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第四節「ズタナン父子」

――プラムバム神官は、今の逆神に執心(しゅうしん)している。


ヂディスのその言葉をコッパーが飲み込み切る前に、外が急に明るくなった。

二人はばっと目を向ける。

窓の外に灯りを持った一団が現れたようだ。

壁の向こう、おそらく玄関にあたるだろう扉が叩かれた音が、

心なしか低い位置から聞こえた。


ヂディス神徒が駆け、壁の向こうへ。

急に止まったのだろうその(すそ)がぱさりと鳴った。

少年の迎えを待つことなく入室した何者かと鉢合ったらしい。


コッパーもつい気が焦り、寝台から片足を下ろしてしまう。


「ご苦労だった」


プラムバム神官の声だ。

コッパーからはヂディスの背面だけが壁の端から見える。


「……ヂディス!何をしている、退くんだ!」

 

そしてプラムバム神官の声の次に、渋みのある男の声がした。


「無礼者!」


軽くて硬いもので殴打する音が響き、弾かれてよろける少年の後ろ姿。

ついコッパーも両足を下ろすまで身を乗り出した。


「プラムバム様、愚息(ぐそく)が申し訳ございません」

 

何かに突かれて頭を下げたまま数歩後ろに下がったヂディスの前を抜け、

二人の人間が壁の向こうからコッパーの方へ歩み寄ってくる。

プラムバム神官と、杖をついた壮年の神徒。


扉を叩く低い位置の音の理由が、その神徒の引きずる足と動物の骨を継いだ杖を見てわかった。

二人は寝台に掛けるコッパーの側に寄って立つ。


「お待たせして申し訳ありませんコッパー様、お加減はいかがですか?」

「いや、……大事ない」

「良かった。それは本当に良かった」


プラムバム神官は心底安堵した息を吐き、

鳶色(とびいろ)の三白眼を潤ませて微笑んだ。

薄暗い部屋で灯りを背にして浮かび上がる白装束姿に、

改めてしなやかで身綺麗な男だと思う。


「お立ちになれますか」

「ああ……」


コッパーは足元に目をやる。裸足だ。

同じように目線を下げた壮年神徒がすかさず声を上げた。


「ヂディス!コッパー様の履き物を持ってきなさい」


先ほど下がった位置で固まっていたヂディスが動き出し、

屈むような姿勢でコッパーの寝台に寄ってきた。

コッパー達からは暗さもあり死角だったが、寝台の側に置いてあったらしい。

ヂディスがコッパーの前に(ひざま)いてそれを履かせるので、

神官と壮年神徒は少し下がった。


プラムバム神官が壮年神徒に何かを言うと、

その神徒はコッパーの視界の中央へ入るよう、

杖に寄りかかりながらも品よくそこへ立つ。


「大変申し遅れました。私はシャクカディ・ズタナン。

 この者の父にあたります」


シャクカディ神徒は杖の先をヂディスの足元へカツっとぶつけ、頭を下げさせた。

 

「このような形とはいえ、コッパー様に直接お目通りできたこと、

 大変光栄に思います。

 お待たせしてしまい誠に申し訳ありません。

 きっと、息子には至らぬ部分が多分にあったかと思います……」


苦々しい顔で笑むシャクカディに、コッパーは沈黙で答えた。

その態度に、ヂディスの口が緊張に引き結ばれる。

まだ靴は片方を残している。


「シャクカディ。お前ももう今日はこのまま休みなさい。

 その足では難儀(なんぎ)だろう」

「嗚呼……、お気遣い痛み入ります。

 コッパー様、礼を尽くせず申し訳ありません」 

「……その足はどうした」

「ああ、なんの。ただ、()ですよ。

 一度(くじ)いたらなかなか治りませんで」


気を失っていた分、確証こそないが、

倒れた位置から考えて、常人より重たいコッパーをそこまで高地まで運ぶまい。

おそらくまだまだ坂半ばであろうこの家から、

宮殿まであの坂を行き来するのはさぞかし難儀であろう。


その上、彼はおそらく息子ヂディスが倒れたコッパーに対応したことを知って、

足を引きずり引きずり、神官とともに急ぎ降りてきた……。


そう思えば、自然、言葉が出た。


「ご苦労だったな」


シャクカディ神徒は額に(しわ)が寄るほど目を開き、コッパーを振り仰いだ。

 

「い、いえそんな……」


……ときどきこの国の者から受ける感情に、

尊き者に対する畏怖(いふ)の念を超えた、黒銅の民に対する恐れを感じる。

そして、その恐れに起因するであろう驚き。


「そのようなお言葉を頂けるだなんて…」


シャクカディは涙ぐまんばかりだ。

黒銅の民という者は、もっとこの国の国民に対して、冷徹に振る舞っているべきなのかもしれない、と思う。

知らなければならないことを知らないまま、

こうして飛び出してきたのは、やはり悪手だったのかもしれない。

今更になってコッパーは不安になってきた。 


「こうして正面からお顔を向けていただければ、

 お恥ずかしながら今やっと思い出しました」


シャクカディ神徒は両方の目元の皺に滑り込んだ涙の粒を

指先で()き出すように(ぬぐ)うと、

コッパーの顔を眺めてこう言った。


「ご立派になられて…

 再びお目にかかることが叶い、幸甚(こうじん)の至りにございます」


今度はコッパーが目を開く番だった。

発音はシャッカディ、というイメージです。


年末年始に入りますので更新は年始まで二週間弱お休みします。ストックも溜めなくては。

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