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第二節「階級」

キュプレム王国の起こりと滅びについて

黒民(こくみん)の数は、キュプレム国の人口の2割に満たない。

しかし数がなんであろう。

神に選ばれた崇高(すうこう)な人種である黒民に、

その知の恩恵(おんけい)を受ける側である灰民(はいみん)が従うのは当然のことである。


黒民と灰民が争うことがあれば

当然、灰民が(ばっ)される。

神の慈悲(じひ)を持つ黒民が原因であるはずがない。

(いさか)いが起きた時点で灰民が間違っているのである。


一方、貿易で交流ができた他国から人々が入国してくることがあった。

大河や遠い山向こう、外国から来る者はみな「異民(いみん)」と呼ばれた。

彼らは、黒髪でもあり、金の髪でもあり、灰色の髪でもあった。

彼らに関しては言語や衣服や顔立ちの違い、通行証(つうこうしょう)の有無などで見分けられることとなった。


異民は商売に関われば灰民とも友のように話した。

だが、灰民と違い異民は黒民とも同等に話すことが許され、

灰民と異民が争えばおおむね異民が優遇された。

実情は、灰民はキュプレム国民でありながら、異民よりも下の立場だ。

愚かな灰民は立場を(わきま)えず、そんな境遇(きょうぐう)への不満を溜めていった。


転機(てんき)を起こしたのは異民であった。


異民はある日、国交の一環、黒民への贈り物として、

灰色の髪と青い瞳を持つ人間たちを船へ積んでやってきた。

後に彼らは連れてきた異民の紹介した言葉のまま、“奴隷(どれい)”という名で呼ばれることとなる。


黒民は、異国から来た奴隷に身の回りの世話をさせるのを良しとしなかったので、

奴隷は灰民より下の階級と定義づけられ、灰民の下で使用されることになった。


灰民は喜んだ。重労働の肩代わり。日々の()さ晴らし。

だが灰民は結局、人を有効に使役できる神の()には遠く及ばず、

(けだもの)の頃とさして変わりない、分別(ふんべつ)のつかない愚かな人類のままであった。


奴隷が住み着いて数十年の間に、灰民と奴隷の子供が、数多く生まれ落ちた。

灰民の家庭に奴隷の子が後継(あとつ)ぎとして育ち、灰民が灰民を使役して働かせているような状態になる。

黒民の知を与えたはずの灰民に奴隷が多く紛れ込むと、ひいては黒民の権威に傷がつき、

国に混乱が起きるとして、黒民及び支配者層(しはいしゃそう)はこれらを強く問題視した。

しかしその頃には奴隷の数も輸入と繁殖(はんしょく)によって人口の3割に達しており、

生活を支える重要な労働力となっていたため、奴隷を今更国から排斥するわけにはいかない。

対策として、急速に階級制度(かいきゅうせいど)の明言化が進められることとなった。

厳密に黒民・灰民・奴隷の定義が定められたのはこの頃だと言われている。

灰民・奴隷の交友は厳しく制限され、万が一その間に子が生まれた場合には、

灰民の特徴を多く持てば灰民として、奴隷の特徴を多く持てば奴隷として育てるよう定められた。

また、奴隷として一生を過ごすことが定められた者は、額に焼印(やきいん)(いん)し区別された。


その頃…黒い髪、黒い瞳、浅黒い肌を持った子供が奴隷から生まれ落ちた。

噂は瞬く間に千里を駆け、国は震撼(しんかん)した。


黒民と奴隷の間の子に対する法は、定められることはなかった。

黒民奴隷の存在は結局、支配者層に黙殺されたのだ。

黒民が間違いを侵す筈がない。

気高く知恵ある黒民が、汚らわしい奴隷と子を成すことなどあり得ない。

()()()()()()()()に法を定める必要はない。というのが黒民の言い分だった。


その後、黒民の特徴を持つ奴隷は、少数ではあるが生まれていた。

最上位にある黒民の容姿をしていながら、灰民の下に置き使役できる彼らの人気と価値は非常に高く、

灰民の中で地位の高い者などが、家の格式を高めるとして教育を(ほどこ)(そば)に置くなどしていた。

黒民奴隷(こくみんどれい)」の発生である。

この世界の歴史の教科書みたいなものですね。

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