「勇者様、その魔法杖は充電式です」
「カスタマーサポートセンター、佐藤でございます。いつも異世界冒険者サポートをご利用いただきありがとうございます」
『助けてくれ!魔法が全く出なくなったんだ!明日は魔王城最深部に挑むというのに!』
慌てた様子の男性の声。背景からは仲間と思われる複数の人の声も聞こえる。
「お問い合わせありがとうございます。お客様のお名前と、現在ご使用の魔法装備をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
『俺はロイド!勇者パーティのリーダーだ。使っているのは王国から支給された《神星杖》という上級魔法杖だ!』
「ロイド様、ご連絡ありがとうございます。《神星杖》ですね。こちらの記録によりますと、その杖は月明かりで魔力を蓄える仕様となっております。現在お客様がいらっしゃる場所はどちらでしょうか?」
『魔王城の地下30階だ!』
「なるほど…地下ですと月光が当たらないため、充電ができていない可能性がございます。杖の柄の部分に月の紋章はございますか?」
『あ、ある!小さな三日月の模様が…』
「その紋章を指で5秒間押し続けていただけますか?」
『え?ああ、やってみる…おお!紋章が光った!』
「それはエマージェンシーモードでございます。緊急時に備えた予備魔力が解放されます。ただし最大出力の30%程度となっており、約10回分の魔法しか使用できません」
『10回!?それじゃ全然足りないぞ!』
「恐れ入ります。フル充電には《神星杖》を6時間ほど月光に当てる必要がございます。現状では—」
『6時間も待てるか!魔王との決戦が明日に迫っているんだぞ!』
「大変申し訳ございません。その場合、代替手段としまして…」雄一はマニュアルを慌てて確認する。「近くに電気属性のモンスターはいらっしゃいませんか?」
『いるぞ!雷蜥蜴が何匹か…』
「それでしたら、モンスターの電撃を杖に直接当てることで急速充電が可能でございます。ただし、杖を損傷するリスクがございますので、自己責任でお願いいたします」
『よし、やってみる!おい、あの雷蜥蜴を捕まえろ!…あ、逃がすな!』
騒がしい物音の後、「バチバチ」という放電音と叫び声が聞こえた。
『す、すごい!杖が眩しいくらい光ってる!ありがとう、異世界の賢者!お前のおかげで明日の決戦に臨める!』
「ご満足いただけたようで何よりです。なお、急速充電後は2週間ほど杖の調子が不安定になる可能性がございますので、予備の武器もご用意することをお勧めいたします」
『わかった!じゃあな!』
通話が切れた後、雄一はため息をついた。
「マニュアルにない対応をしちゃったな…でも、まぁ勇者様だし…」
ヘッドセットから再び着信音が鳴り響く。休む間もなく、次の異世界からの問い合わせが入ってきた。