吹っ切れられない末路
基本的に酷い人はいないのでそこまで酷い話にはならない。
「うわぁぁぁん、絶対アヤは面倒な女なんだもんんんんんん~~~~」
ダァン、と音がしそうな勢いでテーブルの上にジョッキが置かれる。
泣き上戸というわけでもないが、精神的に色々あって今回はとっくのとうに限界が来たのだろう。
ビールを二杯程飲んだ時点でリリちゃんはテーブルの上に勢いよく突っ伏した。
ひっくひっくと酔っているのか泣いてるのか微妙に判断つかない音を出してはいるが、この場にいる誰も特に心配した様子がない。
なんというか、すっかりお馴染みなのだ。
リリちゃんがアヤをボロクソに言うのは。
リリちゃんには高校一年の頃からずっと好きな相手がいた。
その相手の彼女がアヤである。
リリちゃんは完全に横恋慕状態なのだが、それでも諦められなかった。
だって、初恋だったのだ。
両親は幼いリリちゃんにずっと勉強していい学校にいっていい会社に入れば幸せになれるの、なんて幻想だろうそんなものは、と言いたくなるような事をずっと繰り返し言っていて、リリちゃんにはお勉強ばかりを強いてきた。
学校が終わった後、お友達と遊ぶ余裕はほとんどなくて、家に帰れば次はすぐさま塾に行く。
そんな生活をずっと繰り返していた。
それでも中学生くらいまでは、両親も交代でリリちゃんが塾が終わって帰る時間に迎えにきてくれていた。
すっかり暗くなった夜道を中学生女子が一人で歩くのはとても心細かったのだけれど。
けれども高校に入った途端、もう一人で大丈夫だね、とばかりにリリちゃんは行きも帰りも塾は一人だった。
少し前に工事が入った結果、それなりに人が通っていて街灯があって明るい道になったけれど、だからって不安なのは以前と同じで。
それなのに、高校生になった途端大丈夫なんて一体どんな根拠があって言うのだろう。
この日のために護身術を習ってきて実力がついてきたから大丈夫、とかいうのならわかるけれど、リリちゃんはお勉強ばかり強いられていてそんな護身術なんて習う暇はなかった。
そうして案の定、塾の帰りに絡まれた。
相手はパパ活をしているJKだとリリちゃんの事を決めつけて、二万でどう? なんて言ってきた。
どうってなんだ。そんな事よりさっさと家に帰ってお風呂に入って寝たい。
こんなわけのわからない相手に時間を一秒だって使いたくない。
それなのに相手は勝手にどんどん話を進めようとしてくる。
違います。いいえ。お断りします。
結構です、という言葉はたまに勘違いさせる事もあるので、リリちゃんは誤解がないように断る言葉だけを使っていた。それでも相手は酔っぱらってるのか、何度も同じ話を繰り返す。
VRゲームの中でこいつがNPCなら適当な武器でぶん殴って逃げ出したかもしれないけれど、生憎とここは現実で。下手に実力行使されたらリリちゃんには抵抗のしようがなかったので、リリちゃんはほとほと困り果てていた。
誰かに助けを求めようにも、リリちゃんが視線を合わせようとすると周囲の人たちは巧妙に視線を避けるのだ。
大人なんて誰も頼りになりゃしない。
辞書がたっぷり入ったこの鞄でフルスイングしてやろうか。
そんな考えがよぎっていた。
そんな時だ。
そんなリリちゃんを助けてくれた人がいた。
それが、カズくんだった。
カズくんは他のバイト仲間と仕事終わりにカラオケに行く途中だったらしく、近くにはその仲間もいた。
けれどもリリちゃんの視界にはカズくんしか入っていなかった。だってとてもカッコ良かったから。
リリちゃんに絡んでいた男はカズくんだけではなくその後ろにいたいかにもヤンキーですみたいな風貌の連中に恐れをなしたのかさっさと逃げていった。警察沙汰にならないとても平和的な解決だった。
カズくんはリリちゃんを危ないからと駅まで送ってくれて、そこで別れた。
一目惚れだった。
名前はわかったけれど、それ以上詳しい事はわからなくて。
でも、それでも自分を助けてくれたカズくんはこの瞬間からリリちゃんにとっての王子様みたいな相手だったのである。
そして、困ったことに初恋でもあった。
小さなころからずっと勉強ばかり強いられてきたリリちゃんは、本来ならば早熟な女子にはあり得ない勢いで恋とかそういったものとは無縁だった。
小学生くらいの頃に足が速くてかけっこなら負けないぜ、みたいな男子にきゃあきゃあ言う事もなければ、中学の時に勉強やスポーツに秀でた見た目もイケてる相手にもときめかなかった。
周囲の女の子たちがコイバナに花を咲かせていても、リリちゃんはそれを楽しく聞いてはいたけれど、自分が話題を提供する側にはなれなかったのである。
また、会えるかな。
連絡先聞いとけばよかった。
初恋で、人様のコイバナを聞く程度だったので恋愛レベルはからきしである。
なので家に帰ってから相手の名前は知っても連絡先も何も知らない事に気が付いたのだ。
