第三節「最初の揺らぎ」
キュプレム王国の起こりと滅びについて
キュプレム王国はその興りから長い間、勢いを落とすことなく繫栄し続けた。
それには戦争を仕掛けられても仕掛けても決して敗れることのない軍隊があったことが大きい。
黒民のために傷つき倒れることを誇りとする灰色の軍隊。
半身が飛んでも全身が焼けても進み続ける不倒の軍隊が、王国を広げ、守っていた。
そして、内政は国があれば必ず苛まれる問題、国民の反乱が起こることもなかった。
国民は皆、たとえどんな悪政でも黒民には何か意図があるはずだと信じ従い続けた。
国の栄華の全ては、国民が皆「黒民神話」を信じ、黒民を神のように崇めていたからこそ成し得たことだった。
──キュプレム成立から500年。
諸外国と交易し得た財で、王国の文明は急進した。
しかし富を得る事に心血を注ぎすぎたのであろうか。
あるいは、あまりに広く国交を持ちすぎたのかもしれない。
年月を経て、技術が進み、そして学問が進んだ。
広がり過ぎた国を黒民だけで維持するのは難しく、灰民にも裁量というものが与えられ始めた。
その間に異民と灰民が親密な関わりを持つことも不可避であり、異民の影響を受け、一部とはいえ灰民でさえ科学を、思想を、世界を知り始めた。
すると、灰民の中に、黒民神話を疑う者が現れ始める。
彼らはあろうことか「黒民と灰民は同じ人間であり、身分差など存在しない」と主張するようになったのだった。
…初めから灰民が言い出したのではない。
諸外国が異民を通じて、黒民神話によって不遇な目に遭ってきた灰民や奴隷を唆していたのだ。
諸外国は国土や経済力、何より強大な軍事力を有すキュプレム王国を恐れ、また欲しがった。
だが不倒の軍隊を持つキュプレム王国へまっとうに相手取るのは得策ではない。諸外国は秘密裏に同盟を組み、特殊な信仰へ付けこむことを画策した。
黒民への不信感を育て、国内の分裂を招き、王国の弱体化を狙おうとしていたのだ。
…その諸外国の中に、キュプレムへ奴隷制度をもたらした国も含まれているという。
異民達はある事を一つだけ懇々と、灰民達へ吹き込んだ。
「黒民はただの人である」と──。
固い言葉を使い過ぎててすみません。
フリガナ足りるか心配です