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【第15話 水面に映るもの】

 初めての模擬戦闘の翌日、学院の空は薄曇りだった。

 天頂から射す光も幾分か鈍く、静かな一日になることを予感させた。だが、教室内の空気はむしろその逆に、どこかそわそわと落ち着かない。


「あいつ、すごかったよな……」 「ファンくん? あれが熱風派ってやつ?」 「え、でも俺、リューエルのやつも驚いたけど……ダイヤってあんな風に光るのか?」


 試合を終えたばかりの生徒たちは、それぞれの記憶に残った場面を反芻していた。普段は控えめなリューエルの一撃、魔道具を駆使したトーヤの動き、そして、ファンの見せた一連の流れるような攻撃。模擬戦の余韻は、まだ誰の中にも色濃く残っていた。


 アマネはそんな喧噪を、教室の窓辺からぼんやりと眺めていた。


 昨日の試合。

 自分は“ほどほど”に戦い、“ほどほど”に敗けた。


 ──あれが「標準」としての立ち回りだった。


 決して驚異でもなく、劣等でもない。特筆すべき点はなく、ただ規格に沿って、穏当に終える。それは周囲の誰からも余計な関心を引かないための、ひとつの“戦略”だった。


(けど……リューエルは、ちゃんと向き合ってたな)


 ふと思い返すのは、白い光に包まれたあの少年の姿だ。

 彼は、恐れていたはずだ。けれど逃げなかった。決して派手な勝ち方ではなかったが、リューエルの中ではきっと“必要な一歩”だったのだろう。


「──アマネ様」


 声に振り向くと、すぐそばにシオンがいた。


「はい?」


「昼食の時間です。ご一緒に」


 いつも通りの、変わらぬ従者の佇まい。その姿に、アマネは微かに笑んだ。


「ありがとう。行こうか」


 二人は並んで教室を出る。向かうのは、中庭の一角にあるいつものベンチだ。


 途中、トーヤとリューエルの姿を見かけた。トーヤは何か大きな包みを抱え、リューエルは小さく頷きながら隣を歩いている。二人の距離が、昨日よりほんの少しだけ縮まったように見えた。


「……昨日、リューエルくんのこと、ちょっと見直した」


 ぽつりと漏らすと、シオンが意外そうに眉を動かす。


「理由を、お聞きしても?」


「うん。なんていうか、ちゃんと“自分で選んだ”って感じがしたから」


 誰かの期待でも、過去の誇りでもなく、今の自分のために立ち上がった姿。

 アマネは、それがとても眩しく思えた。


 食事の合間、風がひとしきり木々を揺らした。葉のざわめきが昼下がりの空気に微かな音を運び、その中でアマネは、ふと目を閉じた。


(……僕は、このままでいいのかな)


 標準を装う日々。

 それは仮面であり、盾でもある。だが、いつかは本当の姿と向き合わなければならない時が来る。そんな予感が、静かに胸の奥に広がっていた。


 ──けれど今はまだ、時ではない。


 アマネはもう一度、目を開ける。目の前には、変わらず傍に立つシオンの姿。

 自分を信じて、すべてを預けてくれている存在。


「……よし。午後の授業、頑張ろう」


「はい。アマネ様が望むなら、どこまでもお供します」


 静かな昼食のひととき。

 けれどその裏側では、確かに何かが、ゆっくりと動き始めていた。

模擬戦を終えた後。

派手な展開はありませんが、アマネたちが学院での「日常」を取り戻すエピソードです。

関係性が少しずつ育ち、同時に次の波が静かに近づいています。

4MB!T/アンビット

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