となれば、塾帰りにまたあの場所でカズくんと運よく会えるのを祈るしかない。
助けてもらって、そこから駅までの距離はちょっとだけだったけれど。
それでもその短い距離で少しはお話できたのだ。
といってもそれはカズくんとしては、不安だろうから気を紛らわせるために、といった感じだった。
けれどもそこで初恋を自覚したリリちゃんは、自宅に帰りお風呂に入っている時に、あの時はもっとああいえばよかった、だとか、あんな言い方はまずかったんじゃないか、だとか。
湯船に浸かりながらあれこれ悩んだのである。
次に会えたら弁明できる部分はしておこう、とか恐らく相手は全く気にしていない部分まで気にし始める始末。
とはいえ、塾終わりにそう簡単に再会する事はなかった。
思えば今まで塾の帰りにカズくんらしき人を見かけた事はとんと記憶にない。
あの時は駅前のカラオケに皆でいくつもりだった、みたいに言ってたから普段は通らないのかもしれない。
となると、次にカズくんが駅に用事があって、とかでもない限りまた会うのは難しいのかもしれない。
このまま二度と会えなかったらどうしよう。
そんな風にどんどん悪い方へ物事を考えていたリリちゃんだったけれど。
運命は、リリちゃんに微笑んだのだ。
なんとカズくん、リリちゃんと同じ高校に通っていた。
とはいえ、クラスははじっことはじっこで、とっても離れている。
隣のクラスなら合同授業で一緒になる事もあるけれど、はじっことはじっこならそんな事もない。
全校集会で生徒全員が集まったところで、その中の一人を偶然であろうと見つけられるか、となると可能性は低い。
だから、学校でカズくんと再会したのは本当に偶然だった。
それでもリリちゃんはそんな些細な事を運命だと思ったのだ。
もう会えないと思っていたから余計に。
あの時のお礼を改めて言って、そうして連絡先を聞いてお友達から始められたら。
そう思っていたのだけれど。
運命は、そこまではリリちゃんに微笑んでくれなかった。
カズくんはちょっと困った顔をして、彼女がいるからと言った。
彼女。
付き合ってる恋人。
それを聞いてリリちゃんは頭をガツンと殴られたような衝撃を確かに受けたのだ。
だって、確かに運命だと思ったのに。
でもリリちゃんから見てとても素敵なカズくんだ。とっくに付き合ってる人がいたって何もおかしくはない。
素敵な人は、大抵既に誰かしら目をつけているし、なんだったら行動に出ている。
黙っていても素敵な人は自分を選んではくれないのだ。
自ら行動して素敵な人の視界に映らなければ、恋が実るチャンスなんてやってくるはずがない。
とはいえ、そのチャンスが最初からない。
何故って既に彼女がいるのだから。
ここで、リリちゃんは素直に失恋したのだと諦めればよかった。
けれどもどうしたって諦められなかった。
初めての恋。
カズくんの事を想像しただけで浮き立つような心は、しかし今はカズくんに彼女がいると知ってとても痛かったけれど、それでもどうしても諦められなかった。
リリちゃんの恋愛観は、基本的に中学時代のお友達の話だとか、同じクラスで自分を可愛がってくれているギャル集団の話。あとは、勉強の合間に気分転換と称して読んでいる少女漫画くらいだった。
お友達の恋愛話はそれなりに彼氏の愚痴もあったけれど、それでもお互いにラブラブであるというのが伝わってきた。
少女漫画だって、主人公はどこにでもいる平凡な子なのにそれでも学校一番のイケメンが見初めてくれた。
そういった、ある意味王道な話しか知らないリリちゃんは、どうしたって自分の恋が破れた事を認められなかったのだ。
お友達のお話の中には別れ話になったのもあったけれど、別れた時はお互い円満だったらしい。
けれどもリリちゃんは前提を少しばかり間違えていた。
お友達のお話はあくまでもリリちゃんがいるから多少内容をぼかされていたし、少女漫画の主人公は平凡とは言うが所詮自称だ。自称モブのくせに、実際のモブとは明らかに作画コストが違い過ぎる。
まぁ実際明らかにモブな見た目の少女漫画の主人公とか恋愛漫画なら盛り上がりに欠けるだろうからあくまでも自称平凡なのだ。要するにお前のような平凡がいてたまるか、というやつである。
そして少女漫画の主人公なら大抵最後はきちんとハッピーエンドだ。
お友達のそこそこ上手くいってる話と、少女漫画と。
ほとんどが成功例ばかりなので、リリちゃんもすっかり自分の恋はうまくいくと思っていた。
だがしかし現実は非情なので。
リリちゃんの初恋は実らなかった。
ただそれだけの話のはずなのに、リリちゃんは諦められずにどうにかしてカズくんを振り向かせようと思い立ったのである。
だがしかし、それらの手段はことごとく空ぶった。
というか少女漫画を参考にして当て馬みたいな事になってしまった。
