「パスワードをお忘れの場合は秘密の質問にお答えください」
「カスタマーサポートセンター、佐藤でございます。いつも異世界冒険者サポートをご利用いただきありがとうございます」
『もしもし?聞こえますか?このクリスタルの使い方がよくわからなくて…』
高そうな服を着た年配の男性が映っている。今回は特殊な魔法通信クリスタルからの映像付き通話のようだ。
「はい、クリアに聞こえております。どのようなご用件でしょうか?」
『実は王家の宝物庫に入りたいのだが、魔法の扉が開かなくなってしまってね。呪文を忘れてしまったようなんだ』
「なるほど、パスワードをお忘れの件ですね。お客様のお名前と、宝物庫の管理者様のお名前を教えていただけますか?」
『私はアルバート・フォン・ローゼンブルク、ローゼンブルク王国の宰相だ。管理者は国王陛下ということになっているが、実務は私が担当している』
雄一はPCで「ローゼンブルク王国・宝物庫」を検索した。画面には「要注意:パスワード再発行詐欺多発」という警告が表示されている。
「アルバート様、本人確認のため、数点ご質問させていただきます。王国の建国記念日はいつでしょうか?」
『それは簡単だ、フローラ暦3724年、第7月の22日だ』
「正解です。次に、王国の国章に描かれている動物は何でしょうか?」
『双頭の鷲と銀の獅子だ』
「最後の質問です。現国王陛下の母上様のお名前は?」
『…』
宰相は少し黙った後、『エレノア・フォン・ヴィッテルスバッハだ』と言った。
雄一は眉をひそめた。データベースではエレノア・フォン・ブルーメンタールとなっている。
「申し訳ございませんが、情報が一致いたしません。セキュリティ上、これ以上のお手続きは進められかねます」
『何だと!?私は宰相だぞ!すぐに開けろ!』
「大変恐れ入りますが、本人確認が取れない場合、別の方法として国王陛下直々のご依頼か、王家の印章が必要となります」
『くっ…わかった。切るぞ!』
通話が切れた後、雄一は不審者報告フォームに記入した。実は先週、本物の宰相から「最近私になりすましている者がいる」という相談があったのだ。
「王族関連は面倒だな…」と雄一が呟いた瞬間、再び着信音が鳴った。
ディスプレイには「ローゼンブルク国王」という表示。本物の国王からの緊急連絡のようだ。雄一は姿勢を正して通話を受けた。
「カスタマーサポートセンター、佐藤でございます…」