第六節「愚王コッパ―」
18代黒王コッパー・キュプレム…その彼の第一子は「色違い」であった。
コッパーは隠蔽に走った者を手早く殺害すると、そのまま一晩寝ずに我が子を見張り続けた。
同時に彼は、国民に含まれる者は一切、城の前へ集まるよう伝令を出した。
翌日の正午、老いも若きも貴族も奴隷も、最も見晴らしのいい塔の前の広場に集まった。
固く緊張し何事かを待つ人々の視線を集めながら、コッパー王は現れた。
胸を張り、豊かな黒髪を風に振り乱し、もとより立派な体格はより大きく感じられる。
その懐でくすんだ布が震えて泣いている。
コッパー王は布を取り払い、赤子の姿を晒した。
そして赤子を国民の前へ高く高く掲げ、彼は宣言する。
「次の王の誕生だ!」
国民は騒然とした。
その赤子が「黒くない」ことは遠目からでも明白だったからだ。
混乱は瞬く間に広がり、黒髪と灰髪の頭頂が、塔の下でまだら模様を成した。
灰色の髪と青い目をした赤子の泣き声が場違いに、騒乱の上を滑っていった──。
────その日を境に、王宮内は、王を守る者と王を斃す者とに完全に分裂した。
元々緊張状態であった王宮内の権力闘争は、この件をきっかけにもはや隠されることもなくなり、
コッパー王を守るため、彼の支持者はそれ以外と場を共にすることを徹底的に避けさせた。
直接議論をする機会を極端に減らすことをコッパー王は良しとしなかったが、
彼が波紋を叩き出した一滴であったとしても、動き出した川の流れを止める手段はない。
閉じこもったそれぞれの陣営は互いに、仲間意識を濃く、相手への怨嗟を燃え上げていく。
間もなく、その灰色の赤子…第一王女も、殺された。
灰民初の王となる可能性であった第一王女の死によって、国民の中でも派閥が生まれ始めた。
灰民の地位を向上させるとしてコッパー王を信奉する者、
コッパー王の思想は優位にいる者の傲りでしかないと反発を強める者…。
最初は商売の妨害などの小規模な小競り合いだったものが、
やがて黒民貴族や異民の協力を得たものが現れ、膨れていく。
分裂は内乱となった。
黒民と灰民の対立のはずが、同じ色の民が、長い歴史の正誤を巡り殺し合った。
最も力のある勢力は、「階級制度のある”平穏”な生活の崩壊を恐れる者」達であった。
国の秩序と安寧は確かに、黒民による支配の元にあったのだ。
──その内乱は彼らにとって意外な形で終焉を迎える。
中心であり絶対的な存在である、黒王コッパー。
その人が、死んだ。
彼は、髪に粉を叩き、灰民に変装をして夜な夜な人知れず城下に入り浸っていたのだという。
そしてある夜、単なる酔っ払いによる喧嘩に巻き込まれて頭を強かに打った。
正体が黒王であることに、死体洗いが行われるまで誰も気付かなかった。
灰民に肩入れしすぎた剛健な黒髪の王は、奇しくも灰髪の浮浪者としてあっけなく死んだのだ。
彼の死後、彼のものは一切、一族郎党…処分または没収された。
最終的に残されたのは、まだ父を覚えぬ幼い王子2人と王女3人、国の為になるとされたいくつかの資料のみ。
挙句彼の名は、『歴史の過ち』『キュプレム王国最悪の愚王』として、
気高き黒民の振る舞いを正す反面教師とするよう強く糾弾する筆致で歴史書に記録された。
愚王がいなくなった王国は、徹底された黒民至上思想による再制圧によって安定した。
しかし完全には火種は消すことができず、一部の灰民はひそかに階級制度撤廃派の勢力を広げていった。
皮肉にもその仲間の合言葉は「コッパー」だったと言う。
ルビが多すぎて申し訳ない
頭をよさそうに見せたいわけではないんです