お友達はギャルっぽい子が多くて、なんだったら身体使って落とすのもアリだよ、とはある程度分かってる相手なら言えたかもしれないけれど、しかしリリちゃんはどちらかといえばそのグループの中では妹みたいなポジションだったので。
流石にお友達も空気を読んだ。
普段は空気~? そんなん吸うものであって読むもんじゃないっしょ、とか言ってるくせに。
同い年なのにそれでも妹みたいなリリちゃん相手に流石に身体使って落とせは言えなかった。
というか処女相手に言っていい言葉ではない。
流石のギャルたちもそれはちょっとと思えるだけの心はあったので。
身の程を弁えない勘違いブス相手だったら容赦なくズバズバ言えた事でも、リリちゃん相手だと流石に慎む。
というか、恋愛初心者で疎いなんてもんじゃない相手に下手なことを言ったら大変な事になる、とギャルたちの勘は全力で訴えていたので。
といっても、だからといって協力してあげよう、ともギャルたちは思えなかった。
カズくんとアヤについて知ってるギャルはこの中に数名いた。
どう考えてもあの二人別れないっしょ、と悟っていたのである。
あと、ギャルグループとは違うけれどアヤはそれなりに幅広い友人関係を築いていたので、下手に敵に回すような事をするとなんというか面倒な事になるともわかっていたのだ。
アヤはリリちゃんとは違う方向性で先輩方に可愛がられるタイプの女性だった。
リリちゃんが周囲から妹みたいに可愛がられるタイプなら、アヤは頼りにしてます姐さん! とか言われそうなタイプだった。一見すると清楚系お淑やかな見た目なのに。
そしてカズくんはそんなアヤにベタ惚れなのである。
アヤもカズくんの事を好きと公言していた。流石に人前でイチャイチャしたりはしなかったけれど、あの二人が相思相愛でちょっとやそっとの事じゃ別れないだろうなぁ、というのは明白だったのだ。
というか、リリちゃんがアヤとカズくんを別れさせて自分と付き合うようにしようと仕向けたあれこれが、どれもこれも見事な当て馬っぷりだったのでより一層がっちりとくっついてしまったと言っても過言ではない。
いやあれはもう別れさせるの難しいんじゃない……? というくらい絆が深まっている。
どれくらい深まったかって、少年漫画の主人公と相棒キャラくらいにガッチリ結びついてるレベル。片方が死んだりしようものならもう片方が復讐のために世界を滅ぼしかねない勢いとでも言おうか。
そこまでがっちりくっついちゃったら今更下手に手を出したところで馬に蹴られるだけだ。
リリちゃんがやらかす前に相談してくれれば、もしかしたらワンチャンあったかもしれないがもう色んな意味で手遅れだったのである。
リリちゃんの高校三年間は、当て馬やって終わった。
せめてここで他の新しい恋に目を向けていれば違ったかもしれないのに。
高校の後の進路はとなれば、人によりけりだ。
大学に進学を決める者、就職を選ぶ者。
大まかに分ければこの二つだ。
中には家を継ぐから、という特殊な例もあるけれど。
元々リリちゃんは大学に行く事を幼い頃から強いられていたのだけれど、どうしてもカズくんを諦められなかったリリちゃんはカズくんと同じ進学先を選んだ。
カズくんが就職組ではなく進学組であったのは、良かったのか悪かったのか……
カズくんが行く事にした大学が、リリちゃんの親から見ても悪くないと思えるところだったのも、もしかしたら悪かったのかもしれない。
大学が一緒だからとて、必ずしも接する時間が増えるとは限らないのだが、リリちゃんは晴れてカズくんと大学も一緒になる事が決まったのだ。
ちなみにアヤもいた。
アヤとカズくんはお互い早々に将来の事を色々と話し合った結果、自分たちの学力とその他諸々を考慮した上で選んだ進路なので何も問題はない。
なんかそこに高校三年間余計なちょっかいかけてきた女も入学するという噂は小耳にはさんだけれど、別に何かを危惧するようなものでもなく。
カズくんとアヤのキャンパスライフは大層充実したものであった。
つまりそれは、リリちゃんにとっては残念なキャンパスライフであるとも言える。
というか、大学は皆が同じ授業を受けるわけではない。選んだ内容次第では、同じ大学にいる事は知ってても一切顔を見ないまま大学生活が終わった、なんていう事だってある。
そしてリリちゃんは最初、同じ大学にいるはずなのにカズくんに一切会う事ができなかったのである。
春に入学して、カズくんをようやく見かける事ができたのは初夏に入ってからだった。
ちなみにこの時点でリリちゃんは、同じギャルグループだった一人がこの大学に通うお友達に根回ししてくれたおかげで入学早々ぼっちは回避できていた。
大学に入ってもリリちゃんの立ち位置は皆の妹ポジションのままだ。
下手をすれば愛玩動物ポジションかもしれない。
ともあれ、リリちゃんは未だ初恋を引きずって諦める事もできず、どうにかしてカズくんと結ばれたいという思いがあったのだ。
といっても、高校三年間を当て馬で終わった女である。
