですか!?」
何故か敬語。
(何言ってるのぉぉ私ぃー!!)
そんな楓の質問に、
「世界一可愛いよ!!」
躊躇いなく楓の 目を見て、透ははっきりと言った。
「………はぅぅ……」
楓はその場にヘナヘナと倒れこんだのだった。
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