46/48
第五節「履歴」
この国で「コッパー」と名が付くようになるまでの間、彼は様々な名で呼ばれていた。
正しい名前があったはずだが、思い出せない。
記憶を失い意識を取り戻したときには(おそらく)十代半ばの少年だった彼も、少年に育つまでと同じだけの時を奴隷として生きてきた。
売られるまでの数日間は「貴重品」と呼ばれた。
最初の主人の元では「マグ」と呼ばれ2年を過ごした。
次の主人の元では「ニカ」で2年。
その次の主人の元では「キュプレム」で8年。
その次の奴隷商の元では「黒」で2ヶ月。
そして、「コッパー」で4日目の夜を迎えた。
黒さと貴重さを表す言葉で彼は呼ばれ続けた。
誰もが権威として、鑑賞物として、彼を欲しがった。
特に彼ほどの出来の黒民奴隷は、
かつてもこれからも決して出回ることはない。
黒民奴隷を手元に置きたがる者の信心はさほど深くはない。
しかし彼と目が合えば、隣で息遣いを聞けば、底に根差した黒民信仰が、不信心な心さえ畏れさせた。
歴代の主人やその周囲のほとんどは、幻の獣を飼うかのように慎重に彼を扱った。
だがいくらかの者は、彼を飾りで済ませはしなかった。
日本で言うと神主や高僧を自宅の使用人にする、というような感覚に近いかもしれませんね。