高校時代にアヤの評判を落として自分がそこに立とうとした事もあったけれど、玉砕した女、それがリリちゃんである。
正直カズくんの中のリリちゃんの評判が地の底に落ちてるんじゃないかと思うのだが、リリちゃんはそれでもめげなかった。
いかんせん心のバイブルが少女漫画なせいで、恋する乙女は最終的にどうにかなるという思いが残っていたのである。三年間を当て馬で終わったくせに。
大体少女漫画だって当て馬キャラは最後にヒーローを諦めて一人でそのまま人生を進むか、どっかで適当なキャラとくっつくか、下手すると不幸な事故で亡くなるとかいう退場をきめたりするのだが、三年間当て馬をやっていたリリちゃんはしかしそっち方面の行く末は自分に当てはまるはずがないと思い込んでいた。
漫画あたりだと適当なモブか、はたまたヒロインに恋をしていたけれどその恋が破れた相手と傷の舐めあいか? と言われそうだがそっちとくっついたりする事もある当て馬キャラに自ら成り下がったくせにである。
むしろ現実は漫画と違うのだから、いっそ素直に失恋した事を受け入れて新しい恋に目を向けた方が余程建設的ですらあるのだが、リリちゃんはどうしたって諦めきれなかったのである。
他の人に目を向けようにもカズくんの事が諦められないうちは誰を見たってどうしたってカズくんと比べてしまうから。
そうして次にリリちゃんがとった手段は、これまたどうにもならない感じの事だった。
カズくんに直接直談判である。
今までのリリちゃんは周囲にアヤの悪い評判をそれとな~く流そうとしてアヤの周囲から彼女が嫌われるように仕向けようと試みたりもしたのだ。
そんな相手カズくんに相応しくないよぅ! とかそういう方向で。
だがしかし、リリちゃんが流した噂程度でアヤの評判は揺らぎもしなかった。
結果として、何か悪口吹き込もうとしてる子がいるみたい、とむしろやんわりとであったけれどリリちゃんの方が周囲からあの子はちょっと……と思われる始末。
他にも大抵の事はほとんど全部が裏目に出て、リリちゃんの評価だけが下がり続けていったのであった。
お友達のギャルもあまりにも不憫に思い始めてどうにか別の恋に目を向けさせようと試みたけど無理だった。
ギャルが紹介できそうなその時点で彼女がいない相手は、リリちゃんの好みのタイプではなかったようなので。
一応軽く紹介してまずはお友達からでも、とか思っていたけどお友達になる以前の話であった。
なのでとりあえず周囲から下がり続けてる評判を、どうにかやんわり修正しようとしたくらいしかできなかった。
本当にどうしようもない人間性の子なら見捨てる事も考えたけれど、根は悪い子ではないのだ。なのでみんなの妹みたいな扱いをされているわけで。
ただ、周囲と比べるとあまりにも遅い初恋のせいで思いっきり空回っているだけなのだ。
なので、リリちゃんに対する周囲の評判はアヤに対して執拗に悪口を言う嫌な性格の子、というものから初めての恋のせいで情緒狂いまくって振り回されてる不憫な子、まで変化した。周囲の目は好意的ではないけれど嫌悪感マックスというほどでもなく、どちらかというとどうしようもない生き物を見る目であった。
まぁ、人間の屑レベルまで下がってないだけマシだと思って欲しい。
ともあれ、カズくんに直接リリちゃんは事もあろうにアヤは貴方にとって相応しくないの! とやらかそうとしたのである。
といっても。
そもそも、割と長い事付き合ってる相手の悪口を吹き込むのであればちょっとやそっとのものではカズくんとて動じないだろう。
実際カズくんにとってリリちゃんのそれは悪口にもならなかった。しいて言うなら独断と偏見強めの発言だなぁ、と思う程度で。
大体リリちゃんはアヤの周囲を嗅ぎまわってそこそこ彼女の評判を落とそうとしていた事はあるけれど、それで知った事なんて本当に一部。氷山の一角というよりも周囲から見てそうだね、それで? というようなもの程度。
なんというか、とにかく貶めようという気持ちはあってもそれだけなのだ。
今の今まで勉強ばかりに傾いていたリリちゃんにとって、人を貶めるにしても何をどうすれば効果的であるだとか、そういった悪意で固まった知識までは学ぶ事がなかった。ある意味で純粋ではあるのだ。まぁちょっと周囲から見るとどうしたって子供じみたものではあるのだけれど。
悪意に塗れた嘘八百の事実無根な捏造した悪口をまき散らす、とまではいかなかったから周囲の目もまだ生温いもので済んでいる。
何せ悪口の内容なんて悪口か? それは。となるようなものが多いので。
曰く、アヤの着てる服とかすごく気取ってる感じだし、ブランドものばっかなんでしょ、ああいうの若いうちに金銭感覚狂う事になるんだから、もしアヤと結婚したりしたら将来カズくんがすっごく困る事になるかもしれない、だとか。
高校時代は基本制服姿のアヤしか見る事のなかったリリちゃんは、大学で私服のアヤを見てすごくお金がかかってそうな見た目だなと思ったからそう言ったに過ぎない。
