表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

「その呪いは、アンインストールできます」


「カスタマーサポートセンター、佐藤でございます。いつも異世界冒険者サポートをご利用いただきありがとうございます」


『クククッ…聞こえているか?異世界の賢者よ…』


 低く不気味な男性の声が響く。背景には風の唸りのような音が遠くから聞こえている。


「はい、クリアに聞こえております。どのようなご用件でしょうか?」


『我は闇の魔術師アザゼル…永遠の命を得るため、禁忌の呪文を唱えたのだが…予想外の副作用が出てしまった…』


「なるほど、魔法の副作用についてのお問い合わせですね。具体的にどのような症状が出ていらっしゃいますか?」


『フッ…我の体が…透明になりつつあるのだ。手足から徐々に消えていき…今では上半身しか見えない。このままでは完全に消滅してしまう…』


 雄一は「不死・透明化・副作用」で検索をかけた。


「お客様が試された呪文は《イモータル・コイル》でしょうか?」


『!?なぜそれを…そうだ、その呪文だ』


「こちらのデータベースによりますと、その呪文は本来『不死』ではなく『不可視』を意味する古代語の誤訳から生まれた呪文でございます。完全な透明化が本来の効果であり、副作用ではございません」


『な、何だと!?書物には確かに「死なない体」とあったはずだ…』


「申し訳ございません。《コイル》は古代竜語で『見えない』という意味で、『死なない』は《コイリス》となります。一字違いで意味が大きく変わってしまうようです」


『クソッ…魔道具店の店主め、偽物の書をつかませやがって…!』


「ご安心ください。この呪文には解除方法がございます。満月の夜に、水を張った銀の盆に映った自分の影に向かって、呪文の逆唱をするという方法です」


『逆唱だと?《ライオク・ラトローミ》か…』


「はい、そうです。また、完全に透明化する前に《ヴィジブル・フォーム》という対抗呪文を唱えることでも元に戻る可能性がございます」


『なるほど…助かった、賢者よ。この恩は忘れん…ところで、本当の不死の呪文も知らないか?』


「大変申し訳ございませんが、カスタマーサポートでは生命倫理に関わる呪文のご案内は行っておりません。代わりに、寿命延長や若返りの正規の魔法をお調べすることは可能です」


『ちっ…まあいい。今日のところは引き下がるとしよう…』


 通話が終わった後、雄一は「要注意依頼者」リストに「アザゼル」の名前を追加した。不死や禁忌の魔法に関する問い合わせは倫理審査が必要なケースだ。


「闇の魔術師も大変だな…」と雄一が呟きながら、深夜シフト残り1時間を前に、姿勢を正して次の通話に備えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