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第九節「奴隷王妃」

そのおぞましい白い赤子を産み落としたのは、

かつて第二王子を産んだランダ妃である。


ランダ妃は、他のほとんどの妃と同様、黒民(こくみん)貴族から嫁いできた。

だが、彼女自身の実の身分は、──奴隷(どれい)であった。

捨て子だった彼女を、貴族のシャタン家が育て、王に献上(けんじょう)したのが彼女だったのだ。


当時、先々代の黒民(こくみん)奴隷(どれい)虐殺令(ぎゃくさつれい)のため、黒民(こくみん)奴隷(どれい)は数を減らしていた。

それによってむしろ黒民(こくみん)奴隷(どれい)は価値を高めており、

黒民(こくみん)奴隷(どれい)の中には下手な貴族より生活の良い者もいた程であった。

それをランダを産んだ親は何を思ったか、産まれた我が子を貴族のバ(しゃ)に押し込めたのである。


そのバ(しゃ)の持ち主であった黒民(こくみん)貴族シャタン家は、由緒正しい一族であった。

しかしここ数代は満足な武勲(ぶくん)も研究成果もなく、

王家に出した子女のいずれも丈夫な子を産めず、力を失いつつあった。

シャタン家ほどの血筋で、捨て子ランダを受け入れたのは、そういった事情があったからである。


ランダは自身の出生について知っていた。

ランダを一族の命運を握る手駒(てごま)として心から囲い込むためには、

他の子と同じ待遇(たいぐう)を与え育てるべきだったのであろうが、

血に執着し誇り高いシャタン家の者は、奴隷(どれい)と同じ卓で食事をすることに耐えられなかった。

彼女は貴族教育を受けさせられる一方、

「お前のような混血の者は、我が一族の役に立つ他に生きる術も、意味もない」

と身内の中で(さげす)まれながら育ったのだった。


王のハーレムに取り込む頭数が増えれば良い、程度の心持(こころもち)だったからこそ、

シャタン家の者は彼女をこのような扱いもできたのだろう。

あるとき、シャタン家の者は流行り病に侵された。

シャタン家の二人の娘は、片方が死に、片方は髪がざんばらに抜け(みにく)くなり、

輿入(こしい)れが叶わなくなってしまった。

皮肉なことに、孤独に寝食(しんしょく)していたランダが流行り病にかかることはなかった。

シャタン家の運命は、奴隷(どれい)の彼女一人に託されることとなった。

彼らはランダが一族から逃れようと思わぬよう、いっそう厳しく(しつけ)を行い、

17の時、ランダは妃として輿入(こしい)れを果たした。


彼女はシャタン家を守ろうという健気な想いで王の子を生んだのではなかった。

シャタン家に対するランダの愛憎(あいぞう)は深く、

自分の子が王になった(あかつき)には、その権威をもってして、

育ての家を追い落としてやることが、彼女の生涯をかけての夢だった。


──白い赤子の誕生は()()()の夢を打ち砕いたのだ。


大臣たちは話し合った。

テンエ黒王が亡き今、第二王子の母である彼女を無下にすることはできない。

かといって()まわしい白い赤子を産み落としてしまったランダ妃を

王宮の中で過ごさせることも、彼らには恐ろしかった。

大臣らは妃に、自らの生家に戻り、余生を過ごすよう勧めることとした。

ランダ妃が、何が何でも抜け出したかった家へである。


大臣らはランダ妃の出生とシャタン家での彼女の暮らしようなど知る(よし)もない。

ランダ妃にとって、残りの一生をシャタン家で過ごすとなれば、

どんな(みじ)めな暮らしを強いられるかは想像に(かた)くなかった。


彼女は今後の人生に希望を失い、

()()()処分をされていなかった白い赤子を抱え出奔(しゅっぽん)してしまう。


バ車(スバという馬とロバと牛に近い生き物がおり、そのスバが引く車)

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