第二節「身支度の前」
「お恥ずかしい話ですが、
私も礼拝の準備が万全ではないのです。
お時間はかけませんから、
自室へ寄ってもよろしいでしょうか?」
プラムバム神官は短い眉を下げながら伺いを立てる。
コッパーが頷いてみせると、
プラムバム神官は安堵の表情を浮かべた。
彼は自分の後へ着いてくるようコッパーに告げ、真っ直ぐな足取りで進み始める。
天使からまだ言葉を発する許可を得ていないコッパーは、無言で肯定と否定をするのみだ。
コッパーは着いて歩きながら宮の観察をする。
先程の広間と違い、廊下はあまり天井が高くは作られていないようで、
長身のコッパーは腕を上げれば天井を指先で撫でることができる。
壁面には漆喰が塗られ、
床面は石組みに見えるが躓くところがないよう丁寧に削られている。
ただ、老朽化が進んでいるのか、ヒビや歪みが散見された。
コッパーは外の景色、国の様子はどうなっているのかを見るため、並ぶ縦長の窓の外を伺った。
コッパーは介抱された小屋から国に入るまで目隠しをされ、
外された時にはこの宮の廊下にいたため、未だ宮の外観を知らない。
おそらく国の外から直接この宮の中へ入る仕組みになっているのだろう。
どうやら周辺の地形は傾斜になっており、
その中でも高台にこの宮は建っているようだった。
他の建物はおそらく傾斜に沿うように建ち並んでいるのだろう、
コッパーの目線では家々の屋根が手前から奥の下方へ流れる波のように見える。
「神官様!」
今来た廊下の方から声があり、振り向くと、
黒い荷物を胸に抱えた若い女性が駆けてきた。
先程の広間では見かけなかった装束だ。
「イメナータ。どうしましたか」
プラムバム神官にイメナータと呼ばれた女性は、
コッパーの前で軽い会釈をすると、
その横を硬い仕草ですり抜け、神官に近づいた。
「天使様よりお使いです。
こちらをコッパー様にと」
イメナータは胸に抱えていた黒い荷物を、プラムバム神官に向けて持ち上げた。
コッパーもそれを肩越しに見ると、その荷物は布の塊のようだ。
「成程。ありがとうイメナータ」
神官はすぐに得心したようで、そのままコッパーに向き直る。
「コッパー様、こちらは礼拝に必要な装束でございます。
あと数歩で私の居室なのですが、
幸いにも両脇が空いております故、お召替えを。
このイメナータをつけます」
その時イメナータははっと神官を見たあと、コッパーの顔を見上げた。
初めて彼女の青い瞳と目が合い、
そこでコッパーはようやく彼女の顔に警戒の色が浮かんでいることに気付いた。
プラムバム神官はイメナータの肩を抱くと、彼女ともども深く頭を下げた。
「…本来の身に合わぬ扱いをどうか、どうかお許しください。
全て、私の不徳の致すところでございます」
コッパーは彼が何に対して謝っているのかわからず、
否定も肯定も表すことができずに、
ただ彼の下げられた頭頂を見つめる他なかった。




