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第一節「担架の上」

眠っていた時間はそう長くはなかったらしい。

コッパーは担架の上で目を覚ました。

彼の黒い瞳が開かれたのを見て、彼らはどよめいた。


妙な担架の運び方だ。

十人もの男たちが彼を囲み、担架の縁を持っている。

コッパーほどの体躯を運ぶことは想定されていなかったのだろう。

足の先が担架からはみ出していっそう心許ない。


外野から指示をする若い男の声がして、担架はそろそろと、ガタガタと、その場に降ろされた。

コッパーは視線を単色の空に貫きながら、吐いた胃液の苦さを思い出しつつあった。


「起きられますか」


何か返答をしなければ、とは思うのだが、

コッパーは顔を声のした方に傾けて緩慢(かんまん)に瞬きをすることしかできなかった。

もう一度眠ってしまいたいような気怠(けだる)さが体にかぶさっている。


何かを言わなければ。しかし、何を?


その迷い震えた口元の動きをどうとらえたのか、そばにしゃがみ込んだ男が話し始めた。


「わたくしはヂディス・ズタナン。

 あんなところで倒れられていたので、

 一先ずわたくしの家へお連れしようとしていたのです。

 こんな機会があるとは思わず

 …支度に不十分かとは思いますが、お許しください」

「神徒…」

「その通りでございます」


少しずつ意識がはっきりしてくると、倒れる直前の記憶が戻ってくる。

コッパーは神徒ヂディスの後ろで、

腕ごと胴を縛られ、首に繋がれた縄を引かれ連れられているイメナータを見た。

途端にぼんやりとした意識に血が昇って、喘ぐように声が出た。


「彼女を放せ」

「は?……ああ、この神下にございますか。しかしこれは……」

「聞けないのか?」


ヂディスの澄ました面にぴきりと緊張の色が走った。

それは周囲の神徒も同じだったらしく、

ヂディスが振り返って指示をするより先に、イメナータの縄は解かれていた。

そのまま神徒らに押されるようにしてイメナータはコッパーの前に進み出てくる。


質の悪い縄の棘の刺さる色の薄い衣や、

引かれ()れたであろう首が、その白さと細さに加え痛々しかった。


何かを言わねばこの場が収まらないことはわかっていた。

しかし自分のせいでこんな仕打ちに遭わせてしまった罪悪感の一方、

それでも主人なら謝りはしないだろうという思考が言葉の選択肢を無くした。


ただ見つめ、イメナータも彼を惑う目で見つめ返して黙るだけだ。


「この女だけ帰せ」


かろうじて出た言葉は命令だった。

とにかく解放してやるべきだと思ったのだ。

この場から、彼らから、自分から。


「は……」

「役目もなく帰れません、コッパー様」


それはどうか、と騒つく神徒の中、

意外にもはっきり意見したのはイメナータだった。


「では………神官に報告を」

「…わかりました」


イメナータは首の傷をさすりながら、

頭を低く保ち早足で神徒らの隙間を()って去っていった。

会話の聞こえなかった神徒に何度か止められていたが、

おそらく「コッパー様の命令で」などと言ったのだろう、すぐに姿が見えなくなった。


それを見送ると、ただでさえ(だる)い体がさらに重くなる。

コッパーは閉じようとする瞼をこらえながらヂディスの方へ顔を向け、一言だけ伝えた。


「寝させてくれ。静かなところへ」


ヂディスが返事をするかしないか聞き取る前に、コッパーの意識は閉じられた。

喉が焼けて不快だという感覚だけがかろうじて滑り込み、唾を飲んだ。

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