第二節「解かれた帯」
扉が開かれ、イメナータは見慣れた無表情で現れた。
まずは安堵する。
「無事だったのだな」
「……お慈悲を頂き、ありがとうございました」
首にまだ赤い痕を残しているが、縄が外された直後に見た時に比べればすっかり薄くなっている。
それで気付いたが、イメナータがまとうのは神下の服ではない。
編み上げの帯だけでなく、上にかぶせる胴巻きなども省いた、簡易な襟合わせの日常着だった。
まるで就寝前に駆け出してきたかのようだ。
靴も紐が解けているように見える。
自分が部屋に戻る時間が遅くなってしまったせいだろうか?
様子が少し妙なのはそれだけではない。
彼女は、入室し扉を閉め数歩進んだ場所で、次の一歩を進めるのに躊躇うように動きを止めてしまった。
「……どうした?」
平時のイメナータであれば早々に、淡々と、盆を持ち去っていくはず。
過ごした時間は短いが、そのように違和感を感じられるほどの観察はしたつもりだ。
イメナータの目線は床を彷徨い、先のない右手首を腹に押し留め、左手で首元を撫でさすっている。
「いいえ。……お召替えを」
お召替え?
……いや、儀式前や朝の着替えの仰々しさを思えば、寝巻きだって同じように着せ替えられるのが道理かもしれない。
イメナータは確かに着替えを抱えているようだ。
「昨夜は大変失礼致しました」
そうだ。昨夜に関しては、置かれている着替えに自分で袖を通したのだった。
今思えば、高位な者の振る舞いとして不自然だ。
天使から忠告が入る前であったから仕方ない、などと通用するわけもない。
「……大変難儀した」
取り急ぎ、不満を表明するふりはしてみることにした。
「申し訳ございません」
イメナータは深く頭を下げる。
「恐れ入りますが、お立ち頂けますか」
コッパーはしぶしぶといった顔を作って立ち、両腕を少し広げた。
イメナータはそこでようやく歩み出す。
コッパーの顎下にイメナータの頭部が来て、甘いような、酸いようなにおいがした。
朝のグスタ神官付きの神下らも同じにおいがしていたと思い出す。
イメナータはコッパーの表帯を解き、肩から胸にかかる留め具を一つずつ外す。
前を開いて中の留紐も解いて、後ろに周り、肩からつまみ上げるように上着を剥がす。
イメナータが小さな声で問う。
「……ご体調はいかがですか」
「……問題ない」
イメナータは再び前に回りながら内帯を解いて、また後ろへ回りながら内着を脱がす。
手際が悪いわけではないが、動作が緩慢だ。
彼女の様子は、ずっとどこか不自然に思える。
「寒くはないか」
「……はい」
薄着である彼女への心配でもあるが、様子を伺うために声をかけてみる。
心なしか返答の声も小さいように思う。
残るは下着のみとなった。腰前の留紐を外せばすべて裸になるだろう。
朝の支度は下着までは手が入らなかった。
コッパーは奴隷の頃から、着替えさせられることにも、裸を晒すことにも慣れている。
しかし、イメナータはどうだろう。
一瞬、間が空き、布の落ちる音がした。
だがコッパーの下着には手をつけられていない。
「寒くはありませんか」
振り返ろうとした直前、声がかかった。
「……ああ、今夜は冷える」
「……そうでございましょうね」
左足の下に、くすんだ色の帯の先が転がったのを目の端で捉え、コッパーは目で追った。
……これは、
「……つくづく」
右から前に回ってきていたのであろうイメナータの声がして、目線を再び上げる。
「気の利かぬ女で失礼致しました」
彼女は、彼の前に、自身の白い裸体を晒していた。