オシャレな服はお値段もそこそこするというのを、リリちゃんは高校時代にギャルのお友達とお買い物に行った時に知った。
何せ今までは親が買ってきた服を着ていたので。服の値段とかそこまで気にしてすらいなかったのだ。
けれども、その発言にカズくんは秒でカウンターを発動した。
「え? あれし〇むらで買ったやつだけど。あいつ服にそんな頓着してないし。着て楽なやつなら別になんでもいいって言ってるしそれは昔からそうだぞ。
てか、金かかってる服っていうなら、お前が着てるやつがそうだろ」
事実だった。
アヤは適当にお安い服のお店でそれなりに周囲から見てみすぼらしく見えない程度のやつを選んで着ている。
実際にアヤと同じ服を着ている学生は他にもいるが、立ち居振る舞いの差とでも言おうか。同じ服を着ていても何となく少し違うな? と思わされるのである。
立ち居振る舞いやその時々の所作の綺麗さでお上品な服装に見えているのである。
同じ服を着ていた他の子は「これが内側からにじみ出る美か……」とほへぇと口を開けて感心していた。
そんでもって親が買ってきた服を特に何も気にせず着ていたリリちゃんの服の方がブランドもので、金がかかっているという事をその時のカズくんの言葉で知ったのである。衝撃だった。
「金のかかる女っていうならお前の方がそうだろ。しかも物の価値を理解してないから軽率に散財されそうだし」
言い返せなかった。ぐぅの音も出せなかった。
ギャルのお友達と一緒に買い物に行った時に見た服とリリちゃんが着ている服の系統はガラリと異なるので、オシャレな服はお金がかかるという認識はあっても親が買ってきてくれた服がそこまで良い物であるとは知らなかったのだ。お友達のギャルたちは基本学校帰りに寄り道でショップに行く感じだったし、塾がないたまの日にリリちゃんはそれに連れて行ってもらっていたので、ギャルの普段着がどういうものかを知れてもギャルからはリリちゃんの休日の服装とか知る機会がなかったのでそこら辺教わる事もなかったのである。
もっとも、知っていたとしても、では服にかけるお金関係でアヤを扱き下ろす内容が貧乏くさくて~とかになるだろうし、その場合は間違いなくリリちゃんが成金思考だとかなんだとか言われて終了しそうなのでそちらに方向性を変えずに正解だったのかもしれない。
この時点でリリちゃんは物の価値を知らない子扱いであった。
「じ、じゃあ、ネイルとか、メイクとかそっちにお金かけてるんでしょ。どっちにしてもお金かかる子だと思う」
苦し紛れに言い放った言葉も、カズくんは秒でカウンターを返してきた。
「ネイルに関しては自分でやってるぞ。あとメイクはプチプラだからそっちも金はほとんどかかってない。一緒に買いに行ったから知ってる」
カズくんも何気に化粧品はお金がとてもかかるもの、という認識だったけれどアヤが買う化粧品はそのほとんどがプチプラだ。高校時代からアヤは化粧をし始めたけど、親が使っているようなセットで買ったら何万もするようなものではなく、高校生のお小遣いでどうにかなる範囲での物だ。
アヤ本人は肌が頑丈だから安いのでも肌荒れしなくて助かってる~と笑っていた。
敏感肌だと肌に合う化粧品が限られまくっていてどうしても出費がかさんだり、はたまた愛用していた商品がある日突然廃盤になって次の自分に合う商品を探すのに大変苦労したりする事もあると聞いて、大変なんだな……と思った程だ。
そしてリリちゃんはなんとプチプラをあまり理解していなかった。
何せ今まで勉強勉強また勉強、とそればかりを強いられてきた人生である。
親の言いなりになっていた、と言ってしまえばそれまでだが、お友達のギャルによってそこそこ外界の知識も少しずつではあるが得ていたものの、そこら辺はあまり理解していなかった。
お友達と一緒に学校帰りにドラッグストアに立ち寄って化粧品コーナーを見ていた時も、何か売り場がキラキラしていて色んな種類があるんだなぁ、とぽかんと口を開けてみていたくらいだ。
自分で買うのなんて精々リップクリームくらいだったリリちゃんには、それ以外のお化粧品は馴染みがなかったのである。
とはいえ、カズくんに恋をしてからリリちゃんだって一応見た目に気を使うようになっていた。
元々、顔立ちは良いほうだったから今までノーメイクでも可愛い可愛いと言われていたけれど、多少気を使うようになってお化粧に興味を持ち始めても、しっかりがっつり顔面を盛る、という程の時間的余裕はなかったので。
これまた母の使っていた化粧品から、スキンケア関係のものをちょっとだけくすねて使っていただけだった。
既に家にある物を使っていたので、これまた化粧品に関してもどれくらいお金がかかるのか、だとかどういったものがあるのか、なんてそこまで詳しくなかったのである。
