第五節「居室へ」
プラムバム神官は礼拝堂の退場後に天使に指示を受けていたようで、
会場まで来た経路とは別の路で階を登って行く。
彼が歩きながら頭巾と口布を外し小脇に抱えるのを見て、
コッパーもそれに倣った。
汗ばんだ肌はなかなか乾かず、
布地が口元に纏わりつき息を浅くさせていたのである。
路はプラムバム神官の居室よりも低い階の、
かつ奥まった場所まで至った。
途中に何度か曲がり、窓のない廊下や、壁の装飾の異なる経路を経たため、
神官の居室のある区画とは別館なのかもしれない。
その中でひときわ目立つ黒木の扉の前でプラムバム神官は止まった。
「こちらがコッパー様のご滞在頂く居室になります。
急ぎ整えさせましたのでお気に召して頂けますかどうか…」
神官は一歩下がりコッパーに扉を開けるよう促す。
コッパーは取手に手をかけ押し、中を見た。
内装は、キュプレム風とでも言えばいいのか、
黒地の布に赤や銀の柄や刺繍の施された寝具、椅子や棚は勿論、
梁や窓枠に至るまで色の濃い木や塗料の使われた部屋が現れた。
灰や茶や白に統一されたこの国で、見ることのないと思われた色合いだ。
この国に来るまではこのような調度にはよく親しんでいたため、
急に元の生活に戻ったような感覚になる。
コッパーの長く過ごしていた地域は、キュプレム王都から遠く離れて、
灰民・主人たちは、そこを
「黒民神話の支配から分断された新しき土地」と口では言ってはいたが、
服装や調度については黒や濃い色を好み、その影響からは逃れられていなかった。
「世話の者を付けますので、今しばしお待ちを」
コッパーはまた頷く。
まだこれ以上の意思の疎通の許可を持たない。
「また、後ほど天使様がこちらにいらっしゃいます。
それまではこの部屋でお好きにお過ごし頂きたいとのこと。
私は一度失礼致します」
ずっと恐縮したように頭を下げるプラムバム神官に、
言葉を交わせない中でなんとか警戒のない関係を得られないかと、
コッパーは彼とよく目を合わせてゆったりと頷いてみせる。
プラムバム神官はそれに気付いたかどうか。
目があった後すぐに顔を伏せ、後ずさるように部屋を去ってしまった。
コッパーはありがたく寝具に横たわってみた。
やはり長く使われていなかったのだろう。
若干埃の気配がしたが、さして気になることではない。
黒民奴隷は厚遇を受けやすいとはいえ、
横になれる柔らかい寝床はそれだけで上等である。
コッパー自身は、この国に至って以降何もしていないと考えていたが、
新しい土地、新しい人、見たことのない文化は、
彼に疲れをもたらすのに充分であった。
身体を横たえると、コッパーは自然と微睡みに落ちていった。




