第五節「異なる神話」
──キュプレムよりさらに北方、辺境の高地、切り立った鉱山の頂。
あらゆる貴重な鉱石が埋もれ、いくら掘っても果てることがない「奇跡の山」に、その国はある。枯れた土地とはいえ豊かな鉱脈を持つこの国は、兵器や十分に戦えるような軍も無いのにも関わらず、一切外敵の攻撃を受けることがないという。
神に守られているからだ。
その国の名はエラメンタ神国。信じ難いことに、真白の身体を持つ者を最も尊い存在…「神」と崇める国である。
ただ、彼らの神話は、キュプレムの黒民神話と地続きでもあった。
──真黒の神々は、黒民にその力を注いだ果てに、その身体の色が抜け落ちて真白になってしまった。しかし人類に力を与え果たした今なお、人類を率いるだけの力を有し、ささやかな国を興して土地を守って暮らしている。──というのが彼らの信じる神話の筋書きだった。
神々の子孫と信じられている煌々と輝く白髪白皮の一族が、神国エラメンタの支配者として君臨しているという。
黒民神話では神は黒を失わない。黒民の体色は、限りある黒の分け与えではなく、新しい黒の育成を指すものである。また、黒民神話では白い姿は、原初の分別のつかない愚劣なケダモノを意味する。
国力を有し育てるために黒民神話の威光を奮ってきたキュプレム王国にとって、黒民神話を歪め、ケダモノを崇拝するエラメンタ神国は、その存在そのものが許されるべきではない。
だが、キュプレム王国の黒民達は、何事かの大義のために、エラメンタ神国とひそかに国交を持ったのだという。
────というおとぎ話。
コッパ―・キュプレムの治世の最中、こんな与太話が広まったというだけである。
国の存在を確かめられた者などなく、人々もろくに信じもしなかったが、「奇跡の山にあるエラメンタ神国」の噂は、王国が滅びるその日まで語り継がれたという。
黒民の中でも選ばれた人間だけが
神国の本当の姿を知っていた
灰民の全ては当然のこと
神国の神でさえ知らない姿を