もう知らないならその分野で言いがかりをつけなければいいものを、リリちゃんはともかくなんであれ、アヤの粗を見つけたくて仕方がなかったのだ。
とはいえ、離れたところからアヤを恋敵として見ていただけのリリちゃんと、そこそこ長い付き合いのカズくんとでは、アヤに関して知ってる事なんて当然カズくんに軍配が上がる。
けれどもリリちゃんはそんな簡単な事にさえ気付けなかった。
いや、気付いていたけれど、内側に入り込んだカズくんからは気付けないような第三者目線で何かないかと奇跡を願うように縋っていたのかもしれない。
それなりに長い事付き合っていれば、相手の良い面だけではなく悪い面だって当然見る事になっているのに。
「えーっと、えーっと、たまにお弁当とか作って持ってきて料理できるアピールしてるけど、あれだってなんか半分くらい野菜と果物切っただけじゃん! 何か無農薬とかオーガニックとかこだわってそうだし」
「まるごと野菜や果物入れてこられたらそっちのが困るだろ。てか、サラダはコールスローとかドレッシングとか結構種類豊富に変えてるから同じような見た目でも毎回味違うし。
食べたもので身体が作られてるんだから、こだわって何が悪いの?」
そりゃあ、今はまだ若いからそこら辺気にしたところで大した差は出てこないのかもしれない。
けれどもカズくんは自分の両親がボチボチいい年になってきて、やれ健康診断でどこそこの数値が~だとかの話をしているのを聞くたびに思っていたのだ。
若いうちから気を使えるなら使っておいて損はないだろうな、と。
勿論、無農薬にこだわり続けたり、オーガニック野菜しか食べない、とかこだわり過ぎれば食費がかさむし裕福な暮らしができないのであればそこら辺妥協も必要になってくるとは思っているけれど。
けれど、無理や無茶をしない範囲で健康に気遣う事はむしろいい事ではないだろうか。
親の言葉を聞く限り、年を取ってからいざ健康が欲しいと思ったところで簡単に手に入るものでもないわけだし。そこは若いうちの積み重ねだわ、と母がしみじみした様子で言うので、そうなんだろうとカズくんは納得している。
確かにお肉は美味しいし、野菜はそれと比べるとそこまで……となるのだけれど。
でも、少し先の事を考えたら身体には必要なので。
アヤが作ってくれるお弁当に入ってる野菜や果物はカズくんにとっては欠かせないものだったのだ。
あと、冬に風邪を引く回数が減った気もする。
それもあってアヤの作ってくれる料理に関してカズくんは文句などつけるはずがないのだ。
お弁当がたまに、であるのは経済事情や食材の残り具合、あとは時間的余裕の有無によるものだ。
毎日余裕があるならアヤは間違いなく毎日作っている。
一見するとシンプルに見える料理が多いが、しかし作り方を聞けば意外と手が込んでいるな、とカズくんが思うものが多いので、リリちゃんがアヤの料理に文句をつけるのを聞いて思わずカズくんはむっとなったのである。
だから逆に聞いたのだ。
リリちゃんはどうなの? と。
そこまで言うならリリちゃんはもっとすごいお弁当とか作ってるんだよね? と。
要約するなら人の事あれこれ文句つけるなら、自分はさぞきちんとしてるんだよね? というやつだ。
売り言葉に買い言葉なのかリリちゃんはそこで勿論! となったのだけれど。
それじゃ、普段どういう料理作ってるの? と聞かれて。
そこで、リリちゃんは自分の家事能力の低さを自覚したのだ。
塾に通っていて勉強ばかりしていたリリちゃんは、家に帰ってきてから自炊など勿論するはずもなかった。家に帰ってきて、お母さんが作ってくれていた料理をレンジて温めて食べたり、事前にお金だけもらって帰りにコンビニでお弁当を買って食べたり。
学校に来る時だって、お弁当の中身は卵焼きとウインナーくらいは焼いてあったけれど、その他は冷凍食品だ。
コンビニで売られている食べ物も、冷凍食品も、リリちゃんのお母さんやお父さんの話を聞く限り昔に比べたら味も栄養も随分マシになっているらしいけれど。
しかしカズくんは聞けば聞くほど、え、それでアヤの料理に文句を……となるのだ。
中学時代の調理実習で親子丼とかは作ったことがある、というリリちゃんに。
いや親子丼はお弁当に作って持ってこないだろ、とも思ったのだ。
なんというか、どこかズレている。しかしリリちゃんはそのズレているという部分に気付いていないようだ。
大学に通うようになってからは、お弁当と学食を使いこなしていたアヤとカズくんではあるけれど、リリちゃんはいつも学食だった。
そしてカズくんが見かけた時、リリちゃんは自分の好きな物だけ食べてるんだろうな、という風に見えていた。実際その通りだ。
いつ見ても大体同じメニュー。
足りない栄養とかはサプリでいいよ手軽だし、とリリちゃんが言っていたのも聞いた覚えがある。
確かにサプリなら手軽に足りていない栄養を補えるかもしれないけれど、あれはあくまでも補助的な物だ。
