表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第六節「愚王コッパ―」

18代黒王(こくおう)コッパー・キュプレム…その彼の第一子は「色違い」であった。


コッパーは隠蔽(いんぺい)に走った者を手早く殺害すると、そのまま一晩寝ずに我が子を見張り続けた。

同時に彼は、国民に含まれる者は一切、城の前へ集まるよう伝令(でんれい)を出した。

翌日の正午、老いも若きも貴族も奴隷も、最も見晴らしのいい塔の前の広場に集まった。

固く緊張し何事かを待つ人々の視線を集めながら、コッパー王は現れた。

胸を張り、豊かな黒髪を風に振り乱し、もとより立派な体格はより大きく感じられる。

その懐でくすんだ布が震えて泣いている。

コッパー王は布を取り払い、赤子の姿を(さら)した。

そして赤子を国民の前へ高く高く掲げ、彼は宣言する。


「次の王の誕生だ!」


国民は騒然とした。

その赤子が「黒くない」ことは遠目からでも明白だったからだ。

混乱は瞬く間に広がり、黒髪と灰髪の頭頂が、塔の下でまだら模様を()した。

灰色の髪と青い目をした赤子の泣き声が場違いに、騒乱(そうらん)の上を滑っていった──。


────その日を境に、王宮内は、王を守る者と王を(たお)す者とに完全に分裂した。

元々緊張状態であった王宮内の権力闘争は、この件をきっかけにもはや隠されることもなくなり、

コッパー王を守るため、彼の支持者はそれ以外と場を共にすることを徹底的に避けさせた。

直接議論をする機会を極端(きょくたん)に減らすことをコッパー王は良しとしなかったが、

彼が波紋を叩き出した一滴であったとしても、動き出した川の流れを止める手段はない。

閉じこもったそれぞれの陣営は互いに、仲間意識を濃く、相手への怨嗟(えんさ)を燃え上げていく。


間もなく、その灰色の赤子…第一王女も、殺された。


灰民(はいみん)初の王となる可能性であった第一王女の死によって、国民の中でも派閥(はばつ)が生まれ始めた。

灰民(はいみん)の地位を向上させるとしてコッパー王を信奉(しんぽう)する者、

コッパー王の思想は優位にいる者の(おご)りでしかないと反発を強める者…。

最初は商売の妨害などの小規模な小競(こぜ)り合いだったものが、

やがて黒民(こくみん)貴族や異民の協力を得たものが現れ、(ふく)れていく。


分裂は内乱となった。

黒民(こくみん)灰民(はいみん)の対立のはずが、同じ色の民が、長い歴史の正誤を巡り殺し合った。

最も力のある勢力は、「階級制度のある”平穏”な生活の崩壊を恐れる者」達であった。

国の秩序(ちつじょ)安寧(あんねい)は確かに、黒民(こくみん)による支配の元にあったのだ。


──その内乱は彼らにとって意外な形で終焉(しゅうえん)を迎える。


中心であり絶対的な存在である、黒王(こくおう)コッパー。

その人が、死んだ。


彼は、髪に粉を叩き、灰民(はいみん)に変装をして夜な夜な人知れず城下に入り浸っていたのだという。

そしてある夜、単なる酔っ払いによる喧嘩に巻き込まれて頭を(したた)かに打った。

正体が黒王であることに、死体洗いが行われるまで誰も気付かなかった。

灰民(はいみん)に肩入れしすぎた剛健(ごうけん)な黒髪の王は、奇しくも灰髪の浮浪者(ふろうしゃ)としてあっけなく死んだのだ。


彼の死後、()()()()は一切、一族郎党…処分または没収された。

最終的に残されたのは、まだ父を覚えぬ幼い王子2人と王女3人、国の為になるとされた()()()()の資料のみ。


挙句(あげく)彼の名は、『歴史の過ち』『キュプレム王国最悪の愚王(ぐおう)』として、

気高き黒民(こくみん)の振る舞いを正す反面教師とするよう強く糾弾(きゅうだん)する筆致(ひっち)で歴史書に記録された。


愚王(ぐおう)がいなくなった王国は、徹底(てってい)された黒民(こくみん)至上思想による再制圧によって安定した。


しかし完全には火種は消すことができず、一部の灰民(はいみん)はひそかに階級制度撤廃(てっぱい)派の勢力を広げていった。

皮肉にもその仲間の合言葉は「コッパー」だったと言う。


ルビが多すぎて申し訳ない

頭をよさそうに見せたいわけではないんです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