サプリがあるから万事解決、とはならない。
大体サプリのパッケージにも食生活は主食主菜副菜を基本にバランスよくとろうね、的な事が書いてあるくらいだ。バランスよく食事をとって、その上で不足してるならサプリで補ってね、が恐らくメーカー側としても理想の使い方のはずだ。
けれどもリリちゃんが摂取しているサプリを見ると、一つ二つではなかった気がする。
一体どれだけをサプリで補うつもりなのか、というくらい。下手をすればそれ何かの薬? とか聞きたくなる量を摂取している。
まぁ毎回同じような食事をしてたらそりゃ栄養も偏るよな、とはわかるのだけれども。
アヤに対して意識高い系だよ! 面倒だよそんなの絶対! と訴えているリリちゃんではあるのだが。
カズくんからすればそのどれもがほぼ言いがかりである。
確かにアヤは時々おもむろに今これが食べたい、とか言い出す事もあるけれど。
けれどアヤの言い分としては、最近肌が荒れてきたからビタミンを欲してる気がするの、という事で果物を多めに買ってきたりだとか。
別に好きでもないけどやたらとかき氷食べたくなった、とかでもしかしたら鉄分足りてないかも、でレバー買ってきたりだとか。
普段は鮭とかまぐろとかの魚を好んでいるけど今回は何故だかサバとか食べたい、で青魚系に手を出したり。
今無性にこれが食べたいの、と言い出しても大体は恐らく不足してる栄養素をとろうとしているんだろうなとわかる感じなのだ。
確かに最近食べてないから不足してるのかもね、とカズくんだって相槌を打てる感じであぁわかるわかる、みたいな事が多いので。
カズくんにしてみればそれを毎回気にするようなものではなかったのだ。
けれどもリリちゃんの言い分を聞くと、それは単なる我儘に聞こえるらしいと知る。
考え方の違いなんだろうなー、とカズくんは適当に聞き流していたが。
だってカズくんからすればリリちゃんのアヤへの悪口らしきそれは、どう聞いても自己紹介にしか思えなかったのだ。
女性は見た目を整えるのにそれなりに金がかかるのはカズくんとて理解している。男と違って気を使っても使いすぎる事はない、というくらいあれこれあるのだ、とはアヤと付き合うようになってから学んだ事だ。
何もしなくても綺麗なままでいられるのは、精々本当に若い頃の一瞬程度だ。長い人生と考えるならそれは本当に短い期間だけのもので。
それもあるから、自分の財布の中身と相談して無理のない範囲でやってる分には何を言うでもないのだ。
けれどリリちゃんはと言えば。
高校時代に何やらリリちゃんが困っていた所を助けた、というのはカズくんとて覚えている。あぁあの時の、って感じで再会した時は思った程度だ。
それが、まさかこうも懐かれるとは思ってもいなかっただけで。
将来の事を考えていっぱい勉強しなさいって親が……とは言っていたけれど、正直カズくんからするとリリちゃんに必要なのは勉強だけではないと思っている。
もうちょっと世間に目を向けた方が……とは思ったけれど、下手なことを言ってあんたがうちの子をたぶらかしたのね! なんて乗り込まれてはたまらない。
そういうのは自分で気付きを得てどうにかしてもらうしかない。もしくは、リリちゃんと仲良くしている同性のお友達から諭してもらうか。
リリちゃんについてカズくんはそれほど多くを知らないけれど、だからといって知ろう、知りたいとも思わなかったのである。何せそう思うよりも先にリリちゃんはカズくんの彼女であるアヤを悪く言い始めたので。
大学生にもなって数年もすれば学生と言われていても成人の仲間入りをしていてもおかしくはない年齢になるわけで。まだ若いから、と余裕をかましている者も多いが、中にはさっさと結婚したいと思ってる者もそれなりにいる。
カズくんにはアヤがいるのでそこら辺は他人事だけど、リリちゃんは違うらしい。
リリちゃんの両親に関してカズくんが知る事は少ないけれど、でも勉強をしていい学校に通ってその後いい会社に、というのであれば、リリちゃんには結婚して家庭に入れなどという古風な事を望んでいるわけでもないのだろう。自立した女性を目指させている、と見るべきか。
けれどもリリちゃんが自立できるかどうかは、なんというかカズくんの目から見ても微妙だったのだ。
勉強はできる。
けれどそれ以外が割と壊滅的。
親が買ってきた服を着ているので、自分が今着ている服が一体どれだけの値段がするかをわかってないし、自炊をするわけでもないからご飯はほぼ外食。しかも食生活が偏っているのをサプリで補っているけれど、その量が正直ちょっと異常だな、と思えるくらいで。
健康を維持しているはずなのにやたらと不健康そうな生活を送っているようにしか見えなかったし、身の回りの物を見るだけでも馬鹿みたいに金がかかっているのが窺えるのである。
その鞄、前に店で見た時ちょっとびっくりする値段だったと思うんだよなぁ……とカズくんは声に出さずに思った事もある。
アヤと結婚したらお金がいくらあっても足りないよ、なんていうけれど。
どちらかといえば、リリちゃんと結婚した方が早々に生活が破綻しそうだな、とカズくんは思うわけで。
というか、高校時代から彼女の事を悪く言う女である、というのもあって。
つい。
本当につい、ぽろっと。
カズくんはその言葉を漏らしてしまったのである。
更にはその言葉の後に、見栄をはって借金生活とかしそうだし無理、とまで言ってしまった。
そうなる、とは限らない。
けれども、今までの生活水準が普通で当たり前だという認識を持っているリリちゃんともし結婚したのであれば。
着ている服はブランドものだし、使っている化粧品だって親のを勝手に使ってるがそのお値段、数千円どころの話ではない。万単位だ。
カズくんの生活水準と比べると、明らかに異なっている。
家がお金持ちでそれが普通であればいいけれど、もしもの話でカズくんがリリちゃんと結婚した場合、今までみたいな生活をさせてあげるのは無理だと思っている。
食事だって家事はこれから覚えていけばいいのかもしれないけれど、そうなるまでは買ってきた惣菜がメインになるだろう。
お店で売っている惣菜は確かに種類が豊富だけれど、それでも自分で買うとなるとつい自分の好きな物を選びがちだ。
結果として足りない分をサプリで補っているといっても、その量がカズくんにしてみれば異常なくらいで。
考えたら考えただけ、やっぱ無理じゃないかなぁ、と思ってしまったのだ。
「俺はさ、大学卒業したらアヤと結婚するつもりだから。悪いけど諦めて」
そもそも、彼女がいる時点でとっくに諦めてるものだと思っていたのに未だ諦めてなかったというのもカズくん的には驚きなのだけれど。
流石にこれ以上想いを持たれ続けても困るのも事実。
だからこそ、改めてきっぱりとお断りしたのである。
――結果として、リリちゃんは元からわかりきっていたけれど、ここではっきりと失恋したわけだ。
とはいえまだまだ諦めきれず、サークルの飲み会でビールをごきゅごきゅ飲み干してクダを巻いてるわけなのだが。
周囲は元々望み薄だとわかってたはずなのに、ようやく自覚したのかぁ……と生温かい目を向けていた。
やってる事は横恋慕だったり略奪しようとしていたりと普通に考えると最低なのだが、リリちゃんがやった事のほとんどはお子様じみたもので、アヤにはほとんど何のダメージもないのである。
凄い、この子全部攻撃したら壁打ち状態で自分がダメージ食らってる……! と一部からはいっそすごいよとも思われる始末。
完全に見世物であった。
だが、流石にいい加減諦めて次の恋を見つけるなり、踏ん切りをつけるなりするべきである、と周囲も思ってはいたので。
とりあえず雑な慰めの言葉をかけつつ、当分恋をするよりは一人で自立した生き方とかもかっこいいよ、と別の道へ誘導しようとする者もいた。今はまだいいけれど、このままどんどん年を重ねて中高年世代に突入してもこの状態だったら流石に痛々しいと思ったのだろう。余計なお世話ではあるけれど、如何せんリリちゃんの精神年齢がどう足掻いても妹ポジションすぎて、万が一の可能性を捨てきれなかったのだ。
流石に、一応友人だと思ってる相手がある日ニュースで痴情の縺れで~なんて放送されたら居た堪れない。
だから今回の飲み会に参加した人たちは皆で軌道修正をはかったのである。
まぁ、結果としてそれが功を奏したのかはわからないが。
大学を卒業したリリちゃんは異性の少ない職場へ就職し、そのままほとんど新しい出会いもない生活をし、最終的には皆の妹みたいなポジションからバリキャリなお姉さんへと変貌を遂げたのだが。
その後も出会いがなさすぎて、お一人様をエンジョイする生活を過ごすことになったらしい。
なおその情報はどこから、となるとリリちゃんの職場繋がりの人なのだが、なんとその人はアヤの友人で、そういやこの前リリちゃんに会ってお茶してきた、と言われたカズくんが大層びっくりする、というオチも待ち構えていた。
今までさんざん悪く言おうとしていた相手というのも気にせずお茶をしていたアヤはなんでそこまで驚いてるのかさっぱりだった。アヤからするとリリちゃんの学生時代のあれこれは本当にノーダメージすぎたので。
直接ダメージを受けるような事になっていたら和気藹々とお茶なんぞしなかったけれど、そうじゃなかったので一切何も気にしていなかったのだ。
まぁそんな感じだったので。
女の友情ってわっかんねー、と漏らしたカズくんは多分悪くない。
正直アヤはリリちゃんの事、略奪しようとしてる悪女と思うよりも何か知らんがカズくんとの仲を結び付けようとする恋愛イベント起こしてくるキューピットくらいに思ってる節がある。それくらいリリちゃんのしでかしはアヤにとってノーダメージ。
次回短編予告
もう遅い系っぽい感じのやつ。火属